余話第21話 虹+1
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「崖にある洞窟?」
ドタバタと派手な足音を立てながら帰ってきた我が仔達が、口々に捲し立てた言葉を首を傾げながらどうにか聞き分けたミカゲは、確認するように繰り返した。
「そうだよ! マサオミおじさんがね、ニャオを元気にするにはバジリスクの毒がいるって言ってたの。だからあたし達で捕まえに行くの!」
「あの洞窟の奥の方に1匹住んでるんだ。ママ、行っていいでしょ?」
セイライとダイチがこてんと頭を傾けた。魔物の解体途中だったランリが口を真っ赤に染めたまま駆け寄ってくる。
「ねえ、その洞窟ってコウモリがたくさんいるところ?」
「うん! 前にダイチと奥まで冒険したんだけど、そこにいたんだよ」
「でも、フクマルおじさんのユニークスキルがあるのにバジリスクなんかが入ってこれるの?」
「結構奥だったから、たぶんユニークスキルの外側なんだと思う。森の中じゃ見たことのない魔物が他にもいたし」
「お前達だけでそんな楽しいことしたのか?」
「ずるい! なんで誘ってくれなかったんだよ!」
「あたしも行きたい!」
わらわらと近づいてきた仔ドラゴン達が責め立てると、セイライは申し訳なさそうに身を縮めて、ダイチはふん! とそっぽを向いた。
「ごめんね、次は一緒に冒険しようね」
「みんな誘ったけど、眠いーとか気分じゃないーとか言って来なかったじゃんか。特にセキレイ! お前、いつまでもそんな仔どもっぽいことしてんなよって笑っただろ!」
「あの時か! いつもの原っぱに行くと思ったんだよ!」
ダイチとセキレイが牙を剥き合って喧嘩を始めたのを見て、ミカゲは尻尾を鞭のようにしならせ、近くに生えていた木を叩き折った。
「喧嘩しないの」
「……はーい」
「……ごめんなさーい」
見慣れた木の哀れな姿にダイチ達は素直に謝った。よろしい、と頷いたミカゲが空を見上げる。
「まだ日は高い。行くんなら早い内がいい」
「行っていいの?」
「もちろんいいわ。だけど私もついて行くから」
巣立ちをして以来、常に1人で行動していたミカゲはバジリスクの毒の怖さを充分知っている。だからこそ仔ども達だけで行動させるわけにはいかなかった。しかし、ダイチとセイライは首を横に振った。
「ママは駄目だよ。あの洞窟狭いんだもん」
「おいら達ぐらいの大きさじゃないと入れないよ。だからママはニャオと一緒にいてあげて。絶対バジリスク捕まえてくるから」
にかっと笑うダイチに、他の仔ドラゴン達がぴったり寄り添った。同じ顔で笑う我が仔達を見下ろして、ミカゲは成長を喜ぶと同時に寂しさを覚えた。
「わかったわ、私の可愛い虹。気をつけて行ってらっしゃい。でも日暮れ前には戻ってきて。みんなで夕ご飯を食べようね」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」
仔ドラゴン達は元気に返事をして駆けていった。木陰の向こうに消えるまで見送ったミカゲは、肌身離さずつけている、ニャオからもらった神宝石に魔力を込め始めた。
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「ねえ、あたし達だけで行っていいのかな?」
きょうだい達と森の中を競争するように駆けていたセイライが、ぴたっと足を止めて言った。
「どういう意味?」
同じように立ち止まったミオリが尋ねる。
「だって、相手はバジリスクだよ? 仔どもだけで危ないところに行ったら駄目ってニャオ言ってたじゃん」
「確かに、今まではママとかレンゲ姉ちゃんとか、フクマルおじさんと一緒に行ってたよね」
止まる際、ミオリに撥ね飛ばされて転がったキイナが逆さまのまま答えた。
「じゃあ、誰かに言っていく?」
「でも誰に? モモコ?」
「モモコは今牧草地にいるよ」
「フクマルおじさんとレンゲ姉ちゃんは見回りに行ってていないし……」
「アーガスさん達はよその群れだからなぁ……」
7色の仔ドラゴン達が顔を寄せて誰に言うかを話し合っていると、小枝を踏む足音がした。
「……何をしているんですか?」
「あ、ニャルク」
マジックリュックを背負ったニャルクだった。
「大きにゃ花が咲いてるのかと思いましたよ。どうしたんです? こんにゃところで」
「今から崖の洞窟にみんなで行くの。ニャルクは何してんの?」
「キヨちゃんを運ぶ時に使う竹筒が合わにゃくにゃりそうだから、太めのを採りに行ってたんですよ」
ぽん、とマジックリュックの底を前足で叩くニャルクを見て、あ! とシキが声を上げた。
「ニャルクも一緒に行こうよ!」
「え? どこに?」
「洞窟!」
「にゃぜ?」
話の流れが見えずに首を傾げたニャルクそっちのけで、仔ドラゴン達は頷き合った。
「そうだよ、ニャルクがついてきてくれたらいいんだ!」
「それならママ達も安心だよね」
「行こうニャルク! ニャオの為に!」
「ちょちょちょ、待ってください待ってください。にゃんにゃんですか? 洞窟? ニャオさん? 説明してくださいよ」
前足を突き出して、待て、のポーズを取るニャルクの後ろに回ったランリがマジックリュックを咥えた。
「そぉれ!」
「うにゃにゃにゃあ?!」
ぽーん、と宙に放られたニャルクを、セイライが背中で受け止めた。
「ニャルク、しっかり掴まっててね」
「ちょっとちょっとちょっと?! まだ何も聞いてませんけど?! 僕はこれからニャオさんの看病があるんですよ?!」
「ニャオが元気になれば看病しなくていいんだよ! だから早く行って捕まえようね!」
「捕まえるって何を?! 待って待って飛ばにゃいで?! 降ろしてぇぇぇぇ!!」
仔ドラゴン達が飛び立ち、ニャルクの悲鳴が小さくなる。全員の神宝石がきらめいたが、気づく者は誰一人いなかった。




