#この想いを知るときは
あっという間に7月。
もうすぐ夏休みということで、少々浮き足立ち始める時期。
#この想いを知るときは
定期テストも無事に終わり、夏休みに何をしようか考える。海に行ったり、家族でキャンプ。それから旅行とか…。
もしかしたら、北村くんとも…
プシュー
電車が到着する。わぁと周りの多くの人たちが飲み込まれてゆく。そして、私も。ぎゅうぎゅうの満員電車に入り込む。仙台市内でも混雑している電車。毎日この電車に乗るのは憂鬱だ。女性の香水の匂い、男性の汗の匂いが混ざり合いなんとも言えない匂いに包まれる。いやだな、そう思っていた時。
お尻に違和感が。何かに触られてる。
痴漢だ。
なんで。どうして。
頭がうまく回らない。気持ち悪い。どうしたら良いんだろう、叫ぶべきなのか、どこか逃げれば良いのか。でも足が竦んで動かない。怖い、怖い、怖い。
どうしたらいいか分からなくなる。怖くて怖くて仕方がない。
涙が滲む。
何もできない。
スカートをめくろうとしてくる。どうにか逃げなくてはいけないのに。
「おっさん、そこまでにしろよ。」
お尻に違和感が無くなれば、聞き慣れた声がする。声の主を見れば、北村くんの姿があった。ほっと一安心してしまい、涙がポタポタと溢れる。
「ちっ…!」
痴漢した男が駅に着いた瞬間、勢いよく逃げ去っていく。
「おいっ!待てよっ!!」
北村くんが追いかけようとする。私はその腕を掴む。
「早見…、大丈夫か?」
「…っ、うん…。いいよ。」
涙が溢れる。みっともないがそれを止めることが出来ない。
「…とりあえず、一回降りよう。学校にも連絡するから。」
「…え、やだ。北村くんは行っていいよ?…学校」
「…馬鹿だな。こんな状態の子を放っておける訳ないだろ。」
「…ありがとう」
優しい。
こんな風に優しくされると、私…。
◇◇◇◇
「はい、お茶。」
「ありがとう…。」
駅のホームのベンチに座り、北村くんの持ってきた飲み物を受け取る。なんだか、少し落ち着く。ほっと一息を吐くとポロポロと涙が溢れてゆく。辛さや苦しさがどっと溢れてくる。どうして、こんなことに…。
「落ち着くまで、そばにいるから。」
「…ありがとう。」
北村くんの冷たい掌が重なる。
ああ、なんて優しいんだろう。ただ、ただ優しい。
「優しいんだね、北村くん。」
「…別に、誰にでも優しい訳じゃないから。」
切なそうに微笑む北村くん。なんで、そんな表情するの…?
「でも、少しは元気になった?」
「うん…、今日は家帰って休むよ。明日からは、また普通に行けると思う。」
「そうだな。今日はゆっくり休めよ。送ってやるから。」
「…北村くん、今日はありがとう。カッコ良かった、ヒーローみたいで。」
「ヒーローって。…うん、でも、それならよかった。」
ふと彼が一歩前を歩く。彼の後ろをちょこちょこと着いていく。
北村くんの後ろ姿は大きかった。
◇◇◇◇
球技大会。
サッカー、バスケと分かれて行う。私は人数合わせのためにサッカーに。
同じサッカーの中には北村くんの姿も。北村くんは中学までサッカーをやっていたとのことで一際上手い。楽しそうにプレーする彼はとてもかっこいい。
「咲子って、北村と仲良いの?」
「え…?」
「なんかさ、ちょこちょこ話してるよね。」
「あ、メールでやりとりしてるから…」
「メル友?」
「うん。そんな感じなのかな…?」
北村くんがこちらを向く。
笑顔で私の方に手を振る。
ああ、好きだ。
大好きだ。その表情、動作、すべてが。
胸が異様にどきどきいう、きっかけになる。
こんなに好きなんて、好きになるなんて。
もう、この恋からは逃げられない、よね…。