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「へぇ。お前に彼女。良かったじゃん」

 俺は反射的に言い、数秒後、その内容にやっと脳味噌の理解が追いついた。

 人間、あまりに衝撃的なことを聞かされるとそうなるらしい。

「お前に……彼女?」

「うん。そうなんだよ」

「杉山に彼女……猫に小判、ブタに真珠……?」

「ひどいこと言うなあ! ことわざにしないでくれよ!」

「……お、おまっ。に、か、かのっ」

 俺は衝撃のあまり、どもってしまった。

「かのじょがじょのがのがじょじょにかピー、ガガー。なお、このメッセージは五秒後に自動的に消滅する」

「何のミッションがはじまるんだ!?」


 ふと我に返り、動揺した自分を恥じた。

 あぶないあぶない。俺のクリティカルポイントにヒットするところだったぜ……。

 俺は胸をなでおろした。

 杉山の肩を叩き、

「何だ、冗談か。やめてくれよ、心臓が止まるかと思った」

「冗談なんかじゃないぜ。マジのマジ」

 杉山はやはり真面目な顔で言った。そうだ、こいつは冗談を滅多に言わないやつだった。特にこんなに真面目な顔で冗談を言った記憶はない。ってことは本当……なのか?


「マジかよ……」

 周囲の風景がぐにゃりとゆがんだ。

 俺という人格を築き上げている今までの経験や常識、および順法精神や神への信仰が崩れ落ちそうになる。

 それを食い止めたのは、とある「気づき」だった。

 いや、待て、俺!

 見落としている点がある。

 そう……杉山は彼女ができた、と言っただけで、「どんな彼女」かには言及していない。

 ふ……ふはは。

 ふはははは!

 そうだ。そうだよな。

 あれだよな。彼女といってもピンキリだ。

 まして杉山は俺と同じオタで、どう考えてもいわゆる冴えない部類に入る。

 ピンク髪のキャラさいかわランキング、とか作って俺と言い合ってるような人間なのだ。


 その杉山にできる彼女といったら?

 たとえば……その……今はこういうご時世なので非常に言い辛いのだが……

 オブラートに包んで言うと、そう、ブッッッサイクだとしたら? おまけにデッッッブだとしたら?

 まぁ人間? 顔じゃないし? 体型でもないし?

「ふはは! 杉山よ、気を落とすな!」

 俺は大笑すると、杉山の肩を叩いた。

 杉山は困惑した表情を浮かべた。

「なんで俺が気を落とすんだ?」

「はは、だってなあ! いや、結構なことだよ、彼女ができるなんて! いや~うらやましいぞ! うはは!」

「?」


 そんな馬鹿なことを話しているうちに、地獄の門(ゲート・オブ・ヘル)……もとい校門が見えた。

 いつもなら退屈な時間のはじまりを意味する光景なのだが、今日は違った。

「うおっ、何だあの可愛い子は……」

 校門のそばに長身で長髪の女の子が立っている。誰かを待っているようだ。

 かなりの美形……いや、ちょっと待て! スカサハに似てないか?

スカサハというのはさっき述べたソシャゲのFight/Gigant Ogreに登場するキャラだ。クールビューティでナイスバディなお姉さん的美人に俺はめっぽう弱いのである。もちろんどんな美人にも弱いのだが、特に、という話だ。

 五万円分ぶん回して爆死したのはそのスカサハが欲しかったからである。

 おいおいマジかよ。

 うちの高校にこんな子、いたっけ!?

 まぁまだ六月だし、新入生なんだろう。

 こういう子が彼女だったら毎日が楽しいだろうな……。

 いや、彼女じゃなくても同じ高校にいるというだけで楽しくなる。なにせ同じ空気を吸っているのである。ひょっとしたらこの子の吐いた空気を俺が吸ってるかも知れないではないか。今非常に気持ちの悪い発言をした気がするが、よしとする。


 ちょっと……声を……かけてみるか!?

 フッ……まさか。そんな勇気が俺にあるわけがない。

 ま、ああいう子はサッカー部のイケメンの主将なんかと付き合うに決まってるのさ。それが現実なのだ。俺や杉山みたいな人種にはまるで縁のな

「杉山センパイ、おはよ!」

「あ、片桐さん、おはよう。え、何、待っててくれたの?」

「ううん、今来たばかりだから」

「大丈夫、時間ぎりぎりだよ?」

「あーん、センパイ、優しいんだから」

「ちょっ、待て」

 俺の声は、震えていた。あまりに震えていたので、地震計がP波として計測してしまうのではないかと心配してしまうほどだった。

「ま、まさか、お前がさっき言った、その」

 杉山が恥ずかしそうに、

「そう、さっき言った彼女だよ」


 その瞬間、俺の脳裏をよぎったのは、そう……宇宙(そら)だった。

 ビッグバンにより宇宙が生まれ、138億年……

 その間、いくつの星が、そして種が生まれ、滅んでいったことだろう……

 万物は川のように流れ、流転する……

 今は栄華を極める人間たちも、行く末はどうなるのだろうか……

 いや、今はそんなことはいい……

 ほら見てごらん、空がこんなにキレイだ……

 澄んだ青に白い雲……

 空を見てるだけで、俺は……

「ソラキレイ……」


「お、おい、富田、しっかりしろ! 戻ってこい、富田! そっちへ行っちゃだめだ!」

 杉山が俺の肩をゆさぶった。俺の頭がガクガクと前後左右にゆれる。

 俺は我に返った。

「い、いかん……冷静にならなければっ……! 素数……素数を数えるんだ……1、3、5、7、9……」

「富田、それは奇数だ!」


「くそっ! なぜだっ!」

 俺は激しく地団太を踏んだ。

 それから膝をつき、身も世もなく泣き叫んだ。

 天を仰ぎ、慟哭(どうこく)した。

「おお、神よ!」

 杉山に彼女……それもスカサハ似の彼女がいる。

 姉でも妹でも姪でもなく──彼女がだ。

 その冷酷な現実は俺の心臓を握り潰し、肺腑(はいふ)をえぐり、脳髄を焼き尽くした。

 彼女ができたのはいいとしよう。よくはないが、強引にいいとする。まだ納得はできる。

 問題は、何で……何でこんな……可愛い子が……。

 よりによって、俺ではなく、杉山に……。

 俺は両手を天に突き上げ、血の叫びを叫んだ。

「天は我を見放したか!」


「いや、富田お前……気持ちは分かるが、落ち込むにもほどがあるだろう」

 杉山は俺の落胆のありさまにドン引きしていた。

「高校生にもなって地団太踏むやつってはじめて見たよ」

「俺だってDSを買ってくれってねだりまくって以来、十年ぶりだよ! 」

「あはは、おもしろーい。富田センパイですよね? 杉山センパイから聞いてますよ」

 女の子──片桐とか言ってたな──が朗らかに笑う。

 くそっ。笑う姿も最高じゃないか。

「おっと、もう時間だぞ。急がないと」

 杉山の言葉で俺たちは慌てて走り出した。

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