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 うーむ、どうするか。

 話を聞く前の意気込みがやや衰えていることは認めざるを得ない。

 結論から言うと、片っ端から新着をチェックするしかないようだ。

 片っ端からチェックする──。これがどんなことか分かるだろうか。一日に「なれば?」にアップされる小説の数は膨大(ぼうだい)である。どれくらいかというと──どれくらいなんだ? 千はあるんじゃなかろうか。


 もちろん一日中は見てられないから、チェックできるのは自由になる時間だけということになるが、時間は限られている。杉山の話では次の日の夜には消えていた、というからだ。つまり、最大で丸一日は残ってる可能性がある。むろん投稿して三十分で消えた可能性だってあるが、いつ消えたのかは分かりようがないから、一日分をチェックせざるを得ない。

 のんびりもしてられないのである。


 いずれにせよ、うんざりする数なのは言うまでもない。

 正直、俺はその妙なクレクレをする作者は同一人物だと思っていた。だってそうだろう? 別人が同じような時期にポイントを入れるかわりにこんないいことありますよ~と後書きに書くなんて、有り得るだろうか?

 ランキングの上位を見たって、そんなアホなクレクレしてる作者は一人もいない。

 もちろん、同一人物が退会して改めてアカウントを作ったという可能性はある。あるが、もしそうだとしても、俺にとっては何のヒントにもならない。別人と同じだ。


 俺はため息をついてこの奇妙な出来事の感想を呟いた。

「謎だ……」

 杉山じゃなかったら(例えば岡本が言い出したら)まず間違いなく俺を騙そうとしてると断定しただろう。それほど馬鹿げてる。

 しかし杉山の反応や態度、言葉を考えても芝居をしてる可能性は極めて薄い。だいたいそんな細かい芸当ができるやつじゃない。


 杉山の彼女、片桐さんを思い出した。

 あのスカサハ似の一年後輩の子の姿が脳裏によみがえる。さらっさらのロングヘアーにすらりとした身体つき。絶対いい匂いするよなぁ。

 同時に五万費やしても出なかったガチャのことも浮上してきたが、無理やり記憶の底に沈ませた。そっちはいいんだ。


 やっぱりやるしかないな。

 俺に真っ当な手段で彼女ができるだろうか? 俺は自問するが答えは神速で出る。

 ()()()()()()()

 これほど情けない断言もないが、(まぎ)れもない事実であり、俺は嫌な事実も(目を細めて)直視できる度胸のある男なのである。

 まぁ、後書きを見るだけならタダなんだし?

 無駄になるとしても時間くらいで、大した労力でもない。スマホゲーの砂を噛むような周回作業と比べて、何か差があるか?

 いや、ない。

 つらつら考えていたらムクムクとやる気が湧いてきた。

 現金なやつだと言われても大いに結構。俺は不当な悪口にも動じない、度胸のある男なのである。


 俺はさっそく机に向かい、PCを立ち上げる。スマホは画面は小さすぎるからな。

 それから俺はかつてないほどの熱意をもって「なれば?」の新着を(正確には「小説を読めば?」の新着部分だが)開き、後書きをチェックする作業に集中した。

……そしてとんでもないことに気がついてしまった。


「ダメだぁ……」

「ど、どうした富田」

 おなじみ登校途中のことだ。

 俺は杉山に会うなり、弱音を吐いていた。たぶん魂も半分くらい口から出てたと思う。

「多すぎるんだ……新着が」

「まぁ、そうだろうな……」

 杉山はうなずき、同情の表情を浮かべた。

「1ページに20件表示されていて、1ページ分を全部チェックするのに五分以上はかかるんだ。だんだんダレてくるし、手も痛くなってくる」

「まぁ、そうだろうな。それで昨日はどれくらいチェックしたんだ?」

「三時間以上やって25ページだった」

「それじゃあ一日どころか……」

「そうだよ! たったの数時間分なんだ!」


 俺はがくりと膝をついた。

 やる前、俺は一日にアップされる数は千くらいか? と漠然(ばくぜん)と思っていた。特に根拠なんてなかったが、千でもすごい数じゃないか?

 しかしそれはとんでもない間違いだった。千どころではなかったのである。

「何で先に言ってくれなかったんだ、杉山……。お前は知っていただろう、真実を……」

「口で言うよりその目で現実を見たほうがいいと思ってな。分かっただろう? なれば?の世界は甘くない……。中途半端な意気込みで乗り込んでもやられるだけだと」

 杉山は遠い目で呟いた。何の話だよ。戦場かよ。


「どうすりゃいいんだ。お前みたいにまぐれ当たりを引くまで適当にやるしかないのか」

「うーん。じゃあ妥協するか」

「妥協? 胸の大きさをか?」

「何の話だよ! 連載の続きは諦めて、新規投稿だけにすればいいんだ。数はぐっと減るぜ」

「それは俺も考えたんだ。……だけど問題がある! 新着は100ページまでしか表示されないんだ。最後のページを見ても半日分くらいにしかならない。一日分をチェックしたいし、それにいちいち新規の小説か判断するも時間がかかる」

「ああ、なれば?の検索結果は二千件が限度だからな」


 昨日の夜にぶち当たった、衝撃の事実である。

 何と二千件でも半日分だったのだ。ということは一日で四千。

平日でこれだ。土日だともっと増えるに違いない。

 日本最大の投稿サイトを、俺は甘く見ていた。

 どんだけだよ、と思わざるを得ない。

 毎日毎日、四千人以上の作家が投稿してるということだろう?

 なるほどタイトルがあらすじみたいになるはずだ。そこで人目を引かなきゃクリックすらしてもらえないのだ。

 戦場かよ、と突っ込んだが、あながち誇張でもないかも知れない。WEB小説界のノルマンディーだ。


 杉山は不思議そうな表情を浮かべた。

「富田……お前検索条件を変えてみたか?」

「何……? 何だそれは」

「お前な……ちょっとは試したりしろよ。いいか、ここに”検索結果の並び替え”ってあるだろ。いろんな条件で検索できるんだ。ほら」

 杉山はスマホを取り出し、操作して俺に見せる。

 そこには”レビューの多い順”や”文字数の多い順”など、杉山の言う通り、色々な条件があった。そしてその中に……。

「おおっ、”新着投稿順”! これか!」

「そうだ。これだと新連載と短編だけになる。これでチェックしてけばいい」


 載ってるのは短編と連載中(全一部分)ばかり……いや、待てよ。

「三部分、ってあるぞ。これは……?」

「これは一気に三部分を投稿したという意味だ。見てみるか」

 ページが変わり、時間を見ると確かにすべて今日投稿したことになっている。

「ある程度書き溜めておいて、最初はそれなりの量を投稿したほうがいいと思う作家はこうするんだ」

「なるほどな。一話だけだと面白いのか分からない場合があるからか」

 杉山はうなずいた。それからまた操作して、

「ほら。これだと丸一日で17ページだな。めちゃくちゃ少なくなったろう」

 17ページ! 四百もないじゃないか! 数時間でチェックできる量になったぞ。

 俺はほっと胸をなでおろし、杉山の肩を叩いた。

「さすが杉山だ。お前に相談してよかったぜ」


「よかったついでにもっと便利なサイトを紹介しておくか」

「……と言うと!?」

 俺は餌を目の前に出された犬のように顔を輝かせた。もっと便利……何と素敵な響きだろうか。

「俺sugeee.netさ」

「な、何だそのすごい名前のサイトは……!?」

 俺sugeeeネット……。なんてこった、聞くだけで力が湧いてきやがる。

 そうだ、俺はできる。俺はすごい。俺はやれるんだ!

 杉山はうおお、とガッツポーズを取る俺を引き気味に見ながら、

「なれば?の支援サイトだ。なれば?が運営してるわけじゃなくて、ただの外部サイトだから注意してくれ」

 何に注意するのか分からないが、俺は取りあえずうなずいておく。


「なれば?よりもより細かく検索とかできるんだが、今は置いておこう。お前の望む機能は……これだ!」

 大仰(おおぎょう)に差し出されたスマホの画面を見て、俺は叫んだ。

「こ……これはっ!? ……これは……?」

「いやいや、お前いまいち分かってないだろ……この上のほうを見ろ。連載開始日とあるだろ。新規投稿順にずらっと並んでるんだよ」

「そ、そうか。いや、分かってたぞ。うはは」

「嘘つけ……。まぁいいや。ほら、なれば?の一覧と比べてどうだ?」

「うむ。数が多いな」

「そうだ。1ページにつき50件ある」

 50! これは効率がいいな。チェックがはかどりそうだ。


 杉山はフヒヒと笑い出した。

「そのうちこのサイトを使って不正を暴く方法を教えてやるよ……。ランキングに削除されてる作品がたまにあるだろ?」

「ん? あ、ああ」

「あれは中には自分で削除したのももちろんあるが、運営にbanされたのも相当あるんだよ。複垢とか作りやがって……許さんぞ……俺は……駆逐してやる……!」

「お、おう」

 俺は急に今まで見たことないような悪い顔になった杉山を引き気味に見ながら、そろそろ行こう、遅刻しちまうぜと声をかけた。そして例によって校門で待っていた片桐さんの可憐な姿に、改めて後書き探しを固く決意するのであった。

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