6ポイント目 ジャンルを選択しよう
「そっちはな」
「そっち? ……あっ、今のは中間テストの話か!」
そうだ、後書きに見返りがある話は二つあったのだ。
「彼女ができる見返りの話はどうなんだ?」
俺は前のめりになった。こっちが本命なのである。
「まぁ落ち着けよ。順を追って話すからさ。……いつのものように新着をチェックしてたら、今度は評価してくれたら彼女ができます、っていう後書きがあるじゃないか。ポイントくれたらテストの点数が上がる、っていう妙な後書きのことが頭に残ってたからな。今度は念入りに調べたよ」
「さすが杉山。それから?」
「ちょっと待て。さすがに全部暗記はしてないからな」
と、スマホを取り出す。
「まず題名は”十二人の怒れる転生者”。作者は”変なフォンデュ”。ジャンルは推理、題名から分かるようにランキングだと異世界転生/転移になるな。神様が12人転生させて殺人事件の陪審員をさせるってあらすじには書いてある」
「はぁ? またずいぶん変わった作品だな」
魔王討伐とかならともかく、そんなことのためにわざわざ転生させる必要あるのか?
「俺もちょっと調べたんだが、どうも”十二人の怒れる男”という昔の映画のパロディっぽいな。主役がヘンリー・フォンダといって、有名らしい」
「”変なフォンデュ”。なるほどな。……いや、ちょっと待て。中間テストのやつと何から何まで関連性がないぞ」
「そうだ。後書きに見返りがある以外、何もないっぽい。作者も調べたけど、一作目だった。もちろんアカウントを削除してまた作り直したのかも知れないけど、それはこっちには分からないからな」
「ええ……」
勢い込んだ分、落ち込みも激しかった。
「投稿時間は夜の八時二十七分。ちなみに中間テストのやつは確か昼の十一時ごろだったな。日曜だったからその時間だ。それからテストの方は短編だったのに対してこちらは長編の一話目で、七千字を超えてるな。いまどき、なかなかのボリュームだ」
正直、杉山が次々と述べる情報もあまり頭に入ってこない。
「ってことは新着を取りあえず見てみるしかないのか……」
せめてジャンルぐらい共通してたらなぁ……。
「可能性としては、連載途中の小説には書いてないかも知れない」
「ああそうか。それだと結構絞れるな」
楽できる可能性が見つかって、俺は嬉しくなった。
「うーん、でもデータが少なすぎるからなぁ……。念のため、続きの小説もチェックしたほうがいいと思うぜ。本気でやるならな。ついでに気になった作品は読んでみればいい。たまにはいつも読んでるのとは全然違うジャンルも読んでみろ。世界が広がるぞ」
「そうかぁ……?」
こいつ、ヘビーユーザーだからなぁ。
別に俺は世界を広げたいとは思ってないんだが……。
「それと奇妙なことがあったんだ」
「というと?」
「評価ポイントだけじゃなくてブクマもつけて監視してたんだけど、次の日には消えてたんだ」
「消えてた?」
杉山はどこか気味悪そうにうなずいた。
「ブクマの欄にもないし、評価をつけた作品一覧にもない。ここまでは中間テストのやつと同じだ。違うのは……。そうだ、お前に見せる」
杉山はここでスマホの画面を俺に見せる。
「ほら。ちゃんと小説はここに残ってる。なれば?リーダーでダウンロードしておいたんだ。だから俺の記憶違いってことじゃないのは分かると思う。ところがこのマークを見てくれ」
杉山は画面の!マークを指さした。
「びっくりマークがついてるな。何だこれは」
「これは読み込んでもデータが取れない、つまり存在しなくなったという意味だ。アドレスをコピーして別のブラウザで見てみるぞ」
杉山はスマホを操作して、また俺に見せた。
”投稿済小説が見つかりません。一時的なサーバトラブル、ユーザが退会したことによる小説削除などの可能性があります。”
「ユーザが削除したってことだろ? それか運営が削除したか」
「いや、違うんだ。これはもともと存在しない場合に出る文章だ。運営がアカウントをbanしたときやユーザが自主退会して削除されたときは違う文が出るからな」
もともと存在しない小説……?
「この前後のNコードを打ち込んでみてもやっぱり存在しない。つまりこのNコードは完全に架空のものだってことだ。実際、この小説が投稿された時間に近い投稿作のコードを見ても、全然違うものだった」
「ちょっと待った。Nコードって何だ?」
「ああ。アドレスの最後がN、数字、アルファベットになってるだろ? これがNコードだ。小説一つ一つ、投稿された時間順につけられてる。例えば今投稿された新規の小説がN0001abだとしたら、次はN0002abって具合だ」
そうだったのか……。正直、意識したことなかったぜ。
「……ってことは、俺たちは存在しないはずの小説を見てるってことか……?」
急に寒気がして、俺は杉山のスマホから身を引いた。
「言ってみりゃ、幽霊小説だな」
杉山は真面目な顔でそう言った。