第128話 雪解けのお誘い
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雪解けが始まった。隠れてた地面が顔を出して、濡れた地面から草花が芽吹いてる。
みんなで一足早く春の訪れを祝って林檎ジュースで乾杯した夜、爆睡してる兄弟猫達を起こさないように家を出た。
向かう先はせせらぎの上流。どこにあるかわからない分岐点だ。ラタナさんが言ってた何かを探しに行く。何が起こるかわからないから、1人だけで行くって決めてた。だから誰にも言ってない。
「どこへ行く?」
……さすがにこの人の目からは逃げられんか。
「ちょっと散歩です。すぐ戻りますよ」
「危険な魔物がおらんとは言え、深夜の一人歩きは感心せんぞ」
寝てたはずの漣華さんが頭を上げた。残ってる雪に反射する月明かりが鱗に映ってキラキラしてる。でっかい星が目の前にあるみたい。
ここはもう素直に言うべきかな。
「実は、クァーディーニアさんがラタナさんの伝言を預かってくれてまして」
「伝言?」
首を傾げる漣華さんに、クァーディーニアさんから聞かされたことを説明すれば、ふむ、と頷かれた。
「そういうことじゃったか。しかし、ニャルク達に言わんでいいのか?」
「うーん。見つけられなかったら無駄足だし、何より分岐点までどれだけかかるかもわからないですからね。昼仕事で疲れてる皆さんに迷惑かけるわけにはいきませんから」
今の私の姿なら結構体力あるし、一晩寝ずに過ごしても次の日に響かないからね。
「そうか。では妾が共に行こう」
「え? でも眠いんじゃないですか?」
「一晩寝ずにおったからとてどうということはないわ。戦時中は1週間飛び続けておったこともある」
あれ? 心読まれてないよね? おんなじセリフなんだけど。
「歩くのか? 飛んでいくか?」
「そうですね……。途中までは乗せてもらっていいですか? 分岐点近くまで行ったら降りて歩きたいです。探さないといけないんで」
「わかった。では乗るがいい」
枝はまだ裸ん坊だから、よっぽど高くまで行かなければせせらぎは見えるからね。でもよく目を凝らしとかないと。
いつもはよいしょとよじ登る漣華さんの背中だけど、身体能力が上がってる今ならひょいと跳び乗れる。戻った時が大変だから、あんまり慣れたくないんだけどな。
「行くぞ」
「お願いします」
家から少し離れたところで漣華さんが羽ばたく。誰にも気づかれないまま、夜の空に舞い上がった。
▷▷▷▷▷▷
「あ、あそこじゃないですか?」
漣華さんのたてがみに埋もれて暖を取りながら下を見てたら、そんなに遠くないところに分岐点を見つけた。飛んでるから近いけど、歩くと30分ぐらいはかかるかな。
「ふむ。では降りよう」
「お願いします」
旋回した漣華さんが地面に足をつける。近くの木の枝についてた雫が飛んだ。
見渡してみても何もない。家の近くのせせらぎとあんまり景色も変わらない。強いて言うなら、せせらぎの幅が少し狭いくらいか。
「何かありそうか?」
「どうでしょう。昼間なら長閑な場所なんだろうなーぐらいにしか思えないですね」
落ちていた太めの枝を拾って、せせらぎの底をつついてみる。小石しかない。その小石をどけてみれば、大きい石の肌が見えた。
せせらぎに入って両手で小石を掘ると、角が丸い五角形っぽい石が出てきた。大きさはこの姿でようやく抱えられるくらい。持ち上げてみるとかなり重い。まあそりゃそうか。
「それが褒美か?」
漣華さんが首を伸ばしてきた。
「た、ぶんこれです。うん、これです」
なんだろう、これでいい気がする。
「ずいぶんあっさり見つかりましたね。もっと難儀するかと思いました」
見つけられるかは私次第、なんて言われてたのに、ちょっと拍子抜け。でもこれで漣華さんに寝てもらえる。よかったよかった。
「じゃあ帰りましょうか。これも乗せてもらっていいですか? ……漣華さん?」
どしたの? 木々の向こうなんか見ちゃって。なんかいる?
「見よ」
漣華さんが顎で示した方に目をやれば、ユーシターナが1匹舞っていた。あの川から結構離れてるのに、なんで?
「招かれておるぞ」
え? ユーシターナに?
「でも神託の中に、ユーシターナの最期を見届けてはいけないっていうのがあるんですよね? そろそろその最期の時期じゃないんですか?」
「そうじゃろうな。しかし招かれておるのじゃ。大した理由もなしに断るのは無礼であろう?」
神託は大した理由にゃならんのかね?
「断るのであれは無視して帰ればよいが、どうする?」
「うーーーーーん……。じゃ、行きましょうか」
正直、好奇心にゃ勝てません。行きましょ行きましょ。




