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第118話 襲撃

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 魔物の叫び声が耳をつんざいた。森の中から、空の上から。

 アースレイさんが剣を抜く。イヴァさんが杖を構えて、カフクルが飛んでいった。一瞬遅れてサスニエル隊の隊員達が武器を取ったと同時に、私達の上を影が横切った。


「にゃんと……、あれはワイバーンではにゃいか?!」

「それだけじゃにゃい……。ブラックドッグとウェアウルフまで?!」


 イニャトさんが空を、ニャルクさんが森を見て叫んだ。美影さんが咆哮を上げて、仔ドラゴン達が真似をする。芒月がしがみついてきて、バウジオは牙を剥いて唸った。

 シシュティさんが両手を絡めて祈るような仕草をした。川面と雪の上に浮かんでた魔物達の影が起き上がって、それぞれの本体に向かって攻撃を始める。〈影借り〉だ。


『✕✕! ▽✕▽△!?』


 ルシナさんがマニさんに詰め寄る。マニさんはにっこり微笑んだ。場違いなまでの優しい顔で、マニさんはルシナさんを突き飛ばした。

 驚愕に目を見開いたルシナさんの体がぐらつく。数歩下がって、川に落ちてしまった。

 芒月をイニャトさんに手渡して走り出す。“バンパイアシーフの短剣”を抜いて胸元で構えて、川に飛び込んだ。

 水神さんのおかげで私は平気だけど、この冬の川は人間が耐えられる水温じゃない。早く陸に上げないとまずい。

 下流に目を向ければ流されていくルシナさんが見えた。手足が力なく流れに揺れてる。川底を駆けて追いつけば、ルシナさんは気を失っていた。

 落ちただけで? と思ったけど、服がめくれた拍子にマニさんが突いた肩に魔法陣が見えた。これのせいか。頬を叩くけど目を覚まさない。どうしよう。どうしたらいい? 考えていたら、ドボンッ、と水音がした。

 川面を見上げれば、2体のウェアウルフが飛び込んできたところだった。器用に手足を動かして泳いでくる。こりゃまずい。


「ルシナさん起きて! 起きてってば!」


 ちょっと強めに叩いてみるけど起きない。ウェアウルフ達が距離を詰めてくる。しょうがない、と思い切って掌紋をルシナさんの額に当てた。

 水神さん水神さんこの人を起こしてくださいあと呼吸もできるようにお願いします!

 掌紋が熱くなると、ルシナさんが激しく咳き込んだ。泡に驚いてもがき始めたルシナさんの顔をがっちり掴んで真正面から目を覗き込む。


「落ち着いて。息はできるでしょう? 副隊長にまでなれたんだからこういう時はちゃんと踏ん張って気合い入れて」


 言葉はもちろん通じてない。でも言ってることがなんとなく伝わったのか、2、3回呼吸したルシナさんは頷いてくれた。

 こっちはもう大丈夫。問題はあっちだな。

 ルシナさんから離れてウェアウルフ達の方を見れば、もうすぐそこまで迫ってた。

 “バンパイアシーフの短剣”を構えると、ルシナさんが私の前に出た。魔石のペンダントを握って呪文を唱える。あれ? イヴァさんとかニャルクさん達って詠唱してたっけ?

 魔石が光を放ち始めて、ウェアウルフ達が呻き声を上げる。1頭が素早く離れると、残った1頭の頭がはじけ飛んだ。えぐい。逃げたウェアウルフは体をブルブル震わせると、牙を剥いて雄叫びを上げた。

 衝撃波みたいなものが放たれた。当たったらただじゃすまないことはわかる。ルシナさんが呪文を唱えかけた時、特大の火の玉が降ってきた。水に触れているのに威力が弱まらない火の玉の直撃を受けたウェアウルフは黒焦げになって息絶えた。


「……」

『……』


 無言でルシナさんと顔を見合わせてしまった。火の玉が飛んできた方を見れば、見知った赤が宙返りしながらクルルクルルと笑ってた。


「やったー! ぼくがたおしたんだからね! ニャオ、ママとレンゲねえちゃんにほめるように言ってよね!」

「うん、言っとくよ。ありがとな」


 赤嶺や、本当に助かったわ。ありがとありがと。

 ルシナさんは、案の定というかなんというか、赤嶺を見て固まってる。凄いでしょうちの仔。


「赤嶺、上はどうなっとる? みんなは?」


 そう聞けば、赤嶺は元気に答えてくれた。


「ワイバーンはママといっぱいいる人間たちがたおしてくれたよ。ニャルクにいちゃんたちもたたかってた。でっかい犬はバウジオがおせっきょうしてるよ」


 お説教? バウジオが? ウェアウルフとブラックドッグ相手に? そういえばバウジオは4分の1がブラックドッグだってニャルクさん達言ってたな。その関連か?


「他に何かあったか?」

「マニって人はにげちゃった。シシティねえちゃんと、鳥みたいな人が追いかけていったよ」


 鳥みたいな人……。ルイって人か。お前、相変わらずシシュティさんの名前は言えないのね。他の仔もだけど。


「シシュティさんだけ? アースレイさんは?」

「アースレイにいちゃんはね、けがしちゃった。リラって人かばったんだよ」


 キュウゥゥ、と赤嶺が悲しそうに喉を鳴らした。


「怪我したんか……。とりあえず戻ろう。ポーションは持っとるからな」


 マジックバッグをぽんぽんと叩けば、赤嶺の顔がパッと明るくなった。


「赤嶺、ルシナさんに岸に上がるって言ってもらえる? 早くアースレイさんの傷見たいし」

「わかった。ねーねー、ルシナねえちゃん。早く上にいこーよー」


 赤嶺が泳いで近づけば、ルシナさんはビクッと肩を震わせた。怖くないよ?

 私も身振り手振りで伝えてどうにか頷いてもらって、3人で川面を目指す。ようやっと水から顔を出せば、ニャルクさんがマジックリュックに入れてたポーションでアースレイさんの傷を治してる最中だった。よかったよかった。

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