第93話 しみじみ
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1歩進んだだけで湖に着いた。徒歩だったらどれぐらいかかるんだろうねここ。
ニャルクさん達が出てきた後、漣華さんも新しい魔法陣から首だけ出してきた。その格好楽なんだろうか。チンアナゴみたい。
「ここが水源ですね」
「そうじゃ。人間共はメナ湖と呼んでおる」
メナ湖か。広さの割にかなり澄んでるな。水神さんに見せてもらった景色にそっくり。
湖の縁に、大量の水が流れていく立派な造りの水門があった。埋め込まれた2つの魔石が光ってる。一際強く光ったと思ったら、ゆっくりした動きで水門が閉じ始めた。
「魔力がここまで届いたようじゃな。これで余計な卵が町へ流れることはあるまい」
「でも、閉じる前に流れてしまった卵は少なからずありますよね。どうしましょう?」
「適任がおるではないか。セキレイ、ダイチ、キイナ」
漣華さんが呼ぶと、3人が駆け寄った。リードを持ってた私もついていく。
「そなたら、この水路を下り卵を1つ残らず潰してこい。一番多く潰した者には妾から褒美をやろう」
「ごほうびー?」
「なーにー?」
「特別に、森に戻ったら妾の頭の上で昼寝をする権利をやろう」
ふふん、と鼻を鳴らした漣華さんに、仔ドラゴン達は後ろ脚で立ち上がって喜んだ。
「ぼくー! ぼくいちばんやっつけるー!」
「ぼくだよー!」
「あたしだもーん!」
「ほれ、早う行け。潰し終えたら戻ってくるんじゃぞ。それと、この水路は途中にもう3つ水門がある故、ぶつからんようにせいよ」
「「「はーい!」」」
我先にと走り始めた仔ドラゴン達から急いでハーネスを外すと、勢いよく水に飛び込んでいった。残った4人がぶーぶー言い始める。
「ねーねー、あたしはー?」
「あたしもおひるねしたいー」
「ぼくもー!」
「レンゲねーちゃーん」
仔ドラゴン達に囲まれた漣華さんは、生首のままくつくつと笑った。
「安心せい。そなたらにも競争してもらう。これからニャオ達がこの湖を調べる間、全員の警護をせよ。最も活躍した者には妾の皮膜、翼の柔らかいところで跳ねて遊ぶことを許そう」
漣華さんから提案されたご褒美ににっこり笑った仔ドラゴン達に、早くハーネスを外してとせがまれる。まあ待てお前達。
「あの、湖には魔物はいないんですか? アタナヤの成虫とかいたりしません? 赤嶺達行っちゃったけど、危なくないですか?」
もし危険な魔物がいるんなら呼び戻さないといけない。美影さんのいないところで危険に晒すわけにはいかないよ。送り出した時点で漣華さん的には問題ないんだろうけど、やっぱり心配だ。
「なあに、この湖には魔力を持つ生き物はおるが、セキレイ達にとって敵ではないわ。それに、こやつらには普段から妾が直々に戦いの基礎を教えておるからのう。準備運動にもならんわ」
は? 基礎を教えてる? 初耳なんですけど?
「ほれ、ハーネスとやらを外してやれ。万が一の時は妾が加勢する故、そうびくつくでない」
「はあ……」
ここまで言うんだったら従うしかないかな。まあ紫輝達の戦い方から見るに、結構鍛えられてるっぽいし。何より経験が大事だもんね。
▷▷▷▷▷▷
漣華さんの指揮のもと、私達は4組に別れた。
まずエルゲさんがリーダーを務める、ニャルクさんとバウジオ、ライドさんがいるチーム。警護は青蕾。
次にアーガスさんがリーダーになったチーム。イニャトさんとオードさんがメンバーで、警護は紫輝。
そしてイヴァさんは藍里と一緒。
最後に私。相棒は緑織だ。
エルゲさんチーム、アーガスさんチーム、イヴァさんペアは各自思い思いに調べるようになったから、水質を調べたり、魔法で湖底を探ったり、陸を回ったりしてる。私も湖を調べようと思って覗き込んでみたけど、数粒の卵が漂ってることと、水が異様に澄んでること以外わからなかった。
「ニャオー、なにかあったー?」
私の真似をして湖を覗き込んでた緑織が見上げてきた。
「うーん、よくわからんなぁ。緑織はなんか見える?」
「あいつらがいっぱいいるー」
「あいつらって、卵のこと?」
「そーだよー。あっちのほうまでいっぱいだよー」
そう言って緑織が鼻先で示したのは、湖の中央だった。思わず顔をしかめてしまう。
湖の縁にいてもこれだけの数の卵が目視できるんだから、水中に漂う卵の数は万単位かもしれない。水門を閉じたとしても、卵をどうにかしないといずれは畜産の町が大変なことになる可能性は充分にある。
よし、と意気込んで、両掌を湖の水で濡らして立ち上がった。
「どうしたのー?」
「緑織。湖の真ん中に行こう」
そう言えば、緑織は不思議そうな顔で首を傾げた。
「およぐのー?」
「いや、泳がんよ。歩いていく」
掌を合わせて瞼を閉じて、水神さんにお願いする。イメージするのはいつかの川渡りだ。
水神さん水神さん。湖の真ん中まで行きたいので、足場を作ってください。
瞼を開ければ湖面に紋様が浮かんでた。これで行けるね。ありがとうございます水神さん。
「うっし、緑織おいで。抱っこしたげる」
「だっこー!」
両手を広げれば、ちっちゃい緑がぴょんと飛び乗ってきた。少し重くなってる気がする。この仔らを抱っこできるのはいつまでだろうね。
腰に下げた竹筒を確認する。うん、清ちゃんに異常なし。
さて、出発しますか。




