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#縮まってゆく

林間学校。

一泊二日。

キャンプファイヤーや肝試し、レクレーションが行われる。

完全にお遊びの範疇だが、クラス、学年の仲を深める一環とのことだ。




#縮まってゆく




「グループは絶対に男女で、っていうのは、あたしたち陰キャに対する嫌がらせかな?」

「うーん…、たしかに。」


クラスの中に男友達なんて1人もいないのに。グループ組めるのかな。そうやって2人で悩んでると…


「俺らと組まない?」

「…え」


時が止まった。

目の前にいるのは恋焦がれていた北村くんの姿があった。


「なんかさ、いつも一緒にいた女子たちは2分割になってさ、どっちか選ぶわけにもいかないし、普段話してない子たちと組もうかなって。」



クラス委員長を務める赤石誠一くんが、淡々と話を進める。たしかに一軍の子たちは女子の数が多かった。全員と組むのが無理だから私たちに白羽の矢が立ったということ?


「ま、本当は他にも理由あるけどね?」


ちらっと北村くんの方を見ながら安藤翔太くんがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

他の理由…?


「そうだな!いろんな子と関わってもっとモテたい…!!」

「お前はどんなことが起きてもモテねーよ。」

「酷いっ!!」


軽快なノリツッコミをする桜井俊哉くんと北村くん。2人のやりとりが面白くて、ついクスと笑ってしまう。


「まあ、組む男子たちもいなかったから、丁度いいよね、咲子?」

「あ、うん!そうだね!よろしく!みんな!」


上擦りそうな声を抑えながら、明るく振る舞う。近くで見る北村くんは確かにカッコ良かった。



◇◇◇◇



「じゃあ、俺ら火を起こしておくから、野菜切っておいて」

「はーい。じゃあ、行こう、咲子」



トントン

私と響ちゃんで手際よく野菜を切る。

今日はついに林間学校当日。男子たちは火を起こし、女子は焼きそば作りの為の野菜を洗ったり、切ったり。

クラスの中心人物である男子の北村くんたち。私たちとは不思議な組み合わせであるがために周りからは視線を感じるが、それでも、そのことを全く気に留めてないようで楽しそうに会話をしてくれてる。彼らはいやいやでもないのかなと思う。


「できたぞー」


火を起こし、みんなで焼きそば作り。完成した焼きそばは少々歪なカタチをしていたが味はそれなりに美味しい。


「美味しいね」


そう呟くと、パッと北村くんと目が合う。優しく微笑む彼に、やっぱり胸がどきっとなる。というか、目が合うとか凄い恥ずかしいな…。



「なあ、メールアドレス交換しねぇ?」


片付けしてると北村くんが声をかけてきた。今まで特にメールアドレスを交換する必要が無くて、そんな話題も出なかったし、自分から声をかける必要もなかったから…。


「うん、いいよ!響ちゃんのも教えようか?」

「…え?あ、ああ、うん。まあ、そうだな、じゃ一応宮田のも貰っとこうかな。」

「赤外線受信でいいかな?」

「だな、よし」


北村幸大の名前が私のアドレス帳に登録される。


「私、男の子アドレスに初めていれた…。」

「え?マジで?」

「うん。高校に入ってから携帯電話使うようになったから。ふふ…。」

「…じゃ、これからは定期的にメールのやりとりしよーな!」

「へ!?定期的に?」

「そーだよ。せっかく交換したんだから」

「そ、そっか。そうだね!よろしくね!」

「ん、よろしく」


彼にとっては、異性とメールアドレスを交換するなんて当たり前のことかもしれない。…でも、私にとっては特別、本当に特別すぎることなんだ。定期的にって、どれくらいなのかな。割と頻繁にやりとりできるのかな。彼と学校以外で関わりが持てることが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。そっと白色の携帯電話を鞄にしまう。


「ねぇ、聞いた?肝試しやるって」

「え!肝試し?」

「そ。グループごとに回るらしいよ」


グループごとっていうと、北村くんと回れる…!


「そんでさ、その後、キャンプファイヤーやって自由時間なんだって」

「自由時間って、お土産屋とかもないのに何するんだろう」

「ははっ、確かにー!」


肝試し、かぁ。お化け屋敷とかはそんなに得意ではないけど。でも、これを機会にグループの仲も深まったりなんかしたりして…。




◇◇◇◇




「暗いなぁ…」

「2人とも大丈夫か!?俺が守ってやるぞ!!」

「声震えてんぞ、馬鹿。」


安藤くん、桜井くん、北村くんの3人が順番に軽快なテンポで話し出す。肝試し中とは思えないほどのノリの良さだ。


「わ、私は大丈夫。」

「声震えてますけど?」


響ちゃんは暗闇の中だから様子はよく見えないけれど、普段とあまり変わらないようだ。


「響ちゃん、手、繋いでもいい…?」

「仕方ないなぁ」


ギュッと細い手が私の手を包む。思っていたよりも冷たい。


「ご、ごめん。思ってたよりも怖いかも…。」

「大丈夫か?」


北村くんが、そっと私の顔を覗き込む。

男子は男子たちで話していたからこっちの様子なんてわかってないと思っていた。だから、急に顔を覗きこまれてしまい、びっくりする。今、私変な顔してるよね?あ、でも暗闇の中だから、そんなにわかんないかな。バレてないよね…?


「うん…!大丈夫だよ。」


いつのまにか怖い、よりも恥ずかしい、の方が強くなっている気がする。どきどきという胸の音がとても煩い。


「まあ、なんかあったら言ってくれよ。」


爽やかに微笑む北村くんの姿が暗闇の中なのにはっきり輝いて見える。不思議だ。

彼は一歩前を歩く男子たちの方に戻る。見慣れた後ろ姿。同じ歳なのに随分大きく見える。肝試しなのに、全く違うことでどきどきしてしまっているが良いのだろうか。


「ねぇ、咲子って、もしかして」

「え?なに?」

「…ううん、なんでもない」


肝試しは前に歩く男子たちが既に驚かされてるのを見るだけで終わった。アクションがあるたびに大きなリアクションをする桜井くんが可笑しくて、全く怖くない肝試しになった。良かったのか、悪かったのか…。

肝試しから戻ると直ぐにキャンプファイヤーが始まる。キャンプファイヤーでは願い事をするのが通例らしい。火が燃える様子をじっと見つめながら、願い事をする。周りを見渡すと皆真剣に願い事をしている。北村くんも真剣な表情で願い事をしている。一体、なにを願ってるのだろう…。……いや!自分の願い事に集中しなくては!燃える炎を、再度見つめ直す。願い事、願い事…。


"北村くんと仲良くなれますように"


ちょっとずつ、ちょっとずつでいいから。

仲良くなれたら良いなぁという願い。

叶うのか、どうかは自分次第なところもあるけれど。キッカケは出来たから、ここから少しずつでも…。


小さな願いを抱きながら、私は燃える炎を見つめていた。



◇◇◇◇



キャンプファイヤーが終わり1週間。北村くんとは他愛無いやりとりのメールが増えていく。朝、おはようとか。放課後に何してる?だとか。授業の内容の話だとか。ひとつひとつが重なって、いつのまにか彼とのメールのやりとりは日常になってゆく。


ピロン


またメールが来る。

わくわくしながら開いてみると、そこには1枚の夜空の写真が。

"星が綺麗だよ"

彼の送った、その言葉の意味も知らずに私は星が好きだという内容のメールを送る。

彼にとって、何が大切なのかも知らずに。

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