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第110話 桁が……。

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

明日は余話を更新予定です。

「なんて?」


 捌いたグアンナのビーフシチューを食べながら、いい依頼がないか町へ出ていたアースレイさん達から聞いた話にぱちくりしてしまった。


「だから、斧のギルマスからトールレン町での報酬を預かってきたんだよ。はい、2000万エル。1年通して分割で支払われるらしいよ」


 ドン、と目の前に置かれた札束に驚いてるのは私だけだった。ニャルクさんもイニャトさんも納得したみたいに頷いてる。これ相場なの?


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください。月に2000万エル? この世界って確か14ヶ月ありますよね? じゃあアタナヤの件の報酬って……」

「2億8000万エルじゃにゃ」


 2億……、て、なんでそんな平然と言ってのけるの? 億って言ってんだよ?


「あと、お肉もたくさんもらったよ。牛肉やら豚肉やら鶏肉やら。牧場主達が配達員のマジックバッグにこれでもかってぐらい詰めたみたいだね。後日王都から追加報酬が支払われるらしいよ。アタナヤの情報料だってさ」


 アタナヤの? そういやそんな話聞いた気がする。え? まだ増えんの? 肉はありがたいけど懐はパンパンよ?


「で、こっちがサスニエル隊が持ってきてくれた報酬だよ。エルドレッド隊の3つの依頼の分」


 ドンッ、とまた札束が置かれる。2000万エルが小山に見える。


「えっと……、おいくら?」

「サタニの実の分が1億5000万エル、失せ物探しが8000万エル、ユーシターナ発見が7000万エル。ユーシターナの分は採取できた量に応じて上乗せされるらしいから、今のところ3億エルだね」


 3億、サンオク、さんおく……。とんでもないことになった。


「こんな額持って歩いて、不安じゃなかったですか……?」

「平常心でいられたと思うかい?」


 アースレイさんがビーフシチューを頬張った。隣にいるシシュティさんはさっきから物凄くちまちま食べてる。なんかごめんね?


「2000万エルならともかく、こんな額今まで持ったことも見たこともない。レンゲさんがくれたお守りがあるとはいえ、さすがに冷や冷やしたよ」


 そう言ってアースレイさんは垂れ耳につけた耳飾りを触った。前に取ってきた神宝石を加工したアメジストのカフだ。シシュティさんの垂れ耳には、エンセルトっていう虹色に輝くダイヤモンドみたいなイヤリングがついてる。


「これがあるのに不安も何もにゃかろう。のうニャルクや」

「イニャトは気にしにゃさ過ぎです。億超えは僕でもちょっとは気にしますよ」


 エメラルドのペンダントトップを触りながら、アースレイさん達に呆れた顔をするイニャトさんを、ニャルクさんが呆れ顔でじっとり見る。いや、あんたもちょっとぐらいなんかい。

 バウジオにはニャルクさん達と同じデザインのペリドットのペンダントトップを、美影さんと仔ドラゴン達には魔物の革で作ったチョーカーにそれぞれの体の色と同じ色合いの神宝石をあげた。芒月にも同じチョーカータイプで、神宝石はサファイア。仔どもらはどんどん成長するけど、革部分はそれに合わせてかなり伸びる優れものらしい。しかも苦しくないっていうんだから凄い。

 香梅さんにはカシャーナっていう赤い神宝石がついた首輪を用意したんだけど、気に入らなかったのか首輪を噛んで振り回したかと思ったら神宝石だけ噛み千切って呑み込んじゃったんだよね。吐かせようとしたけど無理だったし、漣華さんはこれはこれでいいって言ってたからそのままにしてる。だから清ちゃんにも同じように小粒のカーネリアンを呑んでもらった。最初は真ん中ぐらいがこりこりしてたけど、今は何もない。消化したのかな?


「そういえば、あれはどうするんじゃ?」

「あれですか?」

「ほれ、お前さんのバンクルについとるのと同じ神宝石を使ったピアスじゃよ」

「ああ、持ってますよ」


 物置木の枝にかけてたマジックバッグから木の小箱を取り出して、蓋を開けた。小粒のアクアリファスのピアスが入ってる。私が選んだ原石には大粒と小粒のアクアリファスが入ってたみたいで、小粒の方も加工してくれたらしい。私は穴を開けてないし、シシュティさんはほしがったけど、兎の獣人族は耳をいじらないから諦めてた。


「ピアスはどうするんだい? 誰かにあげるとか?」

「うーん、まあそうなりますかね。とりあえず持っときますけど」


 急いで決める必要はないよね。というか、今はこの3億をどうするか考えたい。


「これどうします? 3億なんてどう使えばいいんですか?」

「貯金しとけばいいんじゃにゃいですか? ほしい物にゃんてその内見つかりますよ」


 貯金……。貯金か……。果実を売ったお金ですら余ってるのに、ほんとどうしよう……。


「はあ……」


 ついため息をついてしまうと、イニャトさんがにゃほほって笑われた。ちくしょうめ。

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