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 後で聞いたところによると、出会ったきっかけは駅前の”破滅男”だったという。

 物騒なあだ名だが、やってることはよくある宗教的な演説だ。

「神を信じるのです。今の堕落(だらく)した世の中はあなた方が神を信じないからです! このままだと世界は業火(ごうか)の炎につつまれ、滅びてしまうことでしょう! いや、滅びるはずなのです!」

 この手の与太話をえんえんと繰り返し叫び続けている、まぁちょっと頭がアレな人だ。

 もちろんまともに聞くやつなんていない。外見も神……ではなく髪も髭も伸び放題、服もボロボロでどう考えても半径2m以内に近寄りたくないタイプの人だ。

無視されるのが”破滅男”には気に食わないのだろう、話す内容も昔よりますます過激になってきている。


 片桐さんがこの”破滅男”に駅前広場で捕まって世界の滅びがどうこうの説教を聞かされそうになったところに杉山が通りかかった。

 正義のお味方である杉山君は下心をひた隠し、”破滅男”の魔の手から片桐さんを救い出したというわけだ。もちろん可愛い子だから助けたのだろう。

「おいおい、嫌な言い方だな」

「すまん、ついな……。いや、俺声に出したか?」

「そうじゃないが、お前のことだからきっと何か酷いことを考えていたに違いないと思ってな」

 当たってるだけに反論できない。俺たち通じ合ってるのかよ。

 さすが友人だ、ということにしておこう。


「それでお礼をしたい、とか言い出してさ。俺も断れなくなっちゃって、スタバでコーヒー飲みながら話してたら、彼女も結構なオタなんだよ」

 何が断れなくなっちゃって、だ。はじめから断る気なんかなかったんちゃうんか。

 しかもオタ彼女かよ。最高かよ。

 話を聞いてると怒りのあまりサイヤ人になりそうだったが、杉山に怒っても仕方がないとはさすがの俺でも分かる。

 怒りのパワーを俺は決意に変えていた。

 杉山から詳しい話を聞いて、俺も実行するのだ。

 もはや手段は問わない。何としても彼女をつくってやるのだ……。


 放課後になると俺は杉山のクラスに行き、杉山を発見すると即座に土下座をした。

 いきなりだ。

 ここが肝心な所だから強調するが、お願いの結果、最後に土下座したわけではない。

 話す前に、まずいきなり土下座をしたのである。

 突然自分に土下座をする人間を見たら、人はどう思うか。

 間違いなく、ぶったまげる。度肝を抜かれる。何も考えられなくなると言っていい。

 それが俺の狙いだった。


「な、何だよ富田。何やってんだよ。やめてくれよ……」

 案の定、杉山は狼狽(ろうばい)し、おろおろと周囲を見渡して俺に懇願(こんがん)した。

 放課後のことではあるが、まだ同じクラスのやつはそこそこ残っている。

 みな、何事かとざわついていた。

 これも俺の作戦のうちだ。周囲の注目を浴びると、人は通常の思考ができなくなる。


「頼む、杉山。朝お前が言ってた評価ポイントがどうこうの話、詳しく教えてくれ」

「何だよそんなことか。そんなことしなくても普通に教えるよ……」

 杉山は呆れた顔で言った。

 俺は無言で立ち上がった。

 くそっ、マジかよ。やって損した。

 俺だったら素直に教えず「どうしよっかな~」とか()らしまくるからこうやって土下座をしたのだが。

 杉山はお人好しだということを忘れていた。

 まぁ俺が躊躇(ちゅうちょ)なく土下座できる人間だということを満天下に知らしめたのは以後の学園生活において決して損にはなるまい。

 切れるナイフってやつかな……。俺に触ると火傷……いや、土下座するぜ? フッ。


 それはともかく、さっそく杉山から話を聞くことにする。

「いや、別に特別なことをしたわけじゃないよ。ただ新着を読んでたら後書きに”ポイントを入れてくれたらあなたの次のテストの点数が上がります!”って書いてあったのがあって。ふざけてるなと思ったけど、何だか面白いなとも思っちゃって、作品自体もそこそこ好みだったし、ポイントを入れたんだ」

「作品名とか、作者名は?」

「いやー、実はあんまり覚えてないんだよね……二週間以上前のことだし」


「覚えてなくても閲覧履歴があるだろうが。それ見てくれよ」

「履歴には残ってないよ」

「はぁ? 履歴ってどのくらい残るんだっけ?」

「三十件。まぁ、端末とか、ブラウザでも数は違うらしいけど。少なくても俺の使ってるブラウザは三十件だった。とっくに消えてる」

「うーん、そうか」

 特に杉山みたいなスコッパーだと三十件なんか二週間どころか下手したら一日二日で流れてるか。

「他に何か覚えてることはあるだろう?」


「そうだな……。ジャンルはホラーだった」

「ホラー?」

 意外だな、と俺は思った。ホラーを読むとは知らなかった。ちなみに俺はホラー関係はまったくのノータッチだ。もちろん怖いのが苦手なわけではなく、逆に怖くないからだ。夢に出てくるとか夜中にトイレに行けなくなるとか、そんな子供染みた理由ではまっっったくない。全然ないのである。

 俺の思考を読んだのか、杉山は、

「いや、別にホラーが特別に好きなわけじゃないぞ。俺は何でも読むんだ」

「そうか。それから他には?」


「題名は、何とかのコインランドリー、だったかな。作者名は普通の日本人ぽい名前だったな。確か渡辺とか渡部……何とか、だった気がする」

「何とかばっかりだな。……”コインランドリー”でタイトル検索は……したよな」

 しないはずはない、とは思いながらも俺は念のために聞いておく。

「ああ。ダメだったね。それと、お前はユーザ登録してないから知らないだろうけど、評価ポイントを入れたらその履歴も自分で見られるんだ。でもやっぱり載ってない」

「それも何件かまでしか残らないとか?」

「いや、無限だよ。いやまぁ試したことはないけど、多分全部残るはずだ。ちなみに俺は千件以上評価してる」

 千件ってマジかよ……。すごいやつだな。暇人ともいうが。


 俺の驚愕の表情に気がついたのだろう、杉山は照れくさそうな顔で、

「千件っていっても短編も相当含まれてるからな。長編でもいいと思ったら応援の意味で最初のうちに評価したりするし」

「そうか……。でも、それだと履歴に残ってないのはおかしくないか?」

「そうなんだ、おかしいんだよ。絶対にポイント入れたんだから履歴には残ってるはずなんだ」

「じゃあ、いったいどういうことなんだ?」

「うーん、そうだな。システム的なエラーなのか……。でも本当なんだ。絶対入れたはずなんだ。これだけは間違いない」

 杉山は強調した。

「何だよ。それじゃ何も分からないも同然じゃないか」

 俺は肩を落とした。


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