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余話第12話 差し入れ

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

余話を挟ませていただきました。明日は本編になります。

「これは美味い! ペリアッド町では質のいい果物が売っていると聞いたことがあるが、これほどとは思わなかった」

「確か、トールレン町を救った蒼い林檎も売ってるんですよね。あれはないんですか?」

「すまんのう。今回は持ってこんかったんじゃ。少しではあるが、次は用意しよう」

「あ、すみません。ねだったみたいになってしまって」

「いえ、お気ににゃさらず。あれも町では売れ筋にゃんですよ」


 シュテムを差し入れに来たニャルク達は、ヴァルグ達サスニエル隊を相手にほのぼのと会話を続けた。木々の間を音を立てずに走るアースレイに気づかないように、次々と果実を取り出し視線を集めながら。


「これがモラで、こっちがスイカです。皆さんは塩漬けで召し上がることが多いと思いますが、熟すととても甘くて美味しいとニャオさんが教えてくれてから、僕達はこの状態の物をよく食べるんです」

「ニャルクさん。林檎をもらっていいですか?」

「ええ、もちろんですよ」


 林檎を受け取ったシシュティが兎の形に切っていく。サスニエル隊の隊員達は子どものような目でシシュティの手元を見つめた。


「はいできあがり。とりあえず、1人1つでお願いしますね」

「いただいてもいいかしら?」


 真っ先に声をかけたのは半鳥人のリラである。その後ろには鳥人のルイがぴったりくっついている。


「もちろんです。どうぞ」

「ありがとう。ほら、ルイもお礼を言って」

「ありがとう!」


 ルイは腕と一体化している翼をバサバサと羽ばたかせて喜んだ。リラが林檎の兎を差し出すと、くちばしで咥えて頭を振り上げるようにして丸呑みにする。パチッと目を見開いたルイは、もっともっととリラにねだり、リラは口に手を当ててくすくすと笑った。


「赤い林檎はいっぱい持ってきたんで、一通り行き渡ったらお好きに取っていってください」

「フクマル殿のお気に入りじゃからのう。食べるんにゃら今の内じゃぞ。ほれ食え」


 ニャルクが背負うマジックリュックから蜜柑を取り出すイニャトの言葉に、ヴァルグがピクリと反応した。


「ベアディハングはいないのか?」

「うむ。今朝から姿が見えんのじゃよ。レンゲ殿、ユルクルクスもにゃ。時折姿を消すことがあるから気にしてはおらんよ」


 にゃほほほほ、と笑うイニャトに、ヴァルグは苦笑いを浮かべた。


「肝の据わったケット・シーだな。さすが、あの伝説の魔物達と暮らしているだけはある」

「僕達も最初は怖かったですよ。でもニャオさんが普通に接しているのを見てたら、まあ、怖がる相手じゃにゃいかにゃって思い始めたんです」

「左様。今ではフクマル殿にゃどただの林檎狂いにしか見とらんわい。フクマル殿がおればこの場に林檎を持ってくることは叶わんかったんじゃぞ? ありがたく食え」

「はっはっはっ! それはそれは、貴重な品だな。心していただこう」


 シシュティから受け取った林檎の兎をシャクッと齧ったヴァルグが目を見開く。そして笑った。


「シュテムも美味いが、これもなかなか。王都では売らんのか?」

「今のところ、そこまで規模を拡大する予定はにゃいんです。ニャオさんも商人ギルドに登録して日が浅いですし。何より王都まで運搬する方法がにゃいんです」

「ならば俺の弟を紹介しようか? 弟は肉専門の商人をしていて、美味い肉の為なら大陸中を走り回るような奴だ。これは果物だがら専門外ではあるが、きっと気に入るぞ。そうすれば、果物を扱う商人に話を回してくれるかもしれん。どうだ?」

「果実を育てておるのはニャオじゃ。あやつに聞かんと答えられんよ」

「そうか。ぜひ聞いてみてくれ」


 頼むぞ、と言って、ヴァルグは川の対岸に目を向けた。

 対岸ではニャオと7色の仔ドラゴン達が追いかけっこをして遊んでいた。近くにはブラックドラゴンのミカゲがいて、我が仔達を見守っている。

 ヴァルグは残っていた林檎を口に放り込んで、あまり噛まずに飲み込んだ。


「お前達もそうだが、〈水神の掌紋〉保有者の肝の据わり方もかなりのもんだな。母ドラゴンの目の前で仔ドラゴンと遊ぶとは……」

「あやつはあれが普通じゃよ」


 にゃほ、と、笑っているのかわからない短さでイニャトは返事をした。その隣でニャルクとシシュティが遠い目をする。ルシナが蜜柑の皮を剥きながら尋ねた。


「イヴァンナが体調不良と聞きましたが、どんな調子なんです?」

「なんか、寒気と吐き気がするって言ってました。だからニャオさん達の家で休んでもらってます」


 そう返すシシュティに、ふーん、とルシナは頷いた。


「大人しくしてるのはいいですけど、私達サスニエル隊に同行したから体調を崩したみたいに言われるのは嫌ですね。原因はなんですか?」

「さ、さあ。私は医学には詳しくないからなんとも……。でも、イヴァさんはそんなこと言わないんじゃないですか?」


 どうだか、とルシナは鼻を鳴らした。


「あいつが仲よしなのはエルドレッド隊ですからね。今回だって、エルゲ隊長達がよかったって思ってるはずですよ。こっちだってあんな奴連れてきたくなかったのに」

「ルシナ、言い過ぎよ」


 苛立つルシナを1人の女性隊員が宥めに来た。


「マニ……」

「気に入らないのはわかるわ。だけど仕事なんだから、割り切りましょう。あなた、副隊長でしょう? 隊員達が真似したらどうするの?」

「それは、そうだけど……」


 マニの言葉に、ルシナがしゅんと項垂れる。イニャトはヴァルグに小声で尋ねた。


「ヴァルグ隊長殿、あのマニというのは誰じゃ?」

「ルシナの従姉だ。前々からこの隊に所属していて、ルシナが副隊長になるのを推薦した1人だ」


 ふむ、とイニャトは頷いた。


「イヴァ殿は体調が戻るまで儂らの家で預かるぞ。無理をして悪化したら大変じゃしの。お前さんら、病人の相手をできんぐらい忙しいんじゃろう?」

「ああ、そうだとも!」


 ヴァルグの声が大きくなった。


「ユーシターナの鱗粉が突然採れ始めてな。今までの遅れを取り戻さねばならん。そろそろ作業を再開せねば」

「にゃんで採れにくかったんじゃろうにゃあ?」

「それはわからん。後日調査隊を派遣するつもりだ。来年、再来年の為に調べ上げておかねば」


 そこまで言って、ヴァルグはハッとした顔で腰を屈めてイニャトに顔を近づけた。


「掌紋の保有者に伝えてはもらえんか? 先日は無礼を働いてすまないと。思い返せば、あれは隊長としてあるまじき行為だった」

「そうじゃにゃあ。呼ばれたのに追い返されたからのう」

「ぐ……、す、すまない……」


 ちらっと、ヴァルグは対岸を見た。

 先ほどまでニャオが追いかけていたのに、今は仔ドラゴン達がニャオを追いかけている。1対7である。ミカゲは太陽の光に微睡んでいる。


「まあ、あやつはネチネチ言わん奴じゃからにゃ。気にせんでよかろう。謝罪は伝えておくよ」

「頼む。お前達も、すまなかった」


 頭を下げるヴァルグに、大丈夫じゃよ~、とイニャトは返した。


「姉さん」


 ガサガサと音を立てて、アースレイが木々の間から現れた。


「アース! どうしたの?」


 切りかけの林檎を近くの隊員に手渡して、シシュティは弟に駆け寄った。突然出てきた冒険者に隊員達が身構える。


「コウメさんはちょっと前に川の向こうに帰ったみたいだ。リスが教えてくれたよ」

「そうだったんだ」


 シシュティがほっと胸を撫で下ろす。ルシナが首を傾げた。


「コウメとは、どなたですか?」

「僕達と一緒に住んでるグリンブルスティですよ。しばらく家に戻ってなくて、捜してたんです」


 そう言って、ニャルクはマジックリュックの蓋を閉じた。


「では、僕達はそろそろ戻ります。皆さん、お仕事頑張ってください」

「もちろんだ。差し入れありがとう。次は掌紋保有者も連れてきてほしい。俺から直接謝りたい」


 ニャルクと握手を交わしてから、ヴァルグは対岸を振り返った。

 追いかけっこにミカゲが参戦している。1対8だ。ミカゲに足を咥えられたニャオが逆さ釣りにされていて、下から仔ドラゴン達がピョンピョン跳び跳ねてニャオの髪を噛もうとしている。


「……あれは大丈夫なのか?」

「普通じゃよ」


 にゃほほほほほほほほ、と、イニャトは長めに笑った。

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