フーリエ、及び、解放組合
何者かによって気絶させられたガラードは、たまたま通りかかったウォルムと共に〈解放組合〉の支部へと帰還していた。特に外傷がある訳では無いのだが、目に見えて不機嫌そうにしている。ハクアを取り逃がしたのが相当に不満だったらしい。
「おい! ハクアの目撃情報は無いのか!」
「ガラさん、何度も言っているでしょう。ハクアさんの目撃情報は届いていませんよ」
「支部に帰還して、すぐにそれっスかガラさん……。ちょっと前まで気絶してたとは思えない元気さっスね。俺は大した収穫も無いし、さっさと家に帰ってふて寝したいんスけど」
ガラードはフーリエに情報を求めているが、届いていないものは無いのだ。もしかしたら、何処かで情報が握りつぶされているかもしれないが、それを知る術は無いのである。そんな所に、たまたま支部に居座っていたファウスがのそのそとやって来る。
「おや、ガラ君じゃないか。あまりにも騒がしすぎて、この老体の耳にまで声が届いてしまっていたよ?」
「おい、ジジイには関係ない。どっかに行きやがれ」
「少しくらいジジイにも話を聞かせてくれても良いじゃないのか? ワタシは歳相応の人生経験があるのだから、君の悩みも解決出来るかもしれないしね?」
まるで若者を諭すフレンドリーなお爺さんに見えなくもないが、このファウスと言うジジイはそんなに素直な性格をしているわけではない。そんな事はガラードも解っている、マトモに相手した所で意味はないのだ。
「おい、リエ。何で<測定者>のジジイがここに居るんだよ。地上は暇なのか?」
「別に戻ってこないことは無いですよ。地上に居ることが多い人は居なくもないですが<法制議会>じゃないんですから」
<探索者>の内、殆ど地上で活動している人を<測定者>と呼ぶことがあるのだが、一般的には知られていない。あくまで<解放組合>の表向きの活動は<探索>であり、地上の調査は行われていないものとされている。
「おい、<測定者>も<法制議会>も、何を企んでるのかしらないけどな、いつか暴いてやる。ハクアの奴が何か噛んでるんだろ? それなら、やりようはあるな」
ガラードはバタンと、扉を力任せに閉める音だけを残して支部から出ていった。その様子を見てフーリエはため息を吐く、なんだか良く解らないが<解放組合>には個性的な面々が多すぎるような気がするのだ。こんなことなら<測定者>を続けていた方が楽だったのかもしれないと考えてしまうほどに。
「リエさんも大変ッスねー。ここの支部、個性的なのが多すぎッスよ」
「君も大概なんだけどね……、ハクアさんもそうだけど」
ガラードが騒いでいたせいか、気が付けば支部はフーリエ、ファウス、ウォルムの三名だけになってしまっていた。他の人達は巻き込まれたくないとばかりに、さっさと退散してしまったようだ。
「それにしても、ハクア君には苦労させてしまっている。敵を騙すには味方からと言うが、他にやりようはあったと思うのだけどね」
「本人が言い出した事だから……。何か考えがあるのだと思うけど、ハクアさんは何を考えてるのか全く解らないんですよね」
現測定者と、元測定者による暴露と言ってもいいような会話に慌てたのはウォルムである。明らかに一般の<探索者>が聞いて良いような内容ではない。だが、フーリエもファウスも気にしていないようだ。
「えっと、俺は耳栓でもしてた方が良いんスか……?」
「必要ない筈だよね? 何しろ、ルム君はその内<測定者>になる予定だとワタシは聞いていたのだから」
「えっ!? 俺は聞いてないっスよ!」
更に慌てるウォルム。そんな事はレイトアにも聞かされていないし、そもそも、どういった基準で<測定者>が選ばれているのかも知らないのだ。急に言われても困惑するだけである。
「もちろん、ワタシが言っていなかったのだから、ルム君が聞いたことがないと言うのは仕方の無い事だね」
「何を平然と言ってるんスか!?」
「どうやら、ジジイのボケが始まってしまったらしい。婆さんや、今日の夕飯はなんだろうね?」
「ファウさん、それを私に言っているのなら、流石に怒りますよ?」
ボケたジジイの振りをするファウスに、怒り半分呆れ半分、というか九割呆れのフーリエ。何が何だか解らず取り残されるウォルムと、何というか、何とも言えない場が構築されているのであった。
「さっきまでのは冗談だとしても、ルム君はハクア君の事、疑問に思っていただろう? 何時かは真実に気付いてしまっていたかも知れないしね」
「おかしいとは思っていたっスけど、俺は深入りするつもりは無かったッスよ?」
「それで良いんです。むしろ、ガラさんのように首を突っ込むような人は<測定者>に向いていませんからね。ただ、ファウさんみたいな変人が多いので、頑張って下さい」
「考え直して欲しいっス……」
嫌がるウォルムを無視して、ファウスとフーリエは話を進めている。基本的に<測定者>はレイトアが使命しているが、この話を持っていけば断りはしないだろう。ついでに<探索者>の勧誘をいろんな人に持ちかけてもいい。人員の多さは、そのまま組織の厚みになる。
「勧誘するとして、良さそうな人に心当たりはあるのですか?」
「ギア君とか良さそうだとは思わないか? もしかしたら、面白いことになるかも知れないしね」
「それ誰っスか……。ファウさんの面白そうは嫌な予感しかしないっスよ……」