第127話 祭の準備
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迎えに来た騎竜隊と一緒に帰っていくイヴァさん達を見送って、ハノア農園への大量納品を終えた翌日、自分の出店で売る商品の準備をしていると、今の手の大きさの便利を痛感した。
大きめの瓶も掴めるし、いつもなら両手で持つサイズの物もひょいと持てる。未だに戻れないのはあれだけど、いい部分がどんどん見つかるから嬉しい。このままでもいっかなーなんて最近は思い始めてるくらいには馴染んできた。まあ強がりなんだけど。
「ニャオさん、進んでるかい?」
ごそごそと木箱の中身を整頓してたら、百子を食事から帰ってきたアースレイさんに声をかけられた。
「順調です。だいぶ作れましたよ」
体をのければ、アースレイさんが木箱を覗き込んできた。同じような木箱があと150箱もある。頑張ったよほんと。
「ドライフルーツが70箱で、ジュースが30箱。瓶詰めの桃のコンポートと、干しククルが25箱ずつですね」
ククルは前にイニャトさんから種をもらって育ててたんだけど、渋柿だったからそのまま食べられなかったんだよね。今までは干しククルにして私達だけで食べてたけど、祭に便乗して売ってみることにした。
この世界では渋柿は食べずに薬の原料にするみたい。だから一般には出回らないけど、面白いから種だけ集めておいたってイニャトさんは言ってた。試しに干してみたら、みんな結構気に入ってくれた。シシュティさん以外。
「姉さんは気に入らなかったみたいだけど、僕は好きだよ。食感がなんとも言えないけど」
「シシュティさん、苦手な甘さって言ってたんですよね。お酒とかケーキにも使えるみたいだし、今度試してみますね」
みんな食べてるのに、1人だけ食べられないなんて寂しいもんね。挑戦あるのみだ。
「イニャトさんの方はどうでした?」
「向こうも順調だよ。君達が隠れダンジョンで拾ってきた種がどんどん芽吹いてる。ダンジョンにいるユファネルが育てたダンジョン産の果樹なんて、滅多に出回らないからね。きっと完売するよ」
手綱を引かれてついてきた百子が手を舐めてくる。反対の手で耳の後ろを掻いてやってると、遠くから芒月の鳴き声が聞こえてきた。
「芒月ー、どしたー?」
そう声を張ると、茂みから芒月が飛び出してきた。あんた、雪かぶってんじゃん。寒がりどこ行ったのさ。
「みゃう!」
「はいはいおかえり。今日の獲物は?」
芒月、この一冬でこんなに大きくなっちゃって。最近は狩りにはまってるし、もうそんなに育ったのかって嬉しく思うのと、この姿でも抱っこがキツくなったのが少し寂しい。喜ばしいことなんだってわかってはいるんだけどねぇ。
「グルルルル」
いっちょ前に唸りながら引きずってきたのは、牛型の魔物グアンナの仔どもだった。
「おお、凄い。芒月、ありがとうな」
「みゃう!」
得意気に胸を張る芒月の頭にはうっすらたてがみが生え始めてる。パパライオン大きかったし、こいつもでかくなるよな。大人になっても町に入っていいか、ギルマス達に確認しとこう。
「ニャオー、ただいまー」
バサバサと羽音がして、空から赤嶺、黄菜、藍里が降りてきた。おかえりーって返してると、残りの4人がドタドタと駆け寄ってくる。
「セキレイ達早いー! もっとゆっくり行ってよー」
「お前達が遅いのが悪いんだろ」
「ミオリ達はまだ飛べないんだから、無理しなくていいよ?」
「キイナ! 自分が飛べるからって馬鹿にすんなよな!」
「してないよ?!」
「はいはいはいはい、喧嘩せんの。ママはどこ行ったん?」
帰ってきて早々喧しいなぁ。
「ママは狩った獲物持ってきてるよ。今日はね、あたし達みんなでリンドドレイクを捕まえたんだよ。ママの手助けなしでだよ? 凄いでしょ!」
緑織が鼻息荒く報告してきた。リンドドレイクって、確か翼がないドラゴンのことだよな。
「凄いなぁ、そんな大物捕まえたんか。じゃあ明日、レドナさんのところに持っていこうな。アースレイさん、つき添いお願いしていいですか?」
そう聞けば、アースレイさんは苦笑いした。
「そりゃもちろんいいけど……。レドナさんも、こうも頻繁にドラゴンを持ってこられるとは思わなかっただろうね」
「あー、あはは……」
つい頬を掻いてしまった。仔ドラゴン達が狩ったドラゴン種、これで3体目だもんなぁ。この前はクリスタルドラゴンで、その前がレッドドラゴン。……微妙な色の濃淡に物凄く見覚えがあったんだけど、気にしない気にしない。
修行の一環じゃ、とかなんとか言って、漣華さんがわざわざドラゴンがいるところにうちの親仔をユニークスキルで移動させちゃうもんだから、狩り放題なんだよね。でも今回のリンドドレイクはわりと近くまで来てたっぽいから、斧のギルマスに報告しとかないと。それもアースレイさんにお願いしとこう。
「みゃう、みゃうぅ」
「あ、ノヅキも狩ってる!」
「ほんとだ、グアンナだ!」
「やったねノヅキ、1人で狩るなんて凄いよ!」
「みゃう!」
自分が獲ってきた獲物を見てほしそうに、前足でちょんちょんとつついてた芒月に気づいた仔ドラゴン達が、揃って凄い凄いと言い始めた。いい仔らだねぇお前達。ニャオも嬉しいよ。
「冬の終わりはもうすぐだよ。商品はもう少し作る予定かい?」
「そうですね。目標が200箱だったんで、ドライフルーツと桃のコンポートをもう少し作ろうかなと」
「手伝うよ。何をすればいい?」
「じゃあ……」
やりたかったことをアースレイさんに手伝ってもらいながら時間を過ごしてたら、川に魚を捕まえに行ってた兄弟猫とシシュティさんが帰ってきた。釣果は一抱えあるようなでっかい魚が2匹。美味しそう。
そのすぐ後に、香梅さんにトリューフ探しを教えてもらってたバウジオも戻ってくる。ぞろぞろとついてくるのはいつぞやのブラックドッグが6頭と、ウェアウルフが5体。みんななんでか居着いてるし、福丸さんも追い出さないしで、なんとなく一緒にいる。厳つい顔してるけど、慣れてくると可愛く見えてくるから不思議。
おかえりって言えば、バウジオとブラックドッグ達が順番に撫でられに来た。ウェアウルフ達は両手に1つずつトリューフを持って自分の番を待ってる。今日は10個か。大量大量。
最後のウェアウルフの頭をわしわし撫でてたら、寝床で昼寝してた福丸さんが来た。魔犬達がいそいそと私の影に隠れる。隠れられてないからねお前達。




