表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

そうだな・・・昔のことを語ってみよう

作者: ウルカムイ

あれは、まだ20代のころ。

テレビでヒッチハイクで世界旅行とか、流行っていたころだったか。

自分もやってみようと思い立ち、とりあえず住んでいるところの端っこを目指した。

最初、慣れないヒッチハイクで苦労もしたが、たまたま乗せてもらった人が、そうそう、その人もカニ族って言われながらやっていたらしく、そのころのコツなんか教えてもらったら、すんなりいくようになった。


最初の夜が来た。


さすがに通りに車が来なくなって、道も悪くなってきたころ。

遠くに明かりが見えたので、民家だろうと思い、軒先を貸してもらうことにした。


「すみません、軒先で休ませてもらっていいですか?」


声をかけると、中から男が出てきた。


「あれぇ、こんな夜になにしたべか」

「すみません、突然に。ここまで乗り継いできたんですが、さすがに乗せてもらえなくなったので。明日明るくなったら、出かけますので、軒先を貸してもらえませんか」

「いやぁ、ここはそういうところだべさ。まま、中に入り」

「宿ってことですか、自分、お金とかあまりないですし」

「いんや、泊まるだけなら、雨露しのぐくらいなら、いいべ」

「すみません、ありがたくお借りします」


そうして、中に入ると土間のたたきに板張りのあがりと、古い民家を思わせるような作りだった。

今時、ランプの暗い明りで照明をとっているようだった。


「ここは、なんなんですか?」

「なんだ、しらんのけ。ここは、駅逓ちゅうもんや」

「えきてい?」

「馬車とかの乗り継ぎや馬喰の休憩処とかになっとる」

「へえ、今時そんなものがあるんですね」

「そうさね、内地じゃ馬いらずの陸蒸気とあるだろう。小樽にも炭運びのもんがあったっけな」


陸蒸気?機関車のことか?

小樽のことはよくわからなかった。


「そ、そうなんですね」

「まあ、ここいらでよかったら、休むといい」


土間の隅の、ゴザがしかれているところを指さされた。


「いつもは薪とかおいとるとこだけんど、一晩ならつかってな」

「ありがとうございます」

「じゃあわしは、奥にいるでな。なんかあったら、声をかけてくれ」


男はそういうと、奥のほうへと消えていった。

横になりながら、男の言葉を思い出していた。

横浜とかに鉄道が敷かれたのは明治の最初のころ。

小樽に鉄道が敷かれたのも、その前後だったか。

すると、ここは明治時代?

そういえば、来る途中に舗装道路だったところが砂利もない、踏み固めただけの道になっていた。

不思議だなと思い、田舎道だからこんなものかと思っていたけど、いつの間にかタイムスリップしたのだろうか?

だとすると元の時代に戻ること、できるだろうか?


そんなことを考えながら横になっていると、頭はさえていたはずなのに眠ってしまったようだった。

ふと気づくと、奥のほうからしゅーしゅーという音がしたので、こっそりとのぞきに行く。

暗がりの中で男が刃物を研いでいた。


鬼婆?

いや、鬼爺か?

そんなことをおもったとき。


「お客さん、目を覚ましましたかね」


こちらを向いてもいないのに、なぜ覗いていることが分かったのか。


「頃合いかと思いましたがね」


ゆっくりと振り向くと、こちらをにらむように見つめられた。


「一人旅なんかするからですよ。だから、こんなことになる」


男がそういうと襲い掛かってきた。

これでも、一応は柔道部にいる奴らとほぼ負けないくらいの技はある。

男の手をつかむと、すんなりとひっくり返す。


「いやいや、そうですか」


男が幾分悲しげな声色になったが、諦めずに襲い掛かってくる。

同じようにいなそうとするが、わかっているかのようにかわされてしまった。

また、切り付けてこようとしてきたので、抱き着いて抑え込もうとする。

するともみ合いになり、お互いに倒れこんでしまう。


「ぐぐぐ」


男がうめく。

胸のあたりから刃物が生えていた。


「そ、そうか」


一言、そう漏らすとぐったりとしたようだった。

おそるおそる近づくと、息はしてないようだった。

それからどう考えたのかは思い出せないが、裏庭に死体を埋めたことは覚えている。

気が付くとあたりはすっかり明るくなっていた。


「誰かいるかね」


表のほうから声がしたので、行ってみる。


「朝早くにすまんね。おや、おっさんいないのかね」

「あ、ええと。留守番を頼まれまして」

「留守・・・そうかね。すまんが、馬に水とワラを頼む」

「あ、は、はい」


表に出ていくと、馬車がいた。

その向こうの小屋にワラが積んでいたのが見とれたので、なんとかそれらしく作業をする。

小一時間ほど休憩していった客は出かけて行った。

何がどうなったかのか、わからない。

この建物から出ていこうとすると、新しい客がやってきては作業をするしかなかった。

変に家探しされて、裏手の盛り土を見つけられてもいやだったから。


いつの間にか、こうして居つくこととなったわけだ。

そして…。


「すみません、軒先で休ませてもらっていいですか?」


夜更けに若い男の声がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 小樽に明治…粋なキーワードが満載で楽しめました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ