第108話 失せ物と探し物
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サタニの実は全部で400個ぐらい採れた。解体屋の作業員達とギルド職員達が木箱に詰めてせっせと運んでいく。運び終わる前に、サタニの果樹は枯れてしまった。
種としては脆過ぎるよなぁ。ほんと、イニャトさんはなんで持ってたんだろう。知らないからなんとも思わずに受け取っちゃったけどさ。
2つ目の依頼は失せ物探しだった。とある貴族の家宝で、結構前に盗まれたらしい。こっちも簡単に片づいた。
まず斧のギルマスにアシュラン王国全土が載ってる地図を出してもらって、水神さんにお願いして盗まれた物がある場所に目印をつけてもらった。地図上に浮かんだ掌紋と同じ紋様が、東側にある町を指す。その町の地図を出してもらってもう一度お願いすれば、ある貴族の豪邸を示された。
アースレイさん曰く、その貴族は被害に遭った貴族と対立関係にあるらしく、ことあるごとに突っかかっては迷惑をかけてるんだとか。だからって盗みはいけないよね。
探索結果を伝える為の書類を斧のギルマスに書いてもらってる間に、3つ目の依頼を確認すると、魔蝶の捜索だった。
「ユーシターナという、水色の透けた翅が特徴的な魔蝶だね。この魔蝶の鱗粉は魔法薬の材料になるんだ。だから王都の人間は冬になるとユーシターナを探しに行くんだけど、今年は難航してるみたいだね」
「決まった生息地はないんですか?」
「ユーシターナは冬の訪れと共にアシュラン王国に現れるんだけど、どこから来るのか、幼虫や蛹がどんな姿なのか、全くわからないんだ。突然1ヵ所に群れで現れて、突然いなくなる不思議な魔蝶なんだよ。いつもは〈星詠み〉のスキルを持つ人が居場所を特定してるんだけど、今年は詠めないって依頼書に書いてある。ユーシターナの鱗粉がないと、いろんな魔法薬が作れなくなるから価格が上がるんだ」
ほうほう。それは冒険者やら何やらが困るね。じゃあ水神さんに聞いてみようか。
畳んで置いていたアシュラン王国の地図を広げて、もう一度水神さんに聞いてみる。また紋様が地図上に浮かび上がって、一点を示す。
「ここですね」
そう言うと、アースレイさんとシシュティさんが怪訝な顔で見合った。なんぞ?
「……本当にここなのかい? いや、水神様を疑うわけじゃないけど……」
「なんか不都合でもあります?」
「いや、そういうわけじゃ……」
煮え切らないな。どうしたの?
「……ニャオさん、ここがどこだかわかるかい?」
そう言って、アースレイさんは紋様を指差した。
「あー……、すみません、よくわからないです」
近場のとか、拡大されてる地図ならある程度わかるけど、こんなに広い地図じゃさすがにわからないな。町名とか川の名前も書かれてはいるけど読めないし。
「じゃあこの川の形は?」
「これですか?」
「そう。見覚えはない?」
……言われてみれば、なんとなく。いやちょっと待ってよ。
「あの、ここって……」
「うん。お察しの通り、僕達が住んでるフクマルさんの森だよ」
マジかー。
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斧のギルマスに別れを告げて、ゲットしてまだ日が浅い商人ギルドの登録証を門番に見せてからペリアッド町を出る。待ってた漣華さんにお願いして、ユニークスキルで目的地に連れてってもらう。アースレイさん達と出会った後に、美影さんがブルードラゴンと戦ったあの川だ。
「お見事……」
神秘的な光景につい呟いてしまった。
陽の光を反射して煌めく、川面と雪と魔蝶。ユーシターナの群れが目の前で華麗に舞っていた。
「こんなにたくさん……。全然気づかなかった……」
「僕もだよ……」
『◎✕……』
3人並んで見入ってしまった。シシュティさんが手を握ってきたから握り返す。アースレイさんは肩に手を回してきた。
「これの鱗粉がいるのか?」
漣華さんの首が魔法陣からニョキッと生えてきた。
「そうですね。いっぱいほしいみたいなんですけど」
「しかし、鱗粉を採るには慣れた者がいるぞ。そなたらでは無理じゃ」
そっか。じゃあどうしよう?
「最善策としては、王都から採取する人間を派遣させることじゃな。それが一番確実じゃろう」
「王都から? でもここ、福丸さんの森ですよ? 嫌がるんじゃないですか?」
「川向かいにテントを張らせればよかろう。渡るなと言っておけば渡らんじゃろうて」
確かに、漣華さんと福丸さんがそう言えば渡っては来ないだろうね。うん、そうしよっか。
ユーシターナを見つけたことと、川向かいでの野営なら大丈夫ってことは、漣華さんが斧のギルマスに伝えてくれた。数日の内には派遣されるんじゃないかな。
これでエルゲさんからの依頼は全部こなせたね。よしよし、上出来上出来。
……なんでご指名だったんだろう?




