破竜コア、及び、注意喚起
「博士、特に何もありませんでした」
「ふむぅ、でしょうね。この付近は既に捜索が済んでいるのだよ」
クアトが<石竜研究所>へと帰還したが、どうやら何か目ぼしいものを見つけられなかったらしい。トアからしてみれば、今更何か見つかるのであれば、周囲の探索が足りなかったのか、何らかの手が入っている証拠になってしまうので、無いなら無いで構わないのだ。
「ですが、今日は珍しいことに誰かに会ったのです」
確かにこの付近に誰かが近寄るのは珍しいのだ。何せ<深層地下都市>から地上への道、そこから外れた場所に存在しているのだから。とは言え、全く誰も来ないと言う訳ではない。来たからと言え、そう簡単には<石竜研究所>を見つける事は出来ないだろう。そうでなければ、とっくに<解放組合>辺りには見つかってしまっている。
「おやぁ、珍しい。折角ならここまで案内してあげたら良かったのではありませんか? もしかしたら、良い材料になるかもしれませんし」
トアは遺物の分解をしながら冗談半分で返事をする。勿論、半分は冗談だが、それが確実に達成できるとあれば、何の戸惑いもなく、材料にするなり、被験者にするなり、活用法はいくらでもあるのだ。因みに、今分解をしている遺物は、分子の振動によって物を暖める装置だが、もしかしたら強力な兵器に転用出来るかもしれないと考えている。
「その子なんですけど、エアと言う人が迎えにきて、帰ってしまったのです」
「ふむぅ、それは残念……。待ちなさい、今エアと言いましたか?」
クアトは、力になれるチャンスを逃した事にショックを受けてしまっているが、トアからしてみればそんな事どうでも良いのだ。エアがあの境竜エアだとすれば<光竜教>関係者がこの付近に来ていたことになる。それは少々マズイのと同時に、とても大きな機会でもあるのだ。
「すいません。次に見かけたときは連れてきます」
「いや、それは気にしなくて良いです。そのエアが迎えに来たと言う人の、名前を聞いてはいませんか?」
「本当かどうかは解らないですが、光神リアと名乗っていました」
光神リア、光竜リアの<光竜教>の神としての名前である。そして、今一番欲しい材料でもあった。とは言え、ここに連れてきてもらうのはリスクが大きい。何とか策を巡らし、機会を作りたいものだが、クアトに動いてもらうわけにはいかない。
「良いですか? 次に会ったとしても、無理に連れてこようとしなくて大丈夫です。適当に仲良くなっておいてもらえば、それで十分なのだよ」
「それだけで良いのですか?」
不満そうにしているクアトであったが、リアと仲良くなっておいて貰えれば、もしかしたら何らかの役に立つかも知れないのだ。ついでにエアや、メアの情報でも得られれば、それで充分である。下手をうつより、断然良いだろう。
「それで充分助かります。ですが、赤い大きなドラゴンがいる時は、出来るだけ接触しないようにしてください」
「赤い大きなドラゴンですか?」
「ふむぅ、メアやエアでしたら、まだ話も通じるのですが、破竜コアは理屈で動いてはくれませんから」
エアはそこまでリアや<光竜教>に執着していない筈であるし、メアは確かに執着心は高いが、ある程度理性的に会話することは出来る。だが、コアはダメだ。あまりにも感情的過ぎて行動を読むことは出来ない。関わるだけでも危険すぎる。
「そんなに危険なんですか?」
「ふむぅ、あの時は悲惨でした。私とソアが何気無い日常会話をしていたんですが、そこにコアが乗り込んで来たのだよ。どうやら何か企んでいると思い込んだらしく、こちらの言い分も聞かず暴れまわり、命からがら逃げ出すことになりました」
昔の記憶を辿るトアであったが、コアが関わった思い出に、ろくなものはない。思い込んだらそれまでで、話も聞かずに暴れまわるという迷惑さ、お陰で苦手意識がどうしても拭えないのである。現在の<光竜教>で厄介者第一位といっても過言ではないだろう。
「それは、あまり会いたく無いですね」
「でしょう? それに、未だに私の事を良く思っていないみたいなんですよ。まぁ、メアも同じくなんですけど。本当に、困ったものですよ。私がリアを誘拐しようとしていたのは百年以上も昔の話なんですが、一体何時まで覚えているつもりなんです? そんなものに脳を割くぐらいであれば、もっと有効活用するべきでしょう!」
昔の事を思い出していると、段々苛立ちが募っていき、何となく声を荒げてしまうのであった。トアとしてはリアを諦めているわけではないので、コアの存在は本当に厄介なものなのである。とは言え、素の力に差がありすぎる上に、相手は<光竜教>という組織に属してしまっている。今の所はどうにもならないのだ。
「解りました。私も危険な目に合いたいわけではないので、気を付ける事にするのです」
「えぇ、そうしてくださいね。……貴方の肉体は、ある確信を得るために必要なんですよ。変な所で失うことの無いように」
クアトが掃除しに歩いていった。ぼそりと呟いたトアはソアの事を思い出す。今ふと、思い浮かんだことを実行すれば、怒りだすか、呆れるか、少なくともバカにはされるだろう。何にせよ、確信そのものはあるのだから。




