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 気になることがあった。

 それは後書きの見返りの内容だ。

 テストの点がそこそこいい・彼女ができる・髪の毛が生える・彼氏ができる……共通点は何だろう? もちろん、みんな「いいこと」だ。まぁ俺にとって彼氏ができるのは悪夢だったが、女の子と一部の男性にとってはいいことだろう。

 ポイントを入れた見返りなんだからいいことを提供するのは当たり前だが、しかし、ずいぶんとおかしなものがある。

 彼女彼氏は取りあえずいいとして、テストの点が「そこそこいい」て。「そこそこいい」でそそられるやつはそんないないだろ。俺みたいないつも成績が悪いのは別だけどな。そこは「凄くいい」にするべきじゃないのか? 

 それに髪の毛っていうのもな……ピンポイントすぎるというか。「なれば?」ユーザーにはどうなんだろう?

 実はその点を杉山と話したことがあるが、杉山が言うのはランダムではということだった。

「ランダムなぁ……」

「まぁ、自信があるわけじゃないけどな。そう考えるしかないってことだ」

 俺はいまいち納得できなかったが、とはいえ代わりに何か考えがあるわけではないし、法則が分かったところで何か出来ることがあるわけではない。

 取りあえずは杉山に同意するしかなかった。


 相変わらず更新チェックは続けている。

 気を付けることが二つばかり増えた。

 まず一つ目は、言うまでもなく後書きの内容はちゃんと読むことだ。今回は助かったが、次はないかも知れないからな……。

 二つ目は最初の読者にならないといけないということだ。

 俺に彼氏ができなかったということは杉山の推測が当たってるということになる。つまり、その小説を最初に開かなければならないということだ。

 これはリアルタイムで貼りついてなきゃいけないという意味ではキツイし、過去の作品をチェックする必要がないという意味では楽だ。


 正直、最近はそこまで熱意をもってチェックはできてない。

 見返りがランダムで俺が望むものではないかも知れない上に、最初に見なきゃいけないってのはなぁ……。

 時間を決めて、その時間だけチェックするという形にした。そうじゃないと延々更新を待ち続けることになるからな。

 頬杖をつきながら漫然とクリックした最新の小説を、後書きまでスクロールする。

「おっ!?」

 俺は背筋をピンと伸ばし、改めて後書きを読んだ。

 自然に提示されてたせいで、見逃すところだった。


>続きが読みたい

>面白かった

>底辺作家から脱出したい

>というかたは評価ポイントをお願いします


 これ……あれだな。例のあれだ。

 しかし、今までの書き方と若干違うな……。

 ポイントを入れた見返りを強調してない。後書きを逐一読むなんてそんなにいないだろうから、入れたいやつは内容が良かったから入れるんじゃないか?

「しかしなぁ……」

 俺は失望して天井を見上げた。

 またしても俺にはどうでもいい見返りだ。

 泣いて喜ぶやつもいるんだろうが、俺は読み専だしな。

 どうして俺にはいいやつが来ないんだ? 普段の行いか? 行いなのか?

そうだ、念のためアクセス解析を見てみる。

 PVは……1。

 俺が最初か? ポイントを入れるつもりもないから、意味がない確認だが……。

 しかし底辺脱出したいから他の作家にポイントを入れるというのは皮肉なものだ。

 そうだ、杉山にも知らせとくか。

 俺はスマホに手に取った。まだ起きてるだろ。


「おう、杉山。たぶんまた例のやつ、見つけたぜ」

「ほう。今度は何だ? その口調だと、あんまり望んだものでもなさそうだな」

「当たり。底辺作家から脱出できるってさ」

「なにいっ!?」

 俺は驚きのあまり飛び上がりそうになった。

「な……なんだよ……急にでかい声出して」

 杉山は我に返ったように声のトーンを下げた。

「い、いや……。そんな見返りもあるんだな、と思ってな……」

「ふーん。そんな驚くようなことか?」

「い、いや、底辺から脱出するのに他人にポイント入れるってのは皮肉だなと思ってな。感想を書くとかレビューするなら名前が分かるから別だけど、評価ポイント入れても分からないからな」

 こいつ、俺と同じこと考えてやがるな。


 杉山がごくりと唾を飲む音が聞こえた。

「そっ、それでポイントは入れたのか……?」

「入れないよ。俺、書くつもりねーもん」

「だよな……もったいない」

「もったいない?」

「え?」

「お前、やっぱり書いて……」

「ち、違うわ! い・い・いやだな~富田君、変な勘違いしちゃ。僕は書くことになんか全然興味ないんだからね!」

 なんでツンデレ気味に答えるんだよ。

「ふーん。そうか。すまなかったな」

 やっぱりそうだな。こいつ、「なれば?」で書いてやがる。それも底辺作家だ。

「残念だったな、杉山。彼女ができる見返りと交換できたらいいのにな」

「いや、だから違うって。っていうかもしできても交換とかお断りだし」

 はいはい、そうですか。

「ま、こんな得体の知れない見返りに頼るより、自分の力で底辺から脱出した方がいいに決まってるさ」

 俺は得体の知れない見返り目当てに夜な夜な貴重な時間を浪費している自分を棚に上げて、そう言った。

 杉山はため息をついた。

「そうか。そうだよな……って、違うからな!」

「ま、そういうことにしておいてやるよ。……ちょっと待て」

 ふいに疑問が湧いてきた。


「どうした?」

「これもしょぼい。スケールが小さい」

「ん? どういうことだ?」

「ポイントを入れた見返りが、だよ。()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「何だ、そんなことか。お前は有名作品しか読まないから知れないだろうが、ブクマ100いってない作品のほうが圧倒的に多いんだ。確か一割程度じゃなかったかな」

「そりゃお前はなれば?に詳しいからそんなこと言うんだろうが、やっぱりどう考えてもしょぼいよ。お前が前にアニメや漫画だと……って言ったが、これこそアニメや漫画だと有り得ないようなしょぼさだ」

「むむっ。ブクマ100をしょぼいと言われたら反論したいが……まぁ、客観的に見ればそうかもな」


「だろ? そもそもお前のテストの点数もおかしかった。なぜかそれなりの点数だった」

「でもお前もこれは現実だ、って言ったよな? 現実的な線で叶えてくれるのかも知れないぜ」

 お前の彼女は現実的な線じゃないだろ、と言いかけて俺はやめた。さすがに失礼だからな。俺は礼を知る男だ。

「現実的な線ねぇ……お前はもっと満点連発のほうが嬉しかったんじゃないのか?」

「そこそこでよかったよ。満点なんて取ったら注目浴びるし、不自然だろ。ま、俺は別に岡本みたいに小遣い減らされるわけじゃないから、そこまで点数にはこだわらなかったけどな」

 俺の背骨を電気のような衝撃が走った。

「ちょっと待て、杉山。今何て言った?」

「何か気になったか? 注目を浴びたくないってとこ?」

「いや、そのあと」

「岡本のやつが中間で点数悪かったら小遣い減らされるってところか? 言ってたじゃん、あいつ。やばいやばいって」

「ああ、そうだったよな」

 そうか、そういうことか……。

「分かったぞ、杉山」

「何が分かったんだ?」

 杉山が不思議そうに言う。顔は見えないが眉をしかめてるに違いない。

 俺は息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。

「見返りの法則だよ。お前のいうようなランダムなものじゃない。これには法則があるんだ」

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