命のあいうえお
エドワード・ゴーリーの「ギャシュリークラムのちびっ子たち または遠出のあとで」という本がある。
1963年に刊行された、アルファベット順に子供が死ぬ物騒な絵本だ。
わたしはあの絵本が大好きでね。
趣味が高じて、似たようなものを自作してしまうくらいさ。
そうだ。
今日は天気がいいし、湿度も控えめで過ごしやすいから、ちょっと子供をさらってこようか。
さあ、始めるよ。準備はいいかい?
「あ」は蒼くん。青あざまっさお。
「い」は樹くん。痛みでいかれた。
「う」は羽衣ちゃん。うんちに埋められ。
「え」は恵那ちゃん。餌も得られず。
「お」は桜良ちゃん。襲われ、犯され。
「か」は佳一くん。カモメにかじられ。
「き」は恭介くん。きんたま切られて。
「く」は空詩ちゃん。縊られ、砕かれ。
「け」は啓介くん。汚れて、蹴られて。
「こ」は幸太くん。心を壊され。
「さ」は咲良ちゃん。さらわれ、裂かれて。
「し」は静ちゃん。四肢も四散し。
「す」は粋奈ちゃん。好かれて水死。
「せ」は世亜くん。背中に千回。
「そ」は颯太くん。削がれ、注がれ。
「た」は巧くん。ただただ、叩かれ。
「ち」は千咲ちゃん。乳もちぎれて。
「つ」は月矢くん。吊られて、突かれて。
「て」は照良ちゃん。手と手を結んで。
「と」は徹くん。摘出られ、溶かされ。
「な」は菜緒ちゃん。殴られ、治され。
「に」は初奈ちゃん。煮込まれ、煮詰まり。
「ぬ」は縫凪ちゃん。脱がされ、盗まれ。
「ね」は寧々ちゃん。眠らず、眠れず。
「の」は和花ちゃん。喉を除かれ。
「は」は陽くん。歯止めが外れて。
「ひ」は久司くん。紐で引かれて。
「ふ」は吹生くん。ふざけて、踏まれて。
「へ」は碧海ちゃん。部屋ですり減り。
「ほ」は保久斗くん。臍を掘られて。
「ま」は真美ちゃん。街で摩耗し。
「み」は美海那ちゃん。店で身請け。
「む」は睦くん。蒸され、むしられ。
「め」は恵ちゃん。目玉を愛でられ。
「も」は基春くん。もがれて、悶えて。
「や」は康宏くん。病んで、病まれて。
「ゆ」は柚季ちゃん。ユダと茹でられ。
「よ」は善花ちゃん。欲に酔わされ。
「ら」は愛々ちゃん。ラララ、安楽死。
「り」は梨花ちゃん。利子で身を切り。
「る」は瑠亜くん。留守を狙われ。
「れ」は怜央くん。レンガで連打。
「ろ」は呂那ちゃん。牢で殺され。
「わ」は若菜ちゃん。輪っかで首がワイヤレス。
「を」と「ん」は見つからなかったから、名前のない子にしたよ。
×××くんはロッカー6ヶ月。
×××ちゃんはトイレでジャーだ。
うん。
みんな、本当にいい子だね。
おや?
こんなところに珍しいな。
††††††††††
いつかどこかにある駅で、古くさい服の男がこちらを見ている。
周囲にはたくさんの子供達がいた。
頭にうじが湧いている子。
腕が欠損し、両目を潰された子。
首から上がない子。
抱きかかえられたカタチのない赤子たち。
ああ、きっと。
みんな死んでいるのだろう。
「さぁ、行こうか。」
「幻影都市はいいところだよ。」
男が呟き、きびすを返すと、子供たちが続く。
縋るように、闇へ溶けていく。
STOP虐待。
今年の虐待による死亡事例は50件です。
(平成29年4月1日から平成30年3月31日まで ※心中を除く)