第107話 3つの依頼
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「なんか来ましたね」
作業する手を止めて“伝書小箱”を開けてみれば、3つに折り畳まれた紙が入っていた。そのままニャルクさんに手渡す。
「斧のギルマスからですね。何々……。ニャオさん、次に町に来る時にギルドに顔を出してほしいそうですよ。伝えたいことがあるんだとか」
「ギルドに……。手紙じゃ駄目な内容なんですね」
そのようですねぇ、とニャルクさんに返された。
「いつ行くんじゃ? 次の納品の時か?」
「いや、明日行ってきます。急ぎだと悪いし」
「じゃあ僕達が護衛につくよ。ニャルクさん達には家の方を頼めるかな?」
「うむ、任された」
イニャトさんが返事をする。そうと決まれば早く寝ないとね。
▷▷▷▷▷▷
「エルドレッド隊から?」
翌日、斧のギルマスの部屋にいつも通り通されてアースレイさんが聞いてくれたところ、馴染みのある名前が出てきた。
『◎▽□○、□□△?』
『△✕□、◎、▽□◎○□』
シシュティさんと斧のギルマスが話し始める。アースレイさんが続きを教えてくれた。
「エルドレッド隊のエルゲ隊長から、ニャオさん宛に3つほど依頼が来たらしいよ」
「依頼? 私に?」
まさかのご指名? そんなことってあるの?
「内容としては、1つ目はサタニという果実の栽培と収穫。これは薬の原料になる果実で、質がいい実ほどいい薬ができるんだ。幅広い効能があるから、王都では常に研究されてる物の1つなんだ」
「あ、これですか?」
マジックバッグから今言われた果実をひょいと取り出せば、アースレイさんが目を真ん丸にした。シシュティさんと斧のギルマスからも二度見される。
「ニ、ニャオさん、それをどこで?」
「どこでって、この前芒月が風邪を引いて鼻水ズルズル言わせてたでしょう? あの時イニャトさんに種を渡されて、実らせたのがこれです」
そういえば、アースレイさん達にはこの果実のこと言ってなかったな。水辺の日陰でよく育つって言われたからそういう目立たない場所を選んだし、何より実を10個ぐらいつけたら次の日には果樹ごと枯れちゃったんだよね。残念無念。
「ニャオさん、サタニは絶滅危惧種なんだよ」
「え?」
「果樹の栽培が難しい上に、実をつけたらすぐに枯れてしまうから、生果は存在しないと聞くよ。王都が研究に使ってるのは長期保存する為に乾燥させた物なんだ。それの在庫が切れかかってるから、エルゲ隊長は君に依頼したかったみたいだよ。ほら、これが同封された種」
は~、この実がそんなに貴重だとは。知らなんだ。
「確かに、イニャトさんがくれた種と同じですね」
「イニャトさんはなんでこの種を持ってたんだい?」
「それは知らない。で、エルゲさんは何個ほしいって書いてたんです?」
「実らせることができたなら、できるだけたくさんほしいって書いてあるよ」
そっかそっか。じゃあ実らせましょうかね。
斧のギルマスにお願いして、移動したのは解体屋の裏手。ここは大型の魔物を解体する為の広場と、血を流す川がある。ちなみに流れた血は水底の魔石が即座に浄化するから町民の生活には問題ないらしい。
今は広場を使うような解体作業はないみたいだからここを使わせてもらうことにした。解体屋の作業員の人達や女主人も出てきてわくわくしながらこっちを見てる。アースレイさんに女主人の名前がレドナさんだって教えてもらった。斧のギルマスはデリオドさんで、2人は夫婦らしい。やるねぇギルマス。
「あそこなら建物の影があるから丁度いいかも。試してみていいですか?」
聞いてみると、アースレイさんがレドナさんに許可を取ってくれた。よし、始めよう。
エルゲさんが送ってきた種は5粒。うまく行く保証はないから、とりあえず1粒植えてみる。
軽く土を掘って、種を置いて土をかぶせる。優しくぽんぽん叩いて地面をならしてから、川の水で掌を濡らした。
水神さん水神さん、このサタニの木を育てて実らせてください。たくさん生ったら嬉しいです。
合掌した後、川の水を手の器で掬って種を植えた地面にかける。直後、勢いよくサタニの木が成長して、またもや葉っぱで顎を叩かれた私は後ろに吹っ飛んだ。地面で後頭部を打つ前に、シシュティさんが支えてくれて助かった。危うくたんこぶつくるとこだったよ。
顎をさすりながら立派に成長した果樹を見れば、小さなピンク色の花がたくさん咲いて、散って、サタニの実が鈴生りに生った。
「果樹1本でこの量か……。まずまずじゃないですか?」
福丸さんの森に植えてある林檎ほどじゃないけど、かなりの数収穫できると思う。
「アースレイさん、これでいいか斧のギルマスに……聞い、て……?」
アースレイさんを振り返れば、サタニの果樹を見上げてあんぐりしてた。斧のギルマスと解体屋の作業員達も。シシュティさんとレドナさんはキラキラ笑顔だ。
アースレイさんの目の前で掌を振っても反応がない。しょうがない、残りの種も植えますかね。




