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クアト、及び、利用価値

 〈石竜研究所〉には、ハクアの見つけてきた遺物や、トアの作り出した何か、最早何時からあるのか解らない意味不明な物で溢れているが、その中で最も目につくのは、何の変哲も無い石の台座である。


「ふーん、ふーん、ふーん」


 ギアとハクアが探索に行っている間、トアは何かを調べていたりするのだが、今日はカギ爪のような手で器用にブラシを持って、その石の台座を磨いていた。その光景はシュールではあるが、本人は機嫌が良さそうだ。


「博士、その石の台、思い入れがあるんですか?」


 クアトは基本的に〈石竜研究所〉で雑用をしている。増え続けるごちゃごちゃしたガラクタを片付けていたのだが、トアの様子を見て気になってしまった。それ程までに、異様な光景と言えば、その通りではある。


「おやぁ、クアトも気になりますか? これはですね、私がかつて、地上で門番をしていた時に使用していたものなのだよ」


「地上? 門番? どういうことなのですか?」


 石の台座の事を聞いて、門番をしていた時に使用していたと言われても、クアトには何の事だか理解できない。トアは普段から、この台座の上に座っている事が多いが、この上に座った状態で門番でもしていたのだろうか。


「私の石と化する権限を使用すると、石像のようになるんですよ。その迫力によって、悪さをしようと近づいた人を遠ざけるのだよ!」


「えーと、その……。そうですか」


 もはや、それは門番と言うよりも、置物に近いのではないだろうか。クアトは心の中で思ったが、トアを不機嫌にさせる可能性が高い為、口に出すのはやめておいた。その様子を見て何を考えたのか、更にテンションは上がっていく。


「おやぁ? 信じていませんね? 事実として、私が門番を始めてから、犯罪は減ったのだよ!」


「あの……。はい」


「ふむぅ、ならば良いでしょう! 私の威厳ある姿を見せてあげましょう!」


 そう言って、トアは石の台座の上に登り、ポーズをとって石になる。確かにその見た目は迫力があり、カッコいいとも言えるものではあったが、中身がちゃんとしたドラゴンでもある。その、本末転倒というか、なんとも言えない感覚にクアトは陥るが、本人はとても楽しそうである。


「あの、……カッコいいと思います」


「おやぁ、クアトのセンスは良いですね! ギアには意味が解らないと言われてしまったのだよ。おそらく、美的価値観をどこかに落としてしまったのでしょう」


 どうやら、この価値観はトア独自のものであり、ドラゴン全体のものでは無かったらしい。何にせよ、石と化する権限を持っているドラゴンは他に居ないので、同じことが出来る存在は居ないともいえる。


「ギア……」


「まぁ、価値観の違いを詮索しても、意味は無いのだよ。さて、片付けを再開してください」


 トアは石から戻り、もう一度ブラシを持って台座磨きを再開した。片付けをするように言われたクアトであったが、何か思う事があったらしい。深刻そうに、うつむいている。そして、小さな声で問いかける。


「あの……。博士、私はまだ必要ですか?」


 クアトの姿は、トアによる、魂を介さない関係性の実験によって、変貌した姿であり、元は普通の人間であったのだ。その実験自体は、意味が無いものとして終了した訳だが、それはクアトが用済みであるという事も意味している。


「ふむぅ、クアトは勘違いをしているね。私は、必要も無い者を身近に置くことを良くは思っていないのだよ」


「それなら、私は……」


 ある時、捨てられていた二人の子供が拾われた。その内の片割れがクアトであり、その名前さえも名付けられたもの。つまり、トアは名付けの親でもあり、育ての親でもある。用済みであると、捨てられる事を恐れているのだ。


「クアト、安心してください。まだやってほしい事はあるのだよ」


「良かった。私は、居て良いんですね」


 クアトは、この姿では人に混じって生きていく事が出来ない事は知っている。だが、それ以上に、トアの役に立てることに対して、安心しているのだ。ただ生きていく事に、意味など無いのだから。


「そうですね。私は約束しましょう、クアトを捨てる事なんてしないと」


「博士、ありがとう。私がんばります」


 元気になったクアトは片付けを再開する。あまりのガラクタの多さに、整理するだけでも嫌になりそうではあるが、そんなことは気にならないようだ。そして、トアは台座を磨き終わった後、何かを思いついたらしい。


「クアト、この世界の意思と言うものに興味はあるかな?」


「博士、急にどうしたんですか?」


 急な問いかけに、クアトは動きを止めてしまう。いったいどこから世界の意思なんてものが出てきたのかは解らないが、何か思うところがあるのかもしれない。


「人間と竜の奇妙な関係性には、何かの意思を感じるのです。それを私は、世界の意思であると考えたのだよ」


「博士と一緒なら、私も知りたいです」


「おやぁ、そうですか。意思を引きずり出すその時を、楽しみにしてくださいね」

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