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2.2.5 質疑応答

 翌日。御堂はいつもの野戦服の上に紺色のローブをまとうという、なんともヘンテコな格好をすると、時間通りに詰め所へ向かう。


 中から雑談の声が漏れている扉を開けて、中を覗く。部屋の中には多くの椅子と机が並べられているが、特に個人の席というものはないらしく、教材などは何もない。ただ腰掛けて、前にある壇上に立った人物の話を聞くだけの場らしい。


(職員室、というよりは、ミーティングルームとでも言うべきか)


 入室した御堂はさっさと空いている席に座る。後方の奥側、目立たない場所を取った。が、それでも周囲にいる講師たちからは、奇異と侮蔑の混ざった視線を向けられている。それが御堂の奇妙な服装によるものだけではないことは、本人も自覚していた。


 なので、そららを無視し、御堂は部屋にいる講師らの観察にふけることにした。


(種族的には、人間が六の、エルフが四と言ったところか)


 講師の総数は御堂自身を除いて三十名ほど。一学校の教師数としては多いと感じるかもしれないが、ここは帝国と共和国の貴族子弟が集まるのである。地球で言うところのマンモス校と何ら変わりない。比率に関しては、魔術に優れるエルフに対し、人数で優れる人間と言うバランスの取り方をしているのだろう。御堂はそう推測した。


 そして、疎らに着席しているように見えるが、教室を上から見て左右に、きっちり人間とエルフで別れている。講師の間でも、種族間の確執はあるらしい。先日話したエルフの女性講師であるトイズが例外なのだろう。

 彼女の方も、固まって座っているエルフらの中で、端に座っているのを見つける。向こうも御堂の姿を認めて、小さく頭を下げた。


 それと同時に、最前列に座っているゲヴィターも発見した。そちらは後ろなど見もせず、ただ前を見ている。


(相手から突っかかってこないのは、ありがたいな)


 変に何かして来るくらいなら、無視してくれていた方がありがたい。御堂もそれ以上そちらを見ず、未だ無人の壇上の方へと視線を向けた。

 後ろには壁に立てかけられた黒板が見える。薄らと見える消し残しから、チョークのような道具もあるようだった。


(ああいった道具は、どうやって生まれたのだろうか)


 御堂はどこまでがこの世界で生まれた技術で、どこからが授けられたものなのか、自分ではわからなくなりつつあった。


 そうして暇を潰している間に、詰め所の扉が開いた。その場にいる全員と同じローブを身に纏い、先日と変わらない厳しい表情をした男。トルネーだ。彼が入った途端に、人間もエルフも、談笑の声を止めて静寂を生んだ。


「おはよう、諸君」


 第一声で挨拶を述べたトルネーに、講師が一斉に黙礼する。御堂も少し遅れて、それに習って小さく頭を下げる。


「まず最初に通告だ。聞いているだろうが、本日より新しい魔道鎧操縦と武術の担当が赴任する。名はミドール。あのイセカー家の騎士にして、授け人だ」


 授け人、という単語に反応して、講師らがひそひそと小声話を始める。最後尾の奥にいる御堂の耳に、その内容までは入らなかったが、どうせ碌な会話でもないので、聞こうとも思わない。

 対し、講師らの前にいるトルネーの耳にはそれが入ったのか、咳払いをしてから、話を続けた。


「……一応、わかっているとは思うが言っておく。我が校にいる馬鹿な学徒どもと同位の者が、この学院で講師をしているはずはないと思っている。だが、それでも、そういう輩が講師の中に紛れているかもしれん」


 その重々しい口調に、また講師たちは一斉に黙り込む。


「もし、そういった者がいた場合は、即座に私に知らせるよう。もっとも、私の仕事を無駄に増やす愚か者は、講師にいないと信じているがな?」


 遠回しに御堂に対する態度に関して、牽制してくれているらしい。御堂は小さく「ありがたいことだ」と呟いた。


「して、講師ミドール。何か質問はあるか」


 突然、話を振られた。御堂は「んっ」と意外そうな表情を作った。波風を立てないためにも、自分にはこれ以上触れられないと思っていたのだ。


「良いのか?」


 訪ねながら、指名されたということで、椅子から腰を浮かせて立った。


「良い。遠慮無く聞け。ここはそういう場だ」


 トルネーはそういうが、この場において御堂は完全にアウェーだ。今も、声を出した御堂に、痛いほど視線が突き刺さっている。好奇的なものは一つもない。言外に「黙って座れ」と言われている気すらする。


(これは、胆力でも試されているのか?)


 どうも、あの主任はサディストな気があると見える。これが彼なりの気遣いだとしたら、不器用にも程がある。

 このまま何もないと言って座るのは簡単だが、それでは舐められてしまう気がした。なので、御堂は「では、遠慮無く」と質問を始めた。


「自分は魔術が使えないから、その役割をもらうのは納得がいく。しかし、魔術師の学び舎で武術まで学ばせる必要があるのか?」


 御堂の「魔術が使えない」という発言に、失笑が漏れた。だが、トルネーは臆した様子を一切見せない御堂を評価して、一瞬だけ口で小さい丸を作った。


「うむ、今時、魔術を使えるだけが取り柄の者など戦で役に立たん。それをわからせるための講義だ。お前の得意分野なのだろう?」


「そうだが、俺が聞いている限りでは、魔術こそが戦闘の花形と聞いた。違うのか?」


 魔術師の厄介さは、イセカー領で賊と戦ったときに嫌と言うほどわかっていた。だから、戦でも魔術が活躍するのではないかと思っていた。だが、トルネーは首を振ってそれを否定した。


「いいや、確かに術士の多さは優劣に関わる。だが、関わるだけで決定打になりはしない。そも、数回、遠くから人を殺せる程度の術なら、代わりに弓がある。もう少し近ければ槍がある。それを理解しようとせんのは、戦いを知らない、極端で馬鹿な魔術至上主義者だけだ」


 トルネーが憮然と言い切る。講師の中、数人が明らかに反論を口にしたがったが、先に主任が一睨みするだけで口を閉じた。その中にはゲヴィターもいた。


「なるほど、だから、武芸を教える必要があると……それに、剣や槍で戦えないと、魔道鎧もただの木偶の坊だ。数回、それなりの規模の魔術を撃ち出すだけの移動砲台に成り下がる。そうならないための教育が必要。そういうことだな?」


 魔道鎧の操縦方法は、御堂の乗機であるAMW、地球産の人型兵器と似通っている。操縦者の脳波、意思を読み取って、その通りに駆動し、戦闘行動を行う。

 故に、操縦者が剣などの振り方を知らないと、魔道鎧が持つ武器はお飾りになってしまう。逆に言えば、操縦者が達人の腕を持っていれば、それだけ戦闘能力は向上する。


 それを良く理解している御堂だからこそ出た意見だった。トルネーは満足したように大きく頷いた。


「その通りだ。わかっているではないか、講師ミドール」


「自分の知っていることから言えることを述べただけだ。まだ無知だよ俺は」


「ふん、そういうことにしておこう。では、他に質問はないか」


「もう一つだけ、教えるのは剣を基本で良いのか? 俺は刀剣以外の扱いは、簡単なものしか知らない」


 御堂は剣術に関しては、地球で指南してくれた人物から一応の合格を貰える程度に修めているが、その他に関しては自衛隊で学ぶ基本しか知らない。


「ああ、剣で良い。術士が接近戦で使うのは短剣か、光剣の魔術だからな。それで十分だ……お前は素手の組み手も得意だったな、それも一応、叩き込んでやれ」


 それでも、主任は満足そうだったので、御堂は内心で安心した。


「わかった、聞きたいことは以上だ。質問の場を設けてくれたこと、感謝する」


「うむ、座って良し……では全体への通告だが、近頃、この学院の周辺で賊、我が校の馬鹿ではない本物の賊の姿が見られると報告が届いている。外で講義を行う場合は、良く注意しておくように。それから――」


 その後、講師全員への注意事項や各講師の受け持ちの講義についてが話され、各自解散となった。御堂は早速、自分が指示された講義の準備を行うために、席を立ったのだった。

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