光竜リア、及び、保護理由
クアトは特にやるべき雑用が無い時は〈石竜研究所〉の周辺を散歩していたりする。一応、フード付きのローブで全身を隠し、万が一誰かが通りかかっても、その異常な姿を見られないようにしている。地上が気になるものの、危険だという話はよく聞くので決して遠くの方まではいかない。
「何か面白そうなのあると良いんですけど」
ハクアが地上から異物を見つけてくるように、クアトも何かを見つけてトアの役に立ちたいとは思っているものの、こんな近場にめぼしいものが転がっている訳もなく、ただ散歩するだけになっているのは何時もの事。ただ、今日はいつもと違い、誰か知らない人に会ってしまうという自体に陥った。
「あれー、あやしい人がいるよー」
「それを言うのなら、貴方も十分に怪しいと思うのですよ」
今までクアトはこの付近で誰かに会ったことはない。そして、今日初めて会った人物は、自身と同じ位の背丈で、自身と同じようにフード付きのローブで全身を隠していた。何となく親近感を覚えていたのだが、一言目から怪しいと言われてしまった。確かに怪しいのは仕方ないが、相手も同じ姿をしているのだからどうにも腑に落ちないのである。
「だって、危ないから外にでてはいけないって、皆言うんだもん。だから変装してるの」
「それは……ここに居たら良くないんじゃないですか? 早く家に帰った方が良いですよ」
人通りの殆ど無い場所で、外に出てはいけないと言われていた人物が、一人で歩いている。これは厄介事の気配しか無いというものだ。クアトとしては、早急に帰ってもらうか、何も見なかったことにして帰りたい気分になっていた。
「別に私は子供じゃないんだよ? それなのに、メアとか、コアがうるさいの。それに、皆忙しくて遊んでくれないんだもん、つまんないよー」
子供じゃないと言われても、どうにも信じられない背丈と言動である。クアトも人の事を言えたものではないと自覚しているが、だからといってその言葉を信じられるかは別問題である。保護者らしき人が居ないのか、辺りを見渡してみても、誰もいない。
「それで、こんな所まで来てどうするつもりなのですか? ここに来ても面白いのは無いのですよ」
「面白そうな人なら居たよ?」
「えぇ……」
クアトとしては、怪しまれるのは仕方がないと割りきっている。だからといって、初対面の相手に面白そうな人と言われるのは、何かが違う気がするのだ。その、姿を隠すような格好からして、同じ異形なのかもしれないが、だからといって仲間認定するつもりは無い。
「まぁ、少しお話聞いてくれないかな。事情を知らない人にしか話せないことなんだ」
「……厄介事の気配しかしないのですが」
「私の話を聞いただけで何かに巻き込まれる事なんて無いよ。ただ、無力ってこんなに辛いものなんだねってだけのお話」
その言葉は、クアトにとって覚えのあるものであった。ハクアのように知識があるわけでもない、ギアのように力があるわけでもない。出来ることなんて精々雑用くらいのものだ。そんな状態で、どうやってトアの力になれるのか、答えなんて出ない。
「人それぞれ、何かを抱えているのです。それを、吐き出すかは別の話なのですけど」
「そうだね。だからこそ、誰かも知らない相手にしか言えない事でもあるんだよね。あなたも、何かあるんでしょ? そんな姿で、こんな所に居るんだもんね。お話を聞く位なら、私にも出来るよ」
確かに、他に人が訪れないような場所で、姿を隠すような服をまとっていれば、何かあると断言するには十分かも知れない。確かに、クアトは悩みがあると言えばある。だが、それを話すつもりは無い。話す必要性が感じられない。
「遠慮しておきます」
「そう? 遠慮されたのは久しぶりだねー」
カラカラと笑っている。とりあえずは不快に思っていないようだ。クアトは、ふと、そういえばお互いに名前を未だに知らないという事を思い出す。とは言え、今更であるし、これから先に会う予定も無いのだから、必要ないと判断した。そんなことを考えていると、もう一人こんな場所に近づいてきている。今日はやけに来訪者が多い日らしい。
「おーい、探したよー。全く、コアが帰ってきたら怒られるのは僕なんだからね?」
「あー、迎えが来ちゃった」
やって来た人物は、糸目で茶髪の、明るい印象の少年だった。身長はクアトよりも少しばかり高い程度であり、この場は子供の集まりのように見えるだろう。最も、三人のうちの二人が怪し過ぎるせいで、なんとも言えないが。それにしても、この少年は、謎の人物を探しに来たらしい。
「迎えも来たみたいですし、この辺でお話は終わりですね」
「あーもー、エアが邪魔するー」
「僕はメアとコアに念を押されてるからね。兎に角、帰るよ」
迎えに来た少年の名前はエアと言うらしい。本名なのか、それともあだ名なのか。謎の人物はとても不満そうにしていたが、唐突に、クアトに光る石を手渡してきた。光石、地下には欠かせない、火を伴わない光源だが、どうしてそれを渡してきたのか解らない。
「私は、光神リア。あなたに、より良き光がありますように。なーんてね、その石みたいに、暴かない程度の光を見つけると良いよ。私達の所に来るのは、正直お勧めしないからね。それじゃ、エア、帰ろうかー」
謎の人物……光竜教の主神、光神リアを名乗る存在は、エアと共に去っていった。今思えば、メアは斬神メア、コアは破神コアの事だろうか。何にしても、クアトにとってはどうでも良い事だ。貰った光石を投げ捨てて〈石竜研究所〉へと歩いて行った。