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「法則……? お前、法則の意味分かってるか?」
「それぐらい分かるわ! 失礼なやつだな!」
まがりなりにも高校生だぞ。ただし「左手の法則」みたいな、法則に上に言葉がつくと途端に理解力が落ちるが。
「そうか……では拝聴しよう」
「結論から言うぞ。お前の言うようなランダムなものではなく、身近にいる誰かの願いだ」
「身近な……? そう言われればそうだな……お前の言う通りだ」
俺は思わず前につんのめりかけた。
「ずいぶん物わかりがいいな。こういう時はお前が反論したり分からないのを俺が説明していくのがセオリーだろ」
「いや、お前の言う通りだからな。俺のテストの見返りは岡本の、俺の彼女はお前の、お前の髪の毛はお前の親父さんの」
「よく分からないのが俺の彼氏ができるってやつだな。でもこれはクラスの女子の誰かが願ったことだろう」
「ああ。彼氏が欲しいというのは普通のことだからな。うちのクラスでもそんなこと言ってる女子がいる」
「そうだ。俺のクラスにもいる」
どのクラスにもいるだろう。だから彼女が欲しいというのも厳密に言えば俺の願いではなく、クラスの誰かのかも知れない。まぁそれは問題ではない。いずれにせよ、身近な誰かではあるからだ。
「そして最後の底辺作家からの脱出というのは……」
俺は思わせぶりに言葉を切った。
「さぁ、だ、誰だろうな。まぁ今どき”なれば?”に書いてるやつはそこら中にいるだろうし」
案の定、焦り気味の声音だった。
まぁ、そういうことにしておこう。
「……という風に、ランダムというよりは身近な人の願いが見返りに反映していると解釈したほうが合理的だ。それに最初の見返り、テストの点数がそこそこいい、というのもそれで説明がつく」
「ああ。岡本は満点なんて高望みはしていなかった。小遣いが減らされないように、そこそこいい点数が欲しかったんだ」
おまけに底辺脱出の見返りもな。お前は書籍化とか累計トップ10とか望んじゃいない。なれば?をよく知るお前だから、そんな大それた願いは浮かばないんだろう。
「しかし、法則が分かってもあまり役には立たないな……」
杉山がうなるように言う。
「まぁ、そうだな」
それは認めざるを得ない。あまりと杉山は言ったが、正直全然役に立たない。
「続けるのか?」
「続けるさ。可愛い彼女ができる、なんて男子なら誰もが思うことだろう? また後書きにのる可能性はあるぜ。止めるなよ」
「もちろん俺は止めないさ、がんばれよ。……それと今の話を聞いて、俺も一つ分かったことがある」
「ほう。なんだ?」
「俺たちが見返りをもらえた確率の高さだよ。なれば? にはとんでもない数の読者がいるんだ。俺は最初に読んだ人に権利があるって言ったけど、最初の読者になる確率なんてめちゃめちゃ低いはずなんだ」
「そうだな。PVを見ると、あまり人気のないジャンルでも何十人といるな」
「うむ。まぁジャンルにも時間帯によるだろうが、それでも相当な数だろう。それにしては俺は二回、お前は一回見返りをもらえている。ちょっとできすぎなんだ。もしかしたら、願いごとをした人に近い読者……つまり今回の場合は俺たちに優先権があるのかも知れない。いずれにせよ、仮説だがな」
「なるほどな……」
確かに、いくら更新されてすぐクリックするとはいっても競争相手(向こうは競争とは微塵も思ってないだろうが)は多いのだ。俺たちの「勝率」は高すぎる。
だが、杉山の言う通りだとすれば合点がいく。
「ま、雲をつかむような話ではあるがな。結局どれにその後書きがあるか、見てみなきゃ分からないんだし」
そうだなと俺は同意し、それで奇妙な後書きについての話は尽きた。
しばらくオタク方面の話をして、電話を切った。
電話を切った後も小一時間更新チェックをしたが、成果はなかった。
仕方なくベッドに入り、ウトウトしかけた時のことだ。
眠りの航海へと出航しかけた俺を、突然の疑問が襲った。杉山と話し合ったせいだろう。
……待て。なぜポイントを入れた人の望みではなく、他人のになるんだ?
この手の「願いを叶えてくれる」ストーリーで、他人の願いを叶えるものなんてあるのか? まぁ俺が知らないだけで、ありはするのだろうが……。やはりこの場合は不自然だろう。
なぜ不自然かというと、そもそも他人の望みが見返りでは評価ポイントを入れてくれない可能性があるからだ。
実際、俺は髪の毛が生えてくるという見返りをスルーしようとしたし、底辺脱出はスルーした。彼氏の件も──結果的には誰かに先を越されたが──ちゃんと読んでいればポイントは入れなかった。
願った本人には大切なものかも知れないが、俺にとっては全部どうでもいい見返りだった。
ポイントを入れて欲しいから見返りを出してるのに、その見返りを読者がどう感じるかは未知数。
この矛盾というかチグハグ感は、いったいどういうわけなんだろう?
もちろん、他人のだろうがそこに意味なんてないのもかも知れないが……。
そもそも願いが叶うこと自体、有り得ないことなんだし、他人の願いだろうが自分のだろうが差はないのかも知れない。
眠いせいもあり、俺は自分をそう納得させた。
結論が出るようなことではない。どこで納得するかの問題だ。
しかし、心のどこかで引っかかるものがあるのも分かっていた。
……実はその疑問はすぐに解消されるのだが、同時に最悪の事態を目の当たりにすることになる。
そうとは知らず、その時の俺は呑気に惰眠をむさぼっていた。