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余話第13話 危機一髪

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

主人公視点を本編、三人称を余話とさせてもらっています。次の更新も余話になります。

 マニは賢い女だった。

 王都にある名門カルクレッド学園に通っていた頃、成績は常に1位を保ち、大勢いる学生の中で、教師からの信頼が最も厚い生徒だった。

 サスニエル隊に入隊したマニは隊員達にすぐに馴染み、当時の隊長、副隊長からあらゆる仕事を任され、完璧にこなすことで揺るぎない地位を得た。

 異国の本を読む為に異国語を学んでいたこともあり、アシュラン王国がある大陸とは違う大陸へ派遣されることも多々あった。

 マニは野心家ではなかった。

 名家の生まれではあるが、ほどほどに生き、それなりの年で許婚と結婚し、子を産み、慎ましく暮らすつもりだった。

 ユーシターナの鱗粉が例年の3分の2しか採れなかった年に、代用品を輸入している異国へ派遣されることになった。アシュラン王国がある大陸で、それに近い素材がないか調べる為である。

 マニは異国に2年間滞在した。そこで親しい友人ができた。

 友人はその国の魔術師だった。あらゆる魔法をマニに教え、マニはいけないことだと思いつつも、自国の魔法を友人に教えた。

 マニの帰国が迫った時、友人はある提案をした。

 親友になろう。遠く離れても親友でいよう。その為の儀式をしよう。

 マニは初めてとも言える親友の案を受け入れ、儀式を行った。

 望む物を見つけることはできなかったが、それ以上の者を見つけたマニは幸福な気持ちで帰国した。

 マニの左肩に施された刺青。それが親友との会話を可能とする術だった。だがそれを悟られるわけにはいかない。2人だけの秘密なのだから。

 最初に、マニは許婚との婚約を解消した。その役を妹に譲ると父親に進言したのだ。許婚はマニに理由を問い詰めたが、マニは答えなかった。

 次に、サスニエル隊の隊長と副隊長に異国の術を使い、少しずつ弱らせていった。誰にも気づかれないように、細心の注意を払いながら。2人は他の隊の隊長達よりも歳上ということもあり、不自然な様子もなく地位を退くことになった。

 ガルネ騎士団団長から、新しい隊長としてヴァルグが指名された。若く勢いもあり、隊員達を引っ張っていく才能があるとされたからだ。マニは確信した。自身が副隊長になると。

 しかし選ばれたのはルシナだった。エルドレッド隊、カリュー隊、騎竜隊の隊長達の総意だった。

 目立ちたくなかったマニは、親友から習った魔術を使い、他の隊員にルシナが選ばれた理由を調べさせた。結果、右手の親指の爪を噛み千切ることになり、流れた血をぬぐったハンカチは未だ洗っていない。


「つまんない理由だったわ。伸び代があるから副隊長の任につかせる、副隊長として動いてこそ育つ者だ、ですって」


 積もった雪に呻き声が染みる。降る雪が血を隠していく。マニは気だるげに剣を振るい、大粒の雪を斬り払った。


「エルゲ隊長達がルシナの名前を上げた時、私も賛成したわ。だってあの場で反対なんかしたら今まで大人しくしてたのが水の泡だもの。でも腸が煮えくり返る気分だった。あの子は気づかずに笑ってたけど。それも凄く腹立たしかった」


 シシュティはマニを刺激しないように、そっと周囲に目をやった。愛剣は手が届くか届かないかのところに落ちている。一緒に来た隊員達は急所の近くをやられて動けない。それはシシュティも同じだった。


「ジュアンナはね、優しい子なの。故郷のことを常に考えてるわ。そんな子から助けを求められたら応じないわけにはいかないでしょう?」

「自分は故郷を裏切ったのに?」


 ハン、とシシュティは鼻を鳴らした。比較的軽傷な隊員が近くの隊員に這い寄ろうとしたのを見たからだ。狙い通り、マニは目尻を吊り上げた。


「先に裏切ったのは国よ。国が私を裏切ったの。副隊長になれればロネンタ王国との交易を提案できたのに、隊員にそんな権限はない。だからボロボロにしてやるって決めたのよ」


 マニが雪を蹴りながらシシュティに近づいていく。シシュティは負傷した肩を押さえて身構えた。


「ユーシターナの鱗粉を集められなかったサスニエル隊は、ルシナは赤っ恥をかくわ。魔法薬の高騰の原因として、国民や貴族、家族から後ろ指を指されることになる。いい気味ね。そしてこの国はロネンタ王国にすがるしかなくなるわ。そうすれば、派遣歴がある私がロネンタ王国にもう一度行くことになるのは確実。そのまま向こうに住んでしまえば、私はジュアンナとずっと一緒に暮らせるの」


 マニはうっとりと目を細めたが、すぐにギロリとシシュティを睨みつけた。


「なのにあんた達が邪魔をした。あんたの弟も、ケット・シーも、ドラゴンも……。その上〈水神の掌紋〉保有者まででしゃばってくるなんて、あり得ないわ」


 マニが剣先をシシュティに突きつけた。


「私を殺してどうするの? あなたのやったことは既に王都に知らされてるんじゃない? 逃げ場なんてないんだから、大人しく捕まったらどう?」

「お生憎様。私にはジュアンナの術がある。合図を送ればロネンタ王国に召喚される手筈になってるの。誰も追ってこれないわ」


 痛む肩に歯を食い縛り、シシュティが愛剣を取ろうと手を伸ばす。マニが剣を振り上げた。


「関わったことを後悔することね。兎らしく森で草を食ってればいいものを!」


 マニの剣が振り下ろされる。シシュティの手は剣に届かなかった。

 雪の白よりも鋭い銀が眼前に迫る。避け切れない、とシシュティは悟った。


 キィィィィーーーーーーーーンッ!


 額を斬る直前に真横に逸れた剣先に、シシュティは目を丸くした。余裕だったマニが驚愕の表情を浮かべて後ずさる。雪を散らしてマニとの間に立ちはだかった小柄な背中に、シシュティは思わず泣きそうになった。


「ニャオさん!」


 びっくりしているノヅキを抱え、“バンパイアシーフの短剣”を片手に肩で息をするニャオが、その切っ先をまっすぐマニに向けていた。

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