レアル、及び、話し合い
定期的に<深層地下都市>の中央に位置する、一番大きな建物でそれぞれの勢力の代表が集まり、情報交換をしている。大きな事件でもあれば、話すことは多いかもしれないが、最近は何があるわけでも無い。
「アタイは別に、報告するような事は無いんだけどね。強いて言えばさ、こんな非合理的な会議とか無しにしない?」
<深層地下都市>の代表は、混沌の管理者レアル・グリード。ほぼ全ての業務を一人でこなしている。正確に言うのであれば、レアルは複数の身体を持つ存在であり、今会議に出席しながらも、別の身体はまた別の仕事をしている。唯一、防衛に関しては、機械兵団とそれを束ねる自身の従者に任せている。
「それは許されない。決まりごとは守るためにある」
そう言うのは<法誓議会>の会長を担う、正義の天使アウトークシア。この組織は、地上で暴動が起きた時、それを鎮めるために設立されたのだが、結果はこの通り、上手くいかなかったからこそ、地下での生活になっているのだ。今では<深層地下都市>の法を定める組織となっている。
「ふん……。何時も堅苦しいな」
そう言って、つまらなそうにしているのは<解放組合>の長に位置する、嫉妬の悪魔ラギ・レイトア。この組織は、探索者たちを束ねていて、最終目標を地上の奪還としているが、その目標自体にレアルは興味が無いらしい。
「特にこれといって何もないのだから、早く始めてさっさと終えよう」
最後は<光竜教>の荒事関係を引き受けている闇竜メア・ダクア。地下暮らしでは光源の確保が死活問題であり、それを解決する力を持っている、光竜リアを保護する為に、メアとコアが設立した組織である。守るための組織ではあるが、危険な存在は予め処分しておこうという、過激な思想も持ち合わせている為、最も好戦的な組織になっている。
「全く、アンタ達が居なければ、アタイが好き勝手やるのになー」
<法誓議会>は法律で、<解放組合>は人脈で、<光竜教>は武力で、それぞれの力を使ってレアルを押し止めている。かつて、地上で起きた事、ケミカルチェンジャーの、非人道的な実験が周知されてしまった事から始まる。そして、民衆の正義によって、地上は荒れ果て、地下へ潜る事になってしまったのだ。周知はされていないが、その実験というのは、レアルが命じたものであった。
「同じ事を繰り返す気か……」
「次が無いようにするのは、私達の役割だ。……正義の天使としては、複雑な気分ではあるな」
地上を争乱の渦に巻き込んだ、正義という名の暴力は、未だにアウトークシアを憂鬱にさせるらしく、いつも付けている仮面で表情は見えないが、言葉に覇気が無い。
「いや、悪いのはあいつだろ」
「なんだ? 全部アタイが悪いのか? ふーん、そういう事言うんだ。それならストライキ起こすぞー、スートーラーイーキー」
そもそもの、争いの種を撒いた存在であるレアルにメアは指差すが、その本人は面白そうにストライキを連呼するだけである。とはいえ<深層地下都市>は、レアルが居て成り立つシステムになってしまっているので、余計に質の悪い事この上ない。
「アウトークシア、俺に言われたくは無いだろうが、お前の気にする事じゃない。人の根底にある悪意が、体の良い的を得ただけの話だ」
「ありがとう、大丈夫です。法とは、悪を裁き正義を圧するもので在るべきと、私が一番理解していなくてはならないからな」
悪魔に慰められる天使というのは、異様な光景ではあるが、この世界においては、役割が違うというだけである。どちらに片寄りすぎても良い結果が出にくい事を理解しているため、協力することもあったりする。
「そういえば、アウトークシアとレイトアは、仲が良いのか?」
天使と悪魔という、関係的にはマイナス要素から始まるせいもあるのかも知れないが、メアから見るとどうにも仲良さそうに見える。だが、二人は同時に首を横に振って否定した。
「ふん。そんなことはないが、少なくともレアルよりは話が通じる相手だ」
「私としても、そのような事実はない。だが、レアルと比べるならば、どちらが害となるのかは明白だ」
「それは、確かに否定できない」
レアルはさっきまで面白そうにニヤニヤしていたが、あまり色々言われるのは不快だったのか、何か言われたくないことでもあったのか、急に表情を変え、不満そうにしている。
「ふーん? そんなにアタイが悪いんだ? おい、調子に乗るんじゃねぇよ低能共。アンタら以上にな、未来を憂いてんだ」
「貴方は方法が悪いんだ。何をそんなに焦っている?」
レアルの行動は、自身の従者を増やすためと多くの存在は考えている。事実として、そういった動きはある。だが、アウトークシアには、また別の思惑があるのでは無いかという考えがあった。
「さあね? でもさ、現在の犠牲で、未来を守れるとしたら、それはとても合理的だと思うべきだ。失うものなくして、前に進めるなんて考えは甘過ぎる」