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#わかっていた、知っていた。

夏休みはあっという間に終わり、9月半ばにある文化祭に向けた準備が始まる。



#わかっていた、知っていた。



うちのクラスは喫茶店をやることになった。それぞれ好きなコスチュームを着ながら、接客をするらしい。私はピンクと白の淡くて可愛らしいセーラー服コスチュームを着ることにした。響ちゃんは執事服を着るらしい。


「咲子は、もっとミニスカでも良かったんじゃない?」

「むむむむむむりだよ!!!!足出せないよ!!!」

「そー?」

「そうだよ!でも、響ちゃんはめっちゃかっこいいよね!執事服なんて!」

「まあ可愛い系は無理だしなぁ…」

「えー?そういうのも似合いそうっ!」

「いや、絶対に嫌だから。」


断固拒否されてしまった。

私もコスチュームなんて恥ずかしいけど強制だから、仕方なく無難に着れるものにした。でも、周りの女子たちは楽しそうにコスチュームを選んでいた。それは、自分に自信があるからだよね…。

ふと、北村くんたちの方を見る。北村くんは女の子たちに囲まれて楽しそうに会話している。



ズキッ


ああ、やきもちだ。

小学校の頃、仲の良かった友だちが他の子と仲良くするといつもやきもちを焼いていた。今は、それとは比べようのない、どろどろとした感情が湧いてくる。どうしよう。どうしよう。

私が彼にとって1番の存在になんてなり得ないのに。どうして、こんなにそばにいて欲しいと願ってしまうんだろう…。北村くんの周りにいる女の子たちはキラキラ輝いていて可愛らしい子ばかりだ。それなのに私は…。自己肯定感が低く、特別可愛くなる努力だってしてこなかった。そうだよ。だから…仕方ないよね。

でも今から可愛くなることも出来るんじゃないかな。化粧水を使って肌を整えたり、可愛い洋服着たりだとか…。

だめだ。例えそんなことしても愛してなんてくれる訳ないのに。ニコニコと爽やかな笑顔を向けられるたびに期待ばかりをしてしまうんだ。

見て見ぬふりをして、机に向き合う。机には文化祭準備のために使う画用紙と色ペンが所狭しと置いてある。適当に色を選び文字を書く。少しでもカラフルに明るく見えるように。なんとなくで書きながらも、どんどん、それらしい形にはなっていく。こういうのを作るのは子どもの頃から好きだ。


「早見、結構うまいじゃん」


後ろを振り向くと大好きな彼、北村くんがいた。え、なんで。


「なんか手伝う?」


彼の後ろを見れば、じっとこちらを睨みつける女子たち。怖いけど、怖い、けど。彼女たちを置いて、私のところに来てくれた。とてつもない優越感。


「ううん。大丈夫だよ!これも、もう終わるしね」

「そっか。なら、いいか。」


ふと、顔が近づく。

やだ。ドキドキしちゃうよ。胸の音が彼に聞こえてないかどうか心配になる。


「ん?どうした?」

「ん、ううん!何でもないっ!」


顔が赤く染まる。隠すように慌てて、もう一度ペンを手に取る。色をつけたところをもう一度重ねて塗りつぶす。


「幸大、呼んでる」


安藤くんが北村くんに小さな声で耳打ちする。ふと、ドアの前の方を見れば、顔を真っ赤にさせて待つ女の子。


「…ああ、行ってくる。」


私たちに背を向けて、彼は彼女の方に向かう。北村くんは、入学してから既に何度か同じようなことはあった。そして、いつも1人で帰ってくる。彼の答えは決まっているからだ。どんな女の子からの告白だとしても返事はいつも同じ。

彼からの答えがわかっていながら、勇気を持って告白することなんて私はできない。できないんだ…。



◇◇◇◇



文化祭当日。

学校は、非日常を作り出していた。

クラスの出し物である喫茶店の仕事を終えてセーラー服姿でウロウロしていたら、いつの間にか人気の無いところにたどり着いていた。元に戻ろうと後ろを向くと、男女の声が聞こえてくる。

興味本位だった。

どんな話をしているか聞いてみようと身を乗り出したときだった。


「私…、北村くんのことが好き」


なぜ。

好きな人の告白されている現場に遭遇してしまうのだろうか。慌てて戻ろうとすると、間髪入れずに彼の声が聞こえた。


「悪い。俺、他に好きな子がいるんだ。」


雷が落ちたような衝撃。

ああ、そうなんだ。そりゃ、私が北村くんをすきなように彼にも好きな人がいても可笑しくはない。いや、むしろ当然というべきかもしれない。


そう、だけれども。

私は逃げるように、その場を後にした。もう、何も考えたくない。

好きな人、好きな人、好きな人。

ポロリと涙が溢れる。

先日、痴漢にあい涙を流してしまった時に慰めてくれた彼はいない。

下を見ればポタポタと落ちてくる自分の涙が見える。ああ、泣いてるな、私。

人ごとのようにぼんやりと考える。ああ、こんなときに泣いたりなんてしないで彼の恋を喜べるような強い女の子でありたかった。

笑顔で応援できれば良かった。


分かっていたのに、知っていたのに。


校庭の方で楽しそうな声が聞こえる。

今の私には、相応しくないBGMだ。悲しくて辛いのに。

馬鹿だなぁ、叶わないなんて分かっていたのに。

これから、彼の恋が実るところまで私は見届けなくてはいけないのだろうか。こんなに辛いこと、なかなか無いよね。


「幸せに、なりたいなぁ…」


私の小さな声が響く。

今だって、十分幸せなはずなのに、そう思いながら、また一つ涙を落とした。











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