第136話 第二のダンディー
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「いやはや、見事な御手前。お若いのに、実に素晴らしい」
ガレンおじ様みたいなダンディーな人だな。エルフに美形が多いって言う設定の小説は多かったけど、やっぱりそうなのか。
……いや待て、今この人の言葉わかったぞ?
「あの……」
「このような場所に閉じ込められて早数日。腹も空いて、どうすべきか悩んでいたらまさかこのような出会いがあるとは。全く、人生というものはこれだからやめられない」
「ちょっと……?」
「とはいえ、この腹の減り具合は耐え難い。そこの方、出会ってばかりで申し訳ないが、何か食料を持っていたら少しばかりわけていただけるとありがたいのだが」
「あ、はい」
こっちの話聞く気ないなこのエルフ。そんなに腹減りなのか。
「これしかないんですけど、いいですか?」
刀を小脇に抱えてマジックバッグを漁ると、いつもみたいに林檎が入ってたから取り出すと、おじ様が目をキラキラさせた。
「なんと色艶のいい林檎なんだ! 早速いただいても?」
「はい、どうぞどうぞ」
手渡せば、おじ様は口を大きく開けて林檎にかぶりついた。あら、目が真ん丸になった。うちの林檎を初めて食べた人はみんなこんな反応なんだよね。
「素晴らしい、素晴らしいよ! こんなに蜜がたっぷり入った林檎は初めてだ! まだあるかい?」
「え? えーっと……、あ、もう2玉ありますね」
「ぜひ譲ってもらえないか? 礼ははずむよ」
礼って、まあこんな状況だからいらないけど。
「差し上げますよ。お腹空いてるんでしょう? どうぞ召し上がってください」
「本当かい? ではありがたくいただくよ」
なんか、福丸さんみたいな人だな。両手に林檎持ってにこにこ笑って。役に立てたならいいんだけど。……ちょっと待て、喉に詰まらせてないか? 水水! “乾き知らず”出してやるからここで死なないで寝覚め悪いから!
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「なるほど。では君は、禁術である異世界召喚の儀でこちらに喚ばれてしまった上に、なぜか人間達と言葉が通じない、というわけだね」
「はい。今のところ話せるのは、ケット・シーとドラゴン、ベアディハング、精霊ぐらいですね。あと、仲間の1人に〈万能言語〉を持ってる兎人がいるので、その人とも話せます」
初対面の人相手に話していいのかわからなかったけど、いつもの首筋に来るぞわぞわ感がなかったからまあ大丈夫なんだろうね、このエルフは。
「今まで出会ったエルフの中に、話せる者はいなかったのかな?」
「はい、いませんでした。あなたが初めてです」
マジックバッグに入れてたナイフで林檎を切る。兎の形にしておじ様に渡せば、にこにこしながら受け取ってくれた。
「なんで話せるのかわかります?」
「すまないが、わからない。何せこちらの世界に来る異世界人は皆言葉が通じる者達ばかりだったからね。君のような子は初めてだ」
ん? なんか異世界人を知ってるみたいな言い方だな。ああ、エルフって長寿なんだっけ。
「失礼ですが、おいくつなんですか?」
「私は800年は生きているよ。ハイエルフではないから、1000年ほどが平均だろうね」
おお、あと200年ぐらいか。
「じゃあ、神々が見守った戦争を体験した、ってことですか?」
「そうだね。大勢の命が奪われた、痛ましい惨劇だったよ」
おじ様は林檎を齧りながら目を閉じた。当時を思い出してるのか味わってるのかわからないな。たぶん前者だけど。
「すみません、嫌なこと聞いてしまって。あの、ここってどこなんですか? 私、家で寝てたらいきなりここに来てたんですけど」
話題を変えよう。こんな薄暗い場所でする話じゃない。気分が滅入ってしまう。
「ここは現実ではないよ。だけど君の体は家にはない。拐われた上で、夢を見せられているんだ」
なぜに?
「君は、トーナ町の商人が持っている木箱に触れたんだろう?」
「はい、触りました」
「今、君と私の体はその木箱の中にあって、眠らされている状態なんだ。夢を見せられているのは精神を疲弊される為。極限にまで疲れさせて、万が一目覚めた時に即座に反撃させないようにする為だろう」
なるほど。
「でもあの木箱、私達2人が入れるような大きさじゃなかったですよ? 子どもがやっとぐらいでしたけど」
「中が亜空間になっているんだ。人を隠せるぐらいのね。閉じ込められる前に確認したから間違いない」
「確認って、やっぱり変な感じがしたんですか? 調べようとして閉じ込められたと?」
「君が考えている通りだよ。いつもは人目につかないところで暮らしているんだが、久しぶりにカルカナの祭に参加したくて出てきたんだ。そうしたら妙な物を持つ連中がいたから調べてみれば、この有り様だ」
ははは、とおじ様が笑った。けどそれって巻き込まれてるんだよね。私のせいで。
「あのー、なんと言うか……。すみませんでした」
深々と頭を下げたら、おじ様が目を丸くした。
「トーナ町の奴ら、私を拐おうとしてたみたいなんです。いろいろあって、ロスネル帝国からつきまとわれてて。巻き込んじゃってすみません」
「君が謝ることではないね。悪いのは異国の奴らだ。それに、異変に気づきながら不用心に木箱に触れたのは私だ。私の落ち度だ」
目尻のしわが優しい。こんな風に笑う人って、戦争でどんな光景を見てきたんだろうか。
「ここは夢の中。普段起こらないことが起きる場所だ。君と私が話せるのも、夢だからこそだろう」
「夢だからこそ……」
「そうだ。おそらくだが、目覚めればこうやって語らうことはできなくなるだろうね」
おじ様に両手を握られた。しわが目立つ。温かい。
「夢で会えたのも何かの縁だ。目覚めるまで共に過ごさないか?」
「……ご迷惑でなけれは、お願いします」
「迷惑になどなるものか。こちらこそよろしく」
手を握り返したら嬉しそうに微笑まれた。なんかむず痒いな。
「あ、申し遅れました。私、星峰直央っていいます。みんなからはニャオって呼ばれてます」
「そうか。では私も倣った方がいいだろうね。よろしく、ニャオ君」
おお、君づけ。なんか新鮮。
「私の名前なんだが、しばらく前に捨ててしまったんだ。それ以降人と接することがあまりなかったから、名無しなんだよ」
「なんですかそれ」
「よかったら、君が名づけてくれないか?」
えー、何それ。いや、赤嶺達ので慣れてるけどさ。
「うーん……。じゃあ、政臣さんで」
「マサオミ? 由来はあるのかな?」
「私の親類の名前です。子どもの頃からかなりお世話になってる方なんです」
「そんな大切な方の名前をもらっていいのか?」
「はい、あなたさえよければ」
なんとなく、似てる感じがするんだよね。顔じゃなくて、雰囲気がさ。
「ありがとう。ではこれからはマサオミと名乗らせてもらうよ」
「よろしくお願いしますね、政臣さん」
政叔父さん、勝手に名前言っちゃってごめんね? でも許して。なんかこの人、凄く懐かしいんだ。




