第132話 出店巡り
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祭4日目。エルゲさんとライドさんに護衛についてもらって、ニャルクさん達と一緒に祭に来た。お客として。
「まずは大通りの方を回りましょうか。例年の人気上位の出店が並んでるみたいだから、見応えがあるはずですよ」
祭に合わせて配られた地図を見ながらニャルクさんが言った。どこに誰の出店があるのか描かれてるらしい。これは助かる。
「レンテル家具店が、端材を使った家具を販売しとるらしい。行ってみらんかの?」
レンテル家具店。ああ、ダッドさんの知り合いの、マーニア夫妻の店だね。
「いいですね。新しい棚がほしかったんです。いいの残ってるかな……」
「こればっかりは行かねばわからん。ほれ、行こうぞ」
紫輝に跨がったイニャトさんがそう言うと、紫輝は小走りになって先頭に出た。青蕾がムッと口を尖らせる。
「シキー、ちゃんと並んで歩こうよ。人がいっぱいいるんだから、道に広がったら駄目なんだよ?」
「セイライうるさいー。そんなに離れてないじゃん」
「やめんか2人共。シキ、もう少しゆっくり歩け」
「なんでだよー」
「僕達はシキと一緒に歩きたいんですよ。ねえセイライ?」
青蕾のリードを持ってたニャルクさんが言えば、青蕾だけじゃなくて他の仔ドラゴン達と芒月も頷いた。
「そうだぞ。一緒に行こう」
「1人で行って怪我したらどうするの?」
「みんな一緒の方が楽しいじゃん」
「あたし達のこと怖い人もいるってニャオ言ってたよ。だから一緒にいようよ」
「みんなで美味しい物食べた方が楽しいよ」
「みゃう! みゃうぅぅ」
「な、なんだよみんなして……。わかったよ、一緒に行くよ」
おお、解決した。日々成長してるんだねぇ。エルゲさん達もほんわかした顔で見てるよ。癒されるもんなぁこのやり取り。
レンテル家具店の出店に着くと、マーニア夫妻は笑顔で迎えてくれた。私のライオン耳とエルゲさん達にちょっとびっくりしてたけど。
家具の販売ってだけあって、結構広くスペースを設けてたから見応えがあった。私は丁度いいサイズの棚を購入。端材で作ったとは言え、細かな飾りも施されててなかなかお洒落だ。
ニャルクさんは体に合った高さの小さい机を買った。イニャトさんは飾り棚。アースレイさんは2段の本棚で、シシュティさんは揺り椅子。見てたらほしくなったから、色違いの揺り椅子を私も買った。
エルゲさんもじっくり品定めしてから買い物してた。何を買ったのか見てみたら、なんと踏み台。王都にある私室に置いてある踏み台が壊れてて危ないらしい。王都でも買えるだろうに。ライドさんは見てただけ。というより、斜め向かいの出店で売ってる肉の串焼きを凝視してた。そこでお昼にしましょうかね。
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「それじゃあ、私達は先に戻りますね」
門の近くまで来て、体を擦りつけてくる芒月の頭を撫でながらニャルクさん達に声をかけた。
「買った家具とかその他は、一旦物置木に入れときます。明日の出店の準備しとくんで、晩ご飯は何か買ってきてもらっていいですか?」
「うむ、わかった。儂らはもう少し見て回るからの。2人だけで帰れるか? 大丈夫かの?」
「イニャト……。ニャオさんは大人にゃんだから、そんにゃに心配しにゃくて大丈夫ですよ。それに、門を出ればレンゲさんに魔法陣で家まで連れて帰ってもらうんですから、何かありようがにゃいじゃにゃいですか」
「それはそうじゃが……」
「ニャオさん、僕も一緒に帰るよ」
不安そうなイニャトさんに苦笑いしてたら、アースレイさんが隣に立った。
「もう出店巡りしなくていいんですか?」
「うん。楽しみは次の休みに取っておくよ。それに、雇用主を1人で歩かせるわけにはいかないからね」
雇用主? ……そういやそんな契約あったな。忘れてたよ。
「みゃう?」
「はいはい、一緒に帰ろうな。ニャルクさん、イニャトさん、人混みに気をつけてくださいね」
「はい、気をつけます」
「わかっとるわい」
「おチビ達。2人を困らせんように」
「「「「「「「はーい」」」」」」」
「姉さん、無駄遣いしたら駄目だよ。バウジオ、いざって時は噛みついてでも止めておくれ」
「ばっほい!」
『☓?!』
笑ってるエルゲさん達に手を振って門を出てから、バンクルに向かって漣華さんを呼んだ。目の前に見慣れた魔法陣が描き上げられる。アースレイさんと芒月と一緒にくぐると、ペリアッド町の細い裏通りに出た。
「よし、誰もいませんね」
「見られてたら意味がないからね」
「みゃう」
裏通りとはいえ祭の最中だから、誰かしらいるかもとは思ってたけど、無人で助かった。
「じゃあ、改めて確認するよ。僕達は町を出たことになってるから、人目につかないように行動する。目指すはトーナ町の商人達の出店。怪しい物がないか直に確認して、早々と撤収する。これで間違いないね?」
「はい、大丈夫です。ニャルクさん達には適当にぶらぶらしてもらって、店番してないトーナ町の商人に声をかけられないか、かけられたらどんな話題に喰いつくかを調べててもらうようお願いしてるんで、家に帰ったら確認しましょう」
「みゃう?」
小声で話してたら芒月が首を傾げてきた。喉を撫でればグルグル鳴らして甘えてくる。
「お前は物音を立てんように、静かにうちらの後ろをついといで。一緒にお仕事しよう」
「みゃう!」
「声も小さく、な?」
「みゃぅ」
よしよし、それでいい。
裏通りの終わりにおあつらえ向きに木箱が置かれてたから、そこに隠れながら本通りの様子を窺えば、相変わらずたくさんの人で賑わっていた。
「ここからじゃ出られない。屋根伝いに行こう」
「え? 屋根?」
登れと? 私に?
「今の君の身体能力なら行けるよ。ほら、頑張って」
「みゃぅっ」
「や、やってみます」
やれる? いややらないと。やってやるよこんちくしょうめ。




