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余話第20話 盗み聞き

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「まだ熱は引かないのか」


 ニャオ達の家の前で顔をしかめたアーガスに、アースレイは頷いた。


「嫌がりはしたけど、ネンジャ草はちゃんと全部食べてくれたから効果はあるはずなんだけど……」

「でももう3日目でしょう? さすがに長くない? 普通だったら次の日には下がってるはずだよね」


 耳をピンと立ててライドが言った。

 レンゲの勘違いでトーナ町の商人達が王都に飛ばされてすぐ、エルゲはアーガスとライドに残るよう言い残し、オードを伴って魔法陣をくぐって追いかけていった。その後アーガスは、“伝書小箱”を使ってニャオの発熱を報告したところ、副団長であるガレンから、〈水神の掌紋〉保有者の体調が回復するまで護衛せよ、と新たに命じられ、ライドと共にフクマルの森にとどまっているのだ。


「少しいいかね?」


 簾を捲って家から出てきたマサオミが、身軽な動作で地面に飛び降りてアーガス達に近づいた。


「マサオミさん、どうしたんだ?」

「ニャオさん、何かあった?」


 アーガスとエルゲが聞くと、マサオミは首を横に振った。


「ニャオ君は寝たままだよ。あの様子だと、日暮れまでは起きないだろうね」


 日暮れ……、と呟いて、アースレイは空を見上げた。太陽は傾き始めたばかりだ。


「戦争以前のことなのだが、今のニャオ君と同じ症状に陥った異世界人が何人かいたんだよ。熱が出て、何日も寝込んでしまった子らがね」

「そいつらはどうやったら治ったんだ?」

「時間が解決した子もいるし、王都の医療魔術師に視てもらった子もいる。発熱の原因は、体力が著しく消耗したところに魔力を大量に浴びたことによる体質変化だったんだよ」


 沈黙が流れる。マサオミは続けた。


「ニャオ君は過去に召喚された異世界人達に比べて、かなり魔力の保有量が少ないんだ。だけど“バンパイアシーフの短剣”に所有者に選ばれ、ネメアン・ライオンの力を、姿を手に入れた。そしてその膨大な魔力を体内に廻らせたまま長い時間を過ごしてしまったせいで、自分と、魔物との境が曖昧になっているんだよ」

「それって大丈夫なんですか? このまま熱が下がらなかったら、目覚めなかったらどうなるんです?」

「落ち着けアースレイ。落ち着けって」


 アーガスが、マサオミに詰め寄るアースレイの腕を掴んで引っ張り戻した。


「こんなこと聞いて、落ち着けるわけがないだろう! 魔物化した人間が今までどれだけいると思ってるんだ!」

「もちろん知ってるさ。俺達の隊からも何人か出たからな」


 アーガスのセリフに、ぐ、とアースレイは言葉に詰まった。


「身近にそういう奴がいたからこそ言えるんだ。落ち着け。騒いだところで解決はしねえ。やれることと、やらねえといけねえことを考えるんだ」


 じっ、と見据えられ、アースレイは項垂れた。


「マサオミさん。俺達はどうしたらいい? ナオにしてやれることはなんだ?」

「なんでも言ってください。俺頑張るから!」


 真剣な眼差しを向けてくるアーガスと、拳を握り締めて気合いを入れるライドに、マサオミは微笑みを浮かべて頷いた。


「あの症状が出た異世界人の中で、何をしても回復しなかった子らにはある魔物の毒を使っていたよ」

「魔物の毒?」

「左様。バジリスクの毒だ」


 え? とアースレイが驚いた顔で声を上げた。


「どうした?」

「あ、いえ。バジリスクといえば、ノヅキの父親が相討ちになった相手なんです。でも、なんでバジリスクの毒を使うんですか?」

「そのまま使うんじゃないよ。猛毒だから、下手をすれば死んでしまう。バジリスクの毒と数種類の薬草を使って、魔力を相殺させる薬を作るんだよ」


 マサオミの説明に、その場にいる全員が目を丸くした。


「マサオミさん、その薬作れるんですか?」

「ああ。戦時中、頼まれて何度か作ったことがあるよ」

「じゃあ、バジリスクの毒さえ手に入れられればナオさん元気になるってことだよね?」

「だが、バジリスクなんてどこにいるんだ? 最近は王都にも討伐やら捕獲やらの依頼は入ってきてねえぞ」

「ネメアン・ライオンと戦ったのは大型のバジリスクだろう? あれでは駄目だ。昔ながらの、原種に近い小型のものでなければ」

「それこそ探すのが厄介だな。とりあえず、エルゲに聞いてみるか」


 アーガスが紙に素早く書き込み、ライドとアースレイが額を突き合わせるように話し込む横で、マサオミは自身のマジックバッグの中の乾燥させた薬草を確認し始めた。


「ねえ聞いた?」


 一行から少し離れた茂みの中で、小さな影が動いた。セイライだ。


「聞いた聞いた」


 隣にいたダイチが、声を潜めて頷く。


「バジリスクだって」

「ちっちゃいバジリスクって言ってたね」

「あそこだよね」

「うん、あそこだ」


 セイライとダイチはお互いを見合って、頷き合った。そしてアースレイ達に気づかれないように足音を立てずに駆けていく。

 目指すのは、自分達が普段使っている寝床。寝込んでいるニャオに美味しい肉を食べてもらおうと、獲ってきた獲物を解体しているきょうだい達だ。

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