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第112話 魔蝶の正体

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

〖ユーシターナはいろんな者達から魔蝶と認識されてるけど、実際は花の花粉なんだ〗

「花粉とにゃ?」

〖そうだよ。僕と同じ風の精霊にシルフェイアってのがいるんだけど、そいつは1年に一度だけ花が咲く地で微睡むんだ。その時に精霊の気を吸った花から飛んだ花粉が蝶に変化して舞い踊るんだよ。元は花粉だから卵や蛹は存在しない。昆虫としての繁殖もしない。ただその場で舞って、春が来る前に消えるんだ〗

「ただ舞うだけにゃら、にゃんで蝶の形ににゃるんですか? 本当になんの意味もにゃく舞うだけ?」

〖僕もシルフェイアに聞いたことがあるんだけど、あいつもなんでああなるのか知らないんだって。というか、僕達はあんまり気にしないんだよ。全ては神様の意思のもとに成り立つ現象だからね〗


 クァーディーニアさんが両手で抱えたシュテムに齧りつく。桃の皮を剥いて小さく切ってからお皿に盛った。


「じゃあ、サスニエル隊の人達が集めてるのは鱗粉じゃなくて花粉ってことですか?」

〖正確に言えばそうだね。だけど、ただの花粉を集めてもあの人間達がほしがってる粉にはならない。シルフェイアの気を直に浴びた花から舞った花粉じゃないと駄目なんだよ〗


 シュテムを平らげたクァーディーニアさんが桃を手に取った。もう少し小さく切るべきだったな。


「今年の花粉の量が少ないのはなんでですか? 原因はわかります?」

〖花粉は例年通りだよ。問題なのは空気だ〗


 空気? なんで?


〖あの川を中心に、微量だけど悪い魔力が流されてる。それがユーシターナ達の翅にくっついて花粉が舞うのを止めてるんだ〗


 ん? 流されてるって?


「あの、その魔力、誰かが意図的に流してるってことですか?」

〖そうだよ〗


 随分あっさり言うな。


「待ってください。あそこにはサスニエル隊がいるんですよね? なのに誰がそんなことをするんです? 国に刃を向けているようなものじゃないですか」


 アースレイさんが言うと、隣でシシュティさんがうんうんと頷いた。いつの間に来たの?


「こっち側の森には僕達しかいませんけど、向こう側の森にはサスニエル隊とイヴァさん以外に誰かがいるんですか?」


 ニャルクさんが聞くと、クァーディーニアさんは桃をごくりと飲み込んだ。


〖奴からしたら、サスニエル隊がいた方がいいんだよ。というか、サスニエル隊じゃなきゃ駄目なんだ〗


 サスニエル隊じゃないと駄目? ってことは……。


「悪い魔力を流してるのは、サスニエル隊の誰か、ってことですね」


 そう言えば、ニャルクさん達がギョッとした顔でこっちを見た。


「これニャオ。滅多なことを言うもんではにゃい。サスニエル隊はアシュラン王国を守る騎士団の一角じゃぞ?」

「そうだよ。疑っていいような相手じゃない。こんなこと、サスニエル隊に聞かれでもしたら」

〖君達こそもっと疑うべきだよ〗


 クァーディーニアさんがピシャリと言った。


精霊(ぼくたち)から見れば、騎士団だろうが貴族だろうが欲深い人間でしかないよ。金や性をちらつかせたら簡単に引っかかる。いつぞやの司祭だって堕落したじゃないか〗


 司祭……。ニャルクさん達に教えてもらったニセ司教か。

 クァーディーニアさんは、一欠片の桃をよいしょと抱えると、テーブルから舞い上がった。


〖ユーシターナは翅にある花粉を落とし切ったら形を失くす。それにかかる期間がだいたい一冬なんだけど、過去に一度だけ、人間達が知り得ないほどの昔に、蝶の形のまま春を迎えたことがある。原因はわからなかったけど、それから数年間魔物の凶暴化が相次いだんだ〗

「凶暴化って、なんでですか?」

〖おそらくだけど、自然の廻りであるユーシターナが還るべき形に還れなかったことで、魔力が毒されたんだと思う。今年のユーシターナも花粉に還れなければ、過去の二の舞になる。それを君達に止めてもらいたいんだ〗


 アースレイさん達が顔を見合わせる。イニャトさんがガシガシと頭を掻いた。


「じゃが儂らはサスニエル隊から煙たがられておる故、近づけば警戒されてしまう。どうしろと言うんじゃ?」

〖そこはほら、どうにかしてよ〗


 え、なんで急に軽いノリになっちゃうの? 


〖ユーシターナはシルフェイアの気から生まれた、謂わば期間限定の分身みたいなものだから、僕は手出しできない。しばらく森にとどまるからなんとかしてほしい。いざって時はビャクレンを頼るといいよ〗


 漣華さんを? そういやどこに……いた。

 それなりに離れたところに漣華さんはいた。足元には仔ドラゴン達がいて、両隣には美影さんと福丸さん。まだ林檎食ってるよ。


〖ラタナのところの問題を解決した君達ならきっとできるよ。じゃ、頑張ってね〗

「え? あ、ちょっと! クァーディーニアさーん!」


 ああ、行ってしまった。せめて誰が犯人かぐらいは聞いときたかったなぁ。


「やれやれ。やっと行ったか」

「やっと行ったかって、早々距離取ってた人が何言ってんですか。ていうか、漣華さんは悪い魔力ってのに気づかなかったんですか?」


 さっき一緒にサスニエル隊のところに行ったのに、変な感じとかしなかったのかね?


「精霊共は妾達魔物よりも気の流れに敏感なんじゃ。故にどんな些細なことにも気づく。そなた、蟻が餌場への行きと帰りの道を小石1つ分ずらしたとして気づけるか?」


 ああー、そんな小さな変化なのね。なるほど。気づかん。


「ニャオさん、お話終わった?」


 美影さんが頭を下げて聞いてきた。仔ドラゴン達もぽてぽてついてくる。大人しくできて偉いね。


「終わりましたよー。待たせちゃってすみません」


 喉を撫でてやれば、美影さんはいつもみたいにクルルルルッて鳴いた。


「まあ、頼まれたからには頑張ってみよ。まずはイヴァンナと合流するがいい。あやつならば大丈夫じゃ」

「引き受けるなんて言ってないんですけど……」

「断るか?」

「やりますよ」


 かなり強引だったけど、魔物が暴れ回ったら大変だからね。やれるだけやってみますか。

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