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余話第15話 カルカナの祭

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

もう1話余話が続きます。

 春を祝うカルカナの祭が始まった。

 遥か昔、人間が生まれて間もない頃、妖精の悪戯で冬が終わらなかったこの地を憐れんだ廻りを司る精霊カルカナが、100の楽器を奏で、歌い、春を呼び込んだという神話がある。その神話を元に開催されるこの祭では、町内外を問わずたくさんの人々が訪れ、また様々な出店が並び、1年で最も活気づく時期でもある。

 賑わう町民達を眺めながら歩きつつ、斧のギルドマスターであるデリオドは険しい顔を崩さなかった。挨拶をされれば返すものの、どこか強張っている。


「こら」


 横から伸びてきた拳がデリオドのこめかみを小突いた。驚いて振り向いたデリオドは、小突いてきた人物に向かって不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「やめんかレドナ。職務中だぞ」

「あんたはそうでも周りは祭を楽しんでるんだ。ただでさえ仏頂面なのに、水を差すようなことするんじゃないよ」


 レドナが夫をたしなめる。うぐっ、と声を詰まらせたデリオドの後ろから、くすくすと笑い声がした。


「すみません、なんだか微笑ましくて」

「そんないいもんではないですよ、エルゲ隊長」


 はあ、とため息をついたデリオドに、レドナは怒り、エルゲとその両隣にいるアーガス、ライドが笑った。

 祭の間、町長と2人のギルドマスターは、有事の際すぐに対応できるようギルドで待機するのが常なのだが、今朝方町に到着したエルドレッド隊の隊長達を案内する役をデリオドが担っていた。そこに暇をしていたレドナが加わり、現在5人で人混みの中を移動している。


「町の警備を指揮しているのは、《ドラゴンの爪》と《グリフォンの翼》でしたね?」

「はい。去年の内に声をかけていたんです。AランクとBランクのパーティーに来てもらえて助かりました」

「どちらとも、それなりに人数のいるパーティーですからね。ペリアッドのような広い町を警備するには丁度いい」


 デリオドとエルゲが話している内容を聞きながら、アーガスは周囲を見回した。大勢いる町民の波の隙間に、見覚えのある冒険者がちらほら見えて頷くアーガスに、ライドが声をかける。


「全部でいくつのパーティーがいるんでしたっけ?」

「6つだ。ドラゴンとグリフォンの両パーティーが、それぞれ2パーティーずつに指示を出していると町長は言っていた」


 へぇ~、と間延びした返事をしたライドは、様々な香りに混ざったオードのにおいを嗅ぎつけて周囲を見渡したが、目当ての人物を見つけられなかった。


「それで、エルゲさん? 例の町の奴らを見つけたらどうするつもりなんだい?」


 レドナが聞いた。こら! とデリオドは妻の態度を叱ったが、いいんですよ、とエルゲは微笑んだ。


「どうもしませんよ。普通に出店を出して、販売している内は。怪しい動きをした時に動くだけです」


 穏やかに言うエルゲと、その後ろでにんまりアーガスの笑顔にデリオドは薄ら寒いものを覚え、レドナはふーんと返した。

 彼らが気にかけているのは、トーナという異国の町から来た商人達だ。カルカナの祭には毎年多くの異国の商人達が品物を売りにやってくるが、トーナの商人が来るのは今年が初めてだった。

 警戒する理由は1つ。その町がロスネル帝国に属しているからだ。

 終戦したとはいえ、アシュラン王国とロスネル帝国は仲よくなったわけではない。だが商人がいい品を求めて他国へ渡るのは当然である為、よほどのことがない限り止めることはできない。

 最近になって、アシュラン王はロスネル帝国の商団の入国、町への訪問を何度か許してきたが、今回の奴らの目的地はペリアッド町の祭であった。

 ペリアッド町には〈水神の掌紋〉保有者がよく訪れる。そしてトーナ町にはドレイファガス教の信者が少なからず住んでいる。アシュラン王は、エルゲ達にニャオを守るよう命じたのだ。

 以前皇帝の命令でニャオを拐いに来た男達がいたが、王都が抗議文を送ったところ、関与していない、戯れ言だと返されてしまった。騎士団が男達と皇帝の繋がりを見つけようと必死に調べ上げたが、確かな証拠を見つけることができず、今回の祭への参加を拒むことができなかった。


「今年の祭にはニャオ達も参加しているんです。トーナ町の商人が来ると聞いて、ギルド職員を常に近くに置いておこうか話し合っていましたから、騎士団の方達が来てくれて本当に助かりました」

「掌紋保有者には、エルドレッド隊はもちろん他の隊も恩があります。わずかな危険もなるべく遠ざけたいというのが本音ですね」

「聞いていますよ。トールレン町での騒動やユーシターナについて。しかもこの短期間で神託を2つも授かるとは。いやはや、とんでもない人間が近くにいたものだ」

「私としては、ぜひとも王都に移り住んでもらいたいものなんですけどねぇ」

「いやいや、それはニャオ自身が決めることでしょう」


 バチッ、と、デリオドとエルゲの間に火花が走る。レドナとアーガスが吹き出し、ライドは困ったように耳を倒した。


「あ! 斧のギルマスだ!」


 聞こえてきた子どもの声に、デリオド達が立ち止まる。人混みの中から出てきた顔を見て、デリオドは片手を上げて返事をした。


「おお、マイスじゃないか。お前のとこの農園も出店を出してるんだろう? 手伝わなくていいのか?」

「大丈夫! 父さんに言われて、俺達ニャオのところに行く途中なんだ」


 俺達、という単語に、デリオドはちらりとマイスの横を見た。顔立ちが似ている少女が1人いる。あ! とライドが声を上げた。


「君、ジアーナちゃんだよね? トールレン町の、ヴァラカン牧場の」

「お兄ちゃん達、あたし達を助けてくれた人だよね? あの時はお世話になりました!」


 ぺこり、と頭を下げるジアーナに、エルゲとアーガスは嬉しそうな顔をした。


「元気そうで何より。もうあんなことするんじゃねえぞ?」

「はい、気をつけます!」

「いいお返事ですねぇ。君達はお友達なんですか?」


 エルゲが尋ねれば、マイスは首を横に振った。


「俺達いとこなんだ。ニャオ達がジアーナを助けてくれたから、お礼を言いに行くんだよ。兄ちゃん達、エルドレッド隊だよな。ニャオのところに行くなら案内するぞ!」


 キラキラした笑顔で胸を張るマイスの頭を、アーガスがガシガシ撫で回した。


「お、そりゃありがたい。いっちょ頼むぜ」

「任せろ!」


 マイスが顔をくしゃくしゃにして笑った。そんな従兄を見てジアーナも笑っている。

 そっくりな笑顔の2人に先導されながら、一行は出店がある通りに向かって歩き始めた。

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