第133話 木箱
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屋根に登るのは意外と簡単だった。爪が頑丈になってるから体重を支えるのも問題ないし、蹴る力も強くなってて壁を蹴ればやすやす上に行けた。
「おお、高い」
天辺に着いて立ち上がれば、ペリアッド町が一望できた。結構高い建物だったんだな。トーナ町の出店はどっちだろ。
「ニ、ニャオさん、早いよ」
「みゃぅぅ」
あ、アースレイさんと芒月が登ってきた。
「すみません、思いの外楽しくて」
「そりゃよかったね」
おぅ、棘のある言い方。ごめんってば。
「トーナ町の出店は向こうだよ。行けるところまで行こう」
アースレイさんが指差した方角を見る。あっちか。
「屋根伝いにそこそこ行けそうですね。早速行ってみましょう。芒月、落ちんように気をつけぇよ」
「みゃう!」
それからしばらく、アースレイさんが先頭、芒月が真ん中、最後が私の順番で進んだ。建物同士が離れてるところは芒月が跳べるか心配だったけど、割りとすんなり跳んだ。成長って早いんだね。ちょくちょく下を確認してたけど、誰にも気づかれなかった。まあこんなところを移動してる奴がいるとは思わないよね。
「そろそろ目的地だよ。ここからは普通の裏道を行こう」
屋根の隙間から下を確認したアースレイさんが振り返って言った。
「わかりました。芒月、おいで」
「みゃう」
呼ぶと、芒月は背中に飛びついて肩に爪を立ててきた。おぶれってか? いいよ。この姿ならまだできるからね。
舗装された道に戻って通りを覗くと、斜め向かいにトーナ町の出店が見えた。異国の品物が売ってあるからかなり目立ってる。お客さんが多い。
「何か怪しそうなところはあるかい?」
小声で聞いてきたアースレイさんに首を横に振った。
「見る限りはないですね。このまま観察しましょう。何か起こるかも」
「そうだね。ノヅキ、静かにできるかい?」
「みゃぅ」
うん、いい返事。
▷▷▷▷▷▷
1時間ぐらい待ってみたけど、これと言って怪しい動きはなかった。
「収穫はなさそうですね。もう帰ります?」
これ以上は時間の無駄かも。芒月なんて飽きちゃっていびきかいてるじゃん。
『✕、✕▽……』
あれ、アースレイさん〈万能言語〉解いちゃってる。もしかして結構無理してた?
「アースレイさん、もう帰りましょう。明日の準備もしないといけないですし、ニャルクさん達の帰りを待ちましょう」
バンクルを指差したり、マジックバッグからドライフルーツを入れるのに使ってる空瓶を出して見せたりしながら言えば、どうにか伝わったみたいで頷いてくれた。
驚かせないようにそっと芒月を起こして漣華さんを呼べば、魔法陣が浮かび上がった。アースレイさんがくぐって、芒月が続く。後を追う前にちらっと出店を見れば、ぐらっと景色が変わった。
地下室みたいな暗い部屋。壁にかけられた蝋燭が揺れてる。人影は3つ。1つの木箱を囲うように立っていた。
1人が呪文を唱えると、木箱がほんのり光り始めた。蛇が這うみたいに紋様が描かれていく。隣にいた人影が違う呪文を唱えれば、それは焦げみたいに木箱に貼りついた。
最後の1人が一回り大きな木箱を持ってきた。全員で紋様が刻まれた木箱をそれに納める。3人で詠唱すると、2つの木箱は1つになった。
「何をしておる?」
聞き慣れた声に目を覚ますと、空と漣華さんの顔が見えた。地面に仰向けに寝そべってる。いや倒れてる。
『△? □✕△○?』
「みゃう?」
アースレイさんと芒月が心配そうな顔をしてる。体を起こして周りを見れば、我が家の根元だった。
「漣華さん、ニャルクさん達は無事ですか?」
聞いてみれば、漣華さんは首を傾げた。
「神宝石やお守りからは危険は感じぬぞ。どうしたと言うんじゃ?」
とりあえず無事か、それはよかった。
「みんなを気をつけて見てもらってていいですか? トーナ町の商人達、商品を入れる木箱に術を施してます」
「術を?」
「どういうものかわかりませんが、水神さんが見せてくれました」
水神さん、と言えば、漣華さんの顔が険しくなった。その様子にアースレイさんも強張る。芒月は私達を順番に見上げて不安げに鳴いた。
今日は偶数日だからエルゲさんとライドさんが泊まりに来る日。見たことの報告と、何かしらの打つ手を考えないと。




