第121話 光の糸
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体の中で何が渦巻いて、自分が変わっていくのがわかった。腕が伸びたし、1歩が大きい。
考えなくても自然に体が動く。マニさんがどう出るのか、どう剣を振るのか予測がつくから避けられるし、斬り込める。
目もよくなった。もともと眼鏡はいらなかったけど、前以上に物がはっきり見える。それに音もかなり聞こえる。だからと言ってうるさい感じはしないけど。
気が逸れたところにマニさんからの一撃を喰らって吹っ飛んでしまった。痛い。駆け寄ってこようとしたシシュティさんがピタッと止まった。なんか怖がってるけど私のせい? チラチラ見える尻尾、めちゃくちゃ見覚えのある形してるんだけど。私の尻から生えてるよね? 自前なのこれ? え、じゃあ耳もある?
「グルルルルルルルル……」
意識してないのに、そんな唸り声が喉から出た。これライオンだよね? 芒月のパパライオンだよね?
もう早く終わらせたい。シシュティさんもサスニエル隊の隊員達も癒したんだからマニさん捕まえてみんなのところに帰りたい。
警戒しながら近づけば、マニさんがわなわな震えだした。怒ってらっしゃる。叫びながら斬り込んできたからため息をついてしまった。シシュティさん達が回復した今、逃げられるわけないと思うんだけど。
短剣を構えてふと思った。これ、短剣でマニさんを斬って血を吸わせたら上書きされるんじゃないの?
それはまずい。非常にまずい。
後ろに跳んでマニさんから逃げる。いつの間にか伸びてた髪が数本斬られたけど、気にしてる余裕はないな。
短剣に血を浴びせないようにするにはどうしたらいいんだろう。剣を奪われただけでマニさんが降伏するとは思えない。確実に捕まえるには少しぐらい怪我をさせて、戦意喪失を狙わないといけない。
……そういえば、前に短剣を持ってた人は鞭みたいにして戦ってたって言ってなかったっけ? それができれば、短剣本体に血を浴びせずに済むんじゃなかろうか。
マニさんからの斬撃を交わしながら考える。鞭なんて使ったことないから無理だ。飛び道具にできれば一番いいかもしれないけど、下手したらシシュティさん達に当たりかねないから却下。適度な長さがあって、私にも扱いやすい得物……。あ。
「刀だな」
声に出して呟けば、私が何かすると思ったのかマニさんが飛び退いた。肩で息をしながらこっちを睨みつけてくる。普通にしてたら美人なのに、勿体ない。
まあそれは置いといて。“バンパイアシーフの短剣”を胸元で構えて、テレビの特番で見た刀を思い出す。なんて名前だっけ? まあいいか。
体の中に流れる魔力みたいなのが短剣に集まっていく。まばゆく光ったかと思えば、短い両刃は見事な刀に変わっていた。
「凄い」
銀色の刀身が雪を映して白く光ってる。重くもない。手に馴染んで使いやすそう。こりゃいいや。
両手で柄を握り込んで、切っ先をマニさんに向ける。目を見開いていたマニさんは、思い出したみたいに慌てて剣を向けてきた。
風が凪ぐ。雪が落ちる音が聞こえてきそうなほどに静かだ。マニさんだけを見据えて、雪を蹴る。
マニさんが下がった。その分追いかけて一閃すれば、剣が真っ二つに折れて飛んでいって、雪に刺さった。ヤバイな刀。凄い切れ味。
一瞬だけ硬直したマニさんが残りの剣を投げつけてきた。軽く避けられたけど、その隙にもっと距離を開けられる。空に向かって叫ぶマニさんに応えるように、大きな魔物が現れた。
「ワイバーンか」
美影さん達に狩り尽くされた生き残りかな。それか最初から待機してた1体か。
ワイバーンはまっすぐこっちに向かってきた。正面から来られたらさすがにまずい、と思っていたら、ワイバーンの影が起き上がって本体に噛みついた。
振り返ればシシュティさんが両手の指を絡めていた。〈影借り〉で助けてくれたんだ。ありがとね。
サスニエル隊の隊員達も加勢してくる。火魔法、風魔法でワイバーンを攻撃するけど、ワイバーンは怯まなかった。
「ギギィィィィィィィィッ!!」
喉笛を影に噛まれて、変な声でワイバーンは鳴いた。向こう側ではマニさんが詠唱してる。何するつもりかわからないけど、まずはワイバーンを止めないと。
サスニエル隊が放つ攻撃魔法をくぐり抜けて、ワイバーンの真横に立った。影を引き離そうともがくワイバーンに向かって刀を構える。ワイバーンがこっちを向く前に高く跳んで、太い首を斬り上げた。
激しい血飛沫が飛び散って、雪が真っ赤に染まる。振り切った刀を持ち直して振り下ろせば、ワイバーンの首がごとりと落ちた。
『○……』
シシュティさんが何か言った。芒月、お前えらいキラキラした顔でこっち見てんね。サスニエル隊の隊員達は揃ってあんぐりしてる。あれ、こいつの血ってほしかったりする? ごめんねこぼして。
ワイバーンの影が溶けるみたいに消えていった。マニさんの方に目をやれば、足元に魔法陣が光っていた。
マニさんの頭上にも同じ魔法陣が浮かび上がる。頭上の魔法陣から光の糸が下りてきた。
救いを求めるような表情で、マニさんが糸に手を伸ばした。サスニエル隊の1人が叫んで、全員で走っていく。止めようとしてんのかな?
下りてきた光の糸はマニさんの指先に振れようとした瞬間、ピタリと止まって消えてしまった。
糸を見上げて、場違いなまでに微笑んでいたマニさんの表情が固まった。震える声で魔法陣にこれでもかと手を伸ばす。
糸はするすると上がっていった。マニさんが悲鳴みたいな声を上げる。糸を吸い上げた魔法陣は、ワイバーンの影みたいに消えてしまった。




