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第117話 違和感

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 イヴァさんの〈星詠み〉によると、半鳥人のリラって人の感情が夜の間に高ぶったらしい。何があったのかまではわからないけど、不審な動きをした人はその人だけだって言われたから、リラさんが怪しいってことになった。でもなんだろう、胸に違和感がある。

 前々からよく聞く〈星詠み〉っていうレアスキルは幅広い意味で使われていて、天気の予測とか遠くの物事の確認が可能で、魔力の高い人なら多少の未来も見ることができるってイニャトさんが教えてくれた。ようは見えないものを見るレアスキルの総称みたいな感じかな。〈星詠み〉はレアスキルの中でも結構使える人が多いけど、能力の差が激しいからランク分けされてるみたいで、イヴァさんはSランクらしい。凄い。

 そんなわけで翌日、昼前。私達はサスニエル隊のところに行った。現在イヴァさんとヴァルグさんとルシナさんが睨み合ってる。1人になるのを嫌がった芒月も一緒だ。毛布にくるまったままだけど。


『✕✕▽! □○▽✕✕!』

『○~、△□□○✕~?』

『✕! ✕✕?!』


 ヴァルグさんとルシナさんが激しい口調でイヴァさんに迫る。イヴァさんは涼しい顔で流してるけど、かなり強い言葉みたい。イヴァさんの顔に影が入り始めてるし、足元にいる仔ドラゴン達の体が強張ってる。

 私達の後ろには美影さんが待機してくれてるから滅多なことは起こらないはず。バウジオも左隣にピッタリくっついてくれてるし、“バンパイアシーフの短剣”もすぐに抜けるように腰に差してある。

 アースレイさんは私の右隣で様子を窺ってる。シシュティさんはニャルクさん達の傍にいて、イヴァさんに何かあればすぐ動けるように警戒してくれてる。


「のうニャルクや。ヴァルグ隊長殿はあんにゃ顔じゃったかのう?」


 ひそひそとイニャトさんがニャルクさんに聞いた。ニャルクさんが首を傾げる。


「うーん、にゃんか雰囲気が違いますね。にゃんというか、攻撃的ににゃってるというか……」

「うむ。うまく言えんが、そんにゃ感じじゃのう」


 雰囲気が違う? 私が会った時と変わりないように見えるけど。でもなんとなくわかるかも。

 騎士団から隊長職を任されるほどの人なら、頭ごなしに私を追い返したり、厄介者扱いしたりしないと思うんだよね。自分で言うのもなんだけど、一応水神さんの加護持ってるんだしさ。ましてや蒼い林檎の存在を知ってるくらいならラタナさんとのことも知ってるよね? しかも神託って判断されたのも、隊長なら知らされないはずないと思うんだけど。

 少し離れてこっちの様子を窺ってる隊員達の中に、半鳥人と鳥人がいた。あの人がリラさんか。他にそれらしい人がいないから間違いない。


『✕▽✕△! □✕✕!』


 ルシナさんの口調が一段と強くなる。雪が降り始めた。掌を上に向ければ、数粒降ってきてすぐに溶けた。


「イヴァさん達はどんな話をしてるんですか?」


 聞いてみれば、ニャルクさんが答えてくれた。


「クァーディーニアさんからの頼まれ事と、鱗粉集めの邪魔をしてる人がサスニエル隊の中にいることは既に話し終えたので、今はリラさんと直接話したいと交渉してます」

「で、向こうは拒んでると?」

「そうですねぇ。まああちらからすれば、さして好きでもにゃい相手に仲間を疑われてるんですから面白くはにゃいですよね」


 そりゃそうだ。


「しかし、隊長殿は本当にどうしたんじゃ? あれではまるでキタヌに林檎を横取りされたフクマル殿ではにゃいか」

「いやいや、それは言い過ぎですよ。食べようと膝に確保してた林檎を橙地に食べられたフクマルさんぐらいでしょう」


 どっちも福丸さんじゃん。確かにあのでっかい狸みたいな魔物に林檎をかすめ取られた福丸さんのぶちギレ方は普通じゃなかったけどさ。てかさ、こっちでそんな話してる内にイヴァさん達の方もっと険悪になってるんだけど。

 激しく罵るルシナさんが腰の剣に手をかけてる。今にも抜きそうだな。ヴァルグさんは宥めながらもイヴァさんから目を離さない。向こう側では涙ぐむリラさんを他の隊員達が慰めてる。

 どうにかならないもんか。正直、リラさんが犯人とも言い切れないんだよね。現状一番怪しいのがあの半鳥人だってことはわかるけど、こんなことしてなんの得になるんだろう。

 そんな風に考えてたら、目の前の景色が霞んできた。みんなの姿が二重、三重に見える。擦るけど治らない。


「ニャオさん、どうしました?」


 ニャルクさんに聞かれたけど、どう答えたもんか。霞む視界の中でイヴァさんが振り返ったのがわかった。たぶん、ヴァルグさんとルシナさんもこっちを見てる。

 頭をぶるぶる振ってみるけど、これでも駄目。むしろますます霞みが酷くなった。

 膝から力が抜ける。芒月を落とさないようしっかり抱えた。首を伸ばしてきた美影さんに支えられて倒れることはなかったけど、頭がどんどん重くなってくる。


「しっかりせんか」

「横ににゃりますか?」


 ニャルクさん達の声がぼんやりと聞こえた。目を開けると、磨りガラスみたいな視界の中に、1人だけはっきり見える人がいた。

 口元を片手で覆ってこっちを見てる。心配してる感じを装ってるのがばればれだ。目が怖い。

 あれが誰なのか知ってる。ここに来た時、イニャトさんが名前がわかる人を小声で教えてくれたから。

 スーッと頭痛が引いたかと思ったら視界も元に戻った。美影さんにお礼を言ってしっかり立って、“バンパイアシーフの短剣”に手をかける。


『○✕?』


 アースレイさんとシシュティさんが顔を覗き込んでくる。2人にもわかるように、私は指差した。


「あの人だ」


 指し示した先で、マニさんが無表情のまま指を鳴らした。

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