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秋葉原ヲタク白書15 月は無慈悲なアキバの女王

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起こる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載な「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第15作です。


今回は、謎のドイツ兵との黄金郷への地図争奪戦に巻き込まれるコンビですが、実は彼等は陥落寸前のベルリンからタイムマシンで現代へ脱出した「時間ナチス」の一味で…


お楽しみいただければ幸せです。

第1章 聖都炎上


「お嬢さん、それは貴女の自転車ですか?」

「あ!ゴメンナサイ。私ったらウッカリ鍵を忘れてしまって」

「防犯登録はお済みですか。ちょっち拝見」


あぁ。暗闇から制服姿のおまわりさんが現れて、僕達の前に立ちふさがる。

深夜の秋葉原パーツ通り。まぁ確かに怪しいと逝えば怪しいカモしれない。


これから、僕達はアフター(閉店後の店外デート)でいつものファミレスへと逝く途中。

問題はミユリさんで、その、まあ、自転車を押してルンだが、前輪を宙に浮かせてるw


つまり、典型的な自転車泥棒のスタイルなワケだね笑。


御屋敷(おみせ)に鍵を忘れてきてしまったの。見逃して。私も貴方を見逃してあげるから」

「え?私を見逃す?いったい何を逝ってルンだ、君は?」

「それ、コスプレょね?こんな真夜中に警察ゴッコかしら?それとも、貴方、本物のニセ警官?」


え?ソレ、コスプレなの?


確かによく見ると、着ている制服もチャチい…コトないょ。よく出来てルンだけど笑。

しかし、ニセ警官?の慌てようはハンパなく正体を見破られた二十面相並みに取り乱す。


「な、なぜバレたんだ?今度こそ完璧になり切ったと思ったのに」

御屋敷(おみせ)がハネた後のキャストを狙う新手のナンパょね?有名ょ貴方達。コレって立派な出待ちでストーカー行為だわ。万世橋(アキバポリス)に突き出すわょ!」

「そ、そんな…」


もはや偽警官?の方はタジタジで、ミユリさんに散々説教された挙句、何と自ら進んで自転車を押しますと申し出る始末。


と、その時だ!


地底で何かが爆発したような地響きがし、正面のビルの地下から男達が飛び出して来る。

彼等は、地上への階段を駆け上がりながら振り向きザマに地下に向けて自動小銃を乱射。


ん?MP-40 シュマイザー短機関銃か?

あ、あれ?シュタールヘルム(ドイツ軍のヘルメット)をかぶってるょ?


この人達、ナチスドイツ軍?おぉ!よく見たらガスマスクを装着しててもう完璧。

極めつけは、ベルトに挟んだ缶詰型の炸薬に木製の柄を付けたドイツ軍の手榴弾。


地上に飛び出したドイツ兵?が柄の先のキャップを外し中の紐を引き地下室に放り込む。

数秒後、地下室で爆発が起こり、噴煙と共に断末魔の悲鳴が地上まで噴き上がって来る。


なんなんだコレ?サバイバルゲーム?


呆然と立ちすくむ僕達と鉢合わせしたドイツ兵?が、シュマイザー短機関銃を構えて僕の胸にピタリと狙いをつける。


ソレ、BB弾だょね?


次の瞬間、銃声が響いて眼前のドイツ兵が血飛沫(ちしぶき)を上げ翻筋斗(もんどり)打って倒れる。

え?血飛沫(ちしぶき)?実弾かょ?弾道は近くのビル屋上からだけど狙撃兵でもいるの?


そこへ、けたたましくサイレンを鳴らし消防車が中央通りから路地へと突っ込んで来る。

僕達の目の前で急停車しワラワラと消防隊員が降車してドイツ兵に銃を突きつけて叫ぶ。


「Keine Bewegung!Hande Hoch!」


やや?消防隊員達が振り回す銃は、サイレンサー付きのMP5?実物を見るのは初めてだ。

コレって、対テロ特殊部隊の零中隊が使っている奴だょね?この消防隊員達はいったい…


「ギャー!」


今度は、ビルの屋上から狙撃銃を抱えた人影が火ダルマになり絶叫しながら落ちて行く。

同時に、いつの間にマウントしたのか消防車の運転席上でM2重機関銃が対空射撃開始w


そして、ソレが現れる…


「ま、(まぶ)しい!目が開けられない!」

「ちくしょう!新型だ!まさか奴等、こんな市街地まで飛ばして来るとは!」

「対空戦闘!レーザーバズーカ用意!」


いつの間に現れたのか、パーツ通り上空に…何だ?その、何と逝うべきか…光り輝くUFO?が出現する。


いや、ホントに、何だ、UFOでいいのかな?

実際、有名なアダムスキー型の…やはりUFO?


そのUFOは、真夜中のパーツ通りの雑居ビル街をサーチライトみたいな光でヤタラまぶしく照らし出しながら強行着陸を試みる。


途中、底面?の突起から細い光線で消防隊員達を狙撃し次々と火ダルマに変えて逝く。

その光線は、当たったもの全てを瞬時に炎上させる"火焔光線"みたいなものらしい。


真っ先に消防車が狙われて爆発炎上、配置についていた消防隊員も次々と燃え上がる。

さらに、同類と思われたのか僕の傍らにいたニセ警官も胸を射抜かれ瞬時に炎上する。


慌てて、僕とミユリさんは(ミユリさんは自転車を投げ捨てて)電柱の影に隠れる。

爆発した消防車と全滅した消防隊員が燃える中、生き残りのドイツ兵がUFOへと走る。


いや、消防隊にも生き残りがいた。


僅かな生き残り、それも全員が負傷しているようだが、彼等は路面のマンホールを開け、消火栓みたいなモノに何かを接続する。


そして1人がホースみたいなモノを腰に構えて…ん?コレは消防士の放水ポーズ?

消火栓に接続したホースから放水して火災を鎮火しようというというのだろうか?


後ろに控えた消防士が後方を確認し、ホースを構えた消防士のヘルメットを叩く。

先頭の消防士が引き金のようなモノを引く…

あ、あれ?あの横顔は?


「ZAAAP!」


ホースの先端からまばゆい光線がほとばしり出て、ドイツ兵を収容して逃走を図るUFO目掛け、真っ直ぐに延びて行く!


…が、惜しい!

照準が微かに狂ったか、光線はUFOをかすめ虚空に消える!


それでも、離陸を試みたUFOはバランスを崩し、パーツ通りのビルのアチコチに激しくぶつかりヨロめいて…忽然と消える←


その時、一部始終を電柱の影から見ていた僕は、とんでもないモノを見てしまう。

実は、光線を撃った消防士?の方にも見覚えがあったと逝えば、まぁあったけど….


消火栓光線(レーザーバズーカ)が照らし出したUFOの表面には、何とナチスドイツの鉤十字マークが鮮やかに描かれていたのだ。


まぁ、あれだけドイツ兵が現れて大騒ぎをした後だから、幕引きがナチスが極秘開発したUFOでも構わないと逝えば構わないのだが…


でも、UFOって…NASAが飛ばしてたんじゃないのか?笑


第2章 野戦病院カフェ ナイチンゲール


翌日、僕は昨夜のUFO騒ぎが、何者かにより完全に隠蔽されているコトを知る。


恐らく死者も出たであろう、アレだけの騒ぎをマスコミが完全に無視して報道しない。

ママょと僕自身がSNSでつぶやいてみたが、誰がどうブロックしてるのかUP出来ない。


現場に行ってみたが、焼けただれたビルは全てブルーシートで覆われ、見事に補修工事にカモフラージュされている。


路面には、よく見れば人型とわかる黒い焼跡が残るが、そうと気づき騒ぐ者もいない。

さすがに、昨夜ドイツ兵が飛び出してきた地下店舗にはクローズドの札が揺れている。


あ、基盤屋だったみたいだ。

あの地下の店。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夕方になってミユリさんは、いつものように御屋敷(メイドバー)を開店させる。

1番客で御帰宅(らいてん)した僕と目を合わせるが、お互いに気不味く言葉少な。


そこへ…


「おはようございます。リンカさんからコチラは"メイドの駆け込み寺"だと伺ったのですが」

「おかえりなさいませ、御嬢様。貴女もメイドさんなの?」

「"ホワイトエンジェル"のマタハと申します。ミユリ姉様って貴女ですか?お助けください!」


ミステリアス系の美少女だ。


艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、人懐っこい笑顔に思わず心のガードが下がる。

何処かAVっぽいけどホントにメイドなの?五反田界隈のデリヘルとかにいそうだけど?


「御主人様が。私の御主人様が!」

「落ち着いて、マタハさん。貴女の御主人様がどうなさったの?」

「大怪我をされたのです。今宵のお客様の中にお医者様は?何方かお医者様はいらっしゃいませんか?」


急病人発生に客の中から医師を探すCAのノリで狭いバーの中を眺め回すマタハさん。

僕はと逝えば、イメクラのスッチープレイとか思い出して危うく手を挙げそうになる←


「2年目の研修医だけど」


すると、まるで僕の心の声をそのまま代弁したかのように名乗り出る人がいる。

そんな人がアキバのメイドバーで遊んでてどーすんの?と思いつつも振り返る。


見れば、知らない地下アイドルのヨレヨレトレーナーにジーンズと逝う冴えないヲタク。

彼こそナリスマシでは?と思うが反面コレが何かの冗談でも笑い話で済ませられるカモ←


「わかりました。マコィ御主人様、御一緒していただけますか?」

「ミユリさんのお願いとあれば、喜んで」

「あぁミユリ姉様、ありがとうございます!私がみなさんを御案内致します」


マタハさんが艶やかな黒髪を翻し、真っ先に御屋敷を飛び出し昭和通りを突っ切る。

美しい後姿に釣られて、僕もフラフラと後を追うがミユリさんの目からデス光線が!


全身を殺気に射抜かれ(ひる)む僕だが、そんな僕を見たマタハさんが妖艶に微笑む。

あぁ美しい!美し過ぎるょ!マタハさん!しかしホントにメイドなのかな彼女。


五反田界隈のデリヘルに…(以下省略)


総武線沿いの雑居ビルの1つに飛び込んだマタハさんが3階まで続く急な階段を登る。

マタハさんのすぐ後に続こうとする僕の襟首をミユリさんがエラい力で掴み引き戻す。


何をするんだミユリさん!

マタハさんのパンツ見損ねたじゃナイか!


仕方なく研修医のマコィさんの尻を見上げながらヤタラ傾斜のキツい階段を駆け上がる。

ココは確か先月まではスッチーカフェだったハズだが、今宵は別の看板がかかっている。


「野戦病院カフェ ナイチンゲール」


飛び込むと中は阿鼻叫喚の地獄?絵図だ。


「しっかりして、大尉!生きて祖国に帰るのょ!」

「コ、コレを恋人のメイベルに…最後まで愛してたと伝えてくれ」

「バカっ!自分で伝えなさい!ドクター、早く!ってかメイベルって何処の御屋敷(メイドカフェ)の子?」


中は、狭い室内にストレッチャーみたいな簡易寝台がギッシリ並び、その回りをナースの格好をしたコスプレ女子がウロついている。


どうやら、戦傷者役で横になった客に、コスプレしたナース女子が癒し系の絡みをするロールプレイカフェのようだ。


うーんスッチーカフェ時代の旅客機っぽいシートがストレッチャーに変わっただけ?

ソレに合わせて、女子全員のコスプレもスッチーからナースに衣替えという寸法だ。


個人的にはスッチーの方が…

とにかく!


鰻の寝床のような店内の1番奥が血痕のついたカーテンで仕切られVIP席になっている。

ソコにはヤタラ本格的なストレッチャーに乗せられ包帯などの処置が施された客がいる。


万事が文化祭的手作り感満載の店内で異彩?を放つストレッチャーをよく見ると…

あれ?「東京消防庁」ってステッカーが貼ってあるょ?救急車から盗んだのか?笑


マコィさんが駆け寄り、半ミイラ男?の脈を取り応急処置の状況などを手早く確認する。


「紫色水泡を圧迫しても発赤が消えない。深達性II度熱傷。重度のヤケドで植皮が必要なレベルだ」


ややっ?患者も医者もモノホンのようだ。

他のオチャラケなプレイとは全然違うょ。


ところが、ソコへ、何だか、スゴい眠気が…

あ、あれ?どうしたんだ?頭が…痺れて…


「コ、コレは催眠ガス?」

「マタハさん!マタハさん!」

「助けてくれ!奴等に殺される!」


ストレッチャーの男が必死に叫んでいる?

何で彼は叫ぶのだろう?ナゼ殺されるの?


ミユリさんが呼んでるマタハさんは、既に床一面に美しい髪を広げて倒れている。

あぁ美しいな、マタハさんは…倒れても美しいょ…え?ミユリさんも…倒れるの…


強烈な眠気に襲われて、僕の意識も次第にボンヤリと遠のいて逝く。

(かす)みゆく僕の視野の中をガスマスクをしたドイツ兵が横切って逝く…


第3章 彼女はエージェント


「お・き・て」


春の目覚め!やさしいミユリさんの声に薄く目を開けたら…

野戦病院カフェ ナイチンゲールのチープな内装でガッカリ。


「テリィ様、急いで!」

「え?何処へ?」

「"洪水の化学"です!」


え?"洪水の化学"?

あのイケメン教祖の新興宗教?


僕達は、野戦病院カフェで気を失っていたのだが、どのくらい時間が経ったのだろう?

ストレッチャーの向こう側にマコィ研修医が狭い床に器用にカラダを折り曲げ失神中。


他にも店内は屍累々だが、どうやら全員眠らされてるだけで息はしているようだ。


しかし、ストレッチャーは空で(妖艶な)マタハさんの姿もない。

急階段を駆け下りながら、ミユリさんの背中に向かって質問を投げる。


「マタハさんがいないんだけど」

「真っ先に彼女が気になるんですか?お怪我をされた御主人様共々、連れ去られたようです…しかし、まさか催眠ガスを使うとは」

「あのUFOの時に現れたのと同じドイツ兵の姿を見かけたけど、彼等の仕業かな?」


既に真夜中だったが、僕達はJRのガードをくぐり神田消防署(アキバファイア)の横を抜け中央通りに出る。


「あの御主人様は、恐らくUFO騒ぎの時に負傷されたドイツ兵さんではないでしょうか?負傷し取り残されたドイツ兵さんをマタハさんがかくまっていたんだと思いますが」

「そうか!野戦病院カフェならケガ人を隠すにはもって来いだものね。そうと知ったドイツ兵が戦友を連れ返しに来たワケか!でも、彼は『殺される!』って恐がってたょ?それと何で"洪水の化学"なのかな?」

「"ホワイトエンジェル"は"洪水の化学"が出店したナースバーです。恐らくマタハさんは"洪水の化学"の教徒なんだと思います」


聞けばミユリさんの古いメイド仲間のリンカさんがNo. 1を張ってる御屋敷とのコト。

最近になって、メイドカフェから看護婦(ナース)バー?にリニューアルオープンしたらしい。


「でも、何でマタハさんは負傷兵なんかかくまったのかな?やっぱりマタハさんってナイチンゲールみたいに博愛精神にあふれた素晴らしい女性だったんだね」

「いいえ。多分、あの2人はデキてるんだと思います」

「えええええっ?マ、マタハさんが…」


夜道を急ぎながらも、ミユリさんはナゼか僕に向かってドヤ顔をキメる。


さっきまでは謎のドイツ兵に拉致されたマタハさんを救出しなきゃ!と固く決心してたんだけど、急速にどうでもよくなってくる。


コト僕の取り扱いに関しては、ホント、ミユリさんの右に出る者はいない。


"洪水の化学"は、中央通りに面したタワービルにあって、僕達は高速エレベーターに乗る。

降りたフロアは、丸々教団施設になっていてガードマンが「またか」という顔をする。


「やぁ!教祖、いる?」

「ハ、ハイ。おられますが…」

「テリィが来たと伝えてくれ。大至急」


"洪水の化学"には、司教の背任横領を暴き、教団内の大掃除(粛清?)を手伝った貸しがある。

果たして「拝謁殿」と札のかかったチャチで狭い会議室に通されるや数分で教祖に拝謁←


しかし、真夜中なのによくいたな。

ココに住んでるの?


「メジア大教祖。単刀直入に伺いたい…」

「昨夜、パーツ通りでデルタとドンパチやらかしたUFOのコトか?それとも時間ナチスの負傷兵をかくまったウチのエージェントのコトか?」

「えっ?えっ?マタハさんって…ヲタクのエージェントなの?」


真夜中の不意の来客?にもトレードマークの黒背広の上下にネクタイなしで忽然と現れ、淀みなく受け答えをするメジア。


流石は新興宗教を束ねる大教祖だ。

もしかしてその黒背広、パジャマ?


「マタハは、ウチの偵察総省の腕利きエージェントだ」

「ええっ?何で宗教団体に偵察ナンチャラなんて部局があるの?」

「最近アキバのスタートアップでUFO関連のエンジニアが次々と失踪してるのを知ってるか?」


もちろん、知らない。

そもそもUFO関連のエンジニアって誰?


UFOにも車検工場とかあんの?


「私がCEOを務めるスタートアップ(ベンチャー企業)アララト・インターナショナルが電磁コアの開発に目処をつけたコトはこの前、話したね」

「あぁ、あのUFOの動力源となるとか逝う奴かな?自家用UFOの世界を切り開くとか逝ってたょね、確か」

「ソレだ。ゆくゆくはタイムトラベルをも可能とする革新的技術だ」

「確信的妄想って気もするけど、その話を聞いてからもう結構経つんだけど、未だ実現してないの?」

「うっ!実は、もう1歩と逝うトコロでいつもキーパーソンが姿を消すんだ。どうやら他社でも同様の失踪事件が相次いでるらしい」

「お互いに高給で引き抜き合戦とかしてんじゃないの?」

「いいや。このアキバから姿を消しているのだ。マタハは、スタートアップ他社も含め、この一連のUFOエンジニア失踪事件の全体像を調査していたんだ」


ココでミユリさんがポツリと口を挟む。


「ソレって…産業スパイですか?」


すると何とメジア大教祖は呆気なく絶句してしまう。

おぉ!彼が言葉に詰まるのを初めて見たょクスクス。


「とにかく!彼等の次のターゲットがわかったのでデルタにも知らせて網を張っていたのだが…結果は君等が御覧の通りだ」

「デルタ?」

「デルタ・ストライク。国益優先のための特殊部隊だ。既に君は、何度も彼等と会ってるそうじゃないか」


あの元メイドのサリィさんが所属している特殊部隊のコトかな?

もしかして、サリィさんもあのUFOとの戦闘現場にいたのカモ。


あの消火栓光線(レーザーバズーカ)を発射した消防士?がサリィさんに似てたんだょな。

怪我とかしてなきゃいいのだが。


「恐らくマタハは、ドイツ兵コスプレの連中に拉致されたのだろう。あの連中は、特殊な基盤を探してルンだけど、実は、ある筋から問題の基盤を近々入荷するとの情報が入った」

「え?マタハさんはスパイとしての正体がバレて捕まったの?女スパイって捕まったら拷問されルンだょね?ってか、そもそも、あのドイツ兵は何なのかな?」

「謎だ。しかし、拉致したエンジニアの叡智を結集し、我々より先にUFOを実用化してしまったようだ。正体不明だが彼等は自分達をこう呼んでいるようだ…すなわち『時間ナチス』と」


時間ナチス!


第2次世界大戦後、世界の何処かで逃げ延びたナチスが再び世界征服の機会を狙って息を潜めていると逝う話は枚挙に暇がない。


まぁ、平家の落武者伝説のワールドワイド拡張版と考えればいいカモしれないね。

逃げ延びた先は南米や南極、最近では月の裏側まで逃げたというSF映画まである。


思わず顔を見合わせる僕とミユリさんだったが、その時、ミユリさんのスマホが鳴る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夕暮れ迫る秋葉原パーツ通り。


ナイト営業に入るコスプレ店舗の子達が一斉にストリートに並んでビラを配り始める。

メイドさんもいるけど、他にもクノイチやシンデレラ姫、巫女さんにミニスカポリス…


ドンキ秋葉原店のコスプレ売場が、そのまま引っ越して来たかのような節操のなさだ。

フェイスも、まぁその千差万別なんだが行き交うヲタクにそれなりに必死に営業する。


で、その1番奥というかほとんど蔵前橋通りとの角辺りに絶世の美女メイドが2名。

やたら愛想はいいんだが、実は彼女達が手にしたビラをヲタクに手渡すコトはない。


何故なら彼女達のビラは白紙だから笑。


「ミユリさん。さっき入って行った小田急ロマンスカーのコスプレした…」

「GSE乗務のグランドパーサーの子?」

「そろそろ出発進行カモ」


笑顔を浮かべたまま、2名の視線が雑居ビルの狭い出入り口の辺りをサーチしている。

そのビルには、鉄道員コスプレのカフェもあるが最上階(5F)には基盤屋が入っている。


「おかえりなさいませ、御嬢様!」

「え?え?貴女達は…」

「さぁ今宵の御帰宅はコチラです!」


くたびれた2人乗りの小さなエレベーターから小田急のグランドパーサーが出て来る。

と、両脇から忍び寄った絶世の美女メイド2名が、左右からガッチリと取り押さえる。


傍目にはコスプレ仲間がじゃれ合ってるか、悪く見ても強引な客引き?にしか見えないがコレはもう立派な拉致・誘拐です。


いや、ホント3人共笑顔を絶やさないんだが利き腕とか逆手に捻じ上げてんだょな。怖っ。


「あらぁ。そのバッグの中は何かしら?ちょっち付き合ってくださる?マタハさん」


第4章 黄金郷エルドラDへの道


もうお気付きだと思うけど、蔵前橋通りの角にいたのはミユリさんと元メイドのサリィさん(現デルタ・ストライク?)だ。


サリィさんの部隊は、先日のパーツ通りでのUFO騒ぎで壊滅的な打撃を受ける。

だから、新手の情報を受けて網を張るのにミユリさんの助けを借りたワケだね。


その時ナゼか僕にはお声がかからなかったんだが…まぁいいや、僕は頭脳派だから←


サリィさんの話では、謎の組織「時間ナチス」が血眼で探す基盤には、ナチスが隠した財宝へのアクセスが隠されているらしい。


「黄金郷エルドラDと呼ばれているの」


ソコには、単なる金銀黄金の類のみならず、ナチスが世界中から収奪した超古代の叡智や失われた文明の遺産なども眠っているらしい。


「時間ナチス」の素性は相変わらず不明だけど、彼等はエルドラDへのアクセスを求め、はるばる現代まで来たというワケだ。


そして、スパイを放って、一旦は基盤を手にしたものの、最終的には確保に失敗する。

小田急レストランのコスプレが似合ったマタハは「時間ナチス」のスパイだったのだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「いやぁみなさん!すみませんでした!今宵は当教団の喜捨です!乾杯!さぁみなさん!呑んで呑んで!」


翌日のミユリさんのメイドバー。


テレ隠しからかヤタラ気前よく誰彼構わずに大盤振る舞いをするのはメジア大教祖だ。

自分のエージェントと思ってたマタハは実は「時間ナチス」が送り込んだ二重スパイ。


「いやぁみなさんと呑んでると楽しいなぁ!わっはっはっは!」


いくら虚勢を張っても魔性の女マタハに完全に手玉にとられた無念が晴れるコトはない。

しかも一連のUFOエンジニアの拉致は、全てマタハが手引きをしていたコトも判明する。


蔵前橋通りで捕虜となったマタハは、デルタ・ストライクに連行される途中で手薄な警備を倒して脱走、夜のアキバに姿を消す。


思えば、野戦病院カフェにいた負傷兵に付き添っていたのも自分の正体がバレるのを恐れて監視していたのかもしれない。


そう逝えば、あの負傷兵は時間ナチスに連れ戻されるのを恐れていたが、今頃は過酷な運命に(さら)されているのかもしれない。


「がっはっは。まぁ気を落とすな、円盤屋!後はヲレ達に任せろ!」

「黙れ光線屋!ナチスに先を越される前にタイムトラベル技術の完成を急がねば!」

「時間屋も光線屋も、今宵はほっといてくれないか。今宵だけは…」


おや?バーに溢れる常連ヲタクに混じり、妙に小綺麗にした1団がいる。

品のいいポロシャツやお洒落なスラックスのシリコンバレー風の1団。


「あら。AMCの連中じゃない?珍しいわね」


既にバーは超満員、乱痴気騒ぎの坩堝(るつぼ)と化しているが、傍らにスピアが来る。

彼女は、最近流行ってるトランジスタグラマー…じゃなくて凄腕のサイバー屋なんだ。


得意の白のジャージ姿なんだけど、その下は恐らく(白の)スク水。

たちまちカウンターのミユリさんの目からデス光線が飛んで来るw


「あーら商売繁盛の御様子。ミユリ姉様、御機嫌よう」

「御機嫌よう、スピアお嬢様。体育の時間じゃないから次からジャージはやめてね」

「あら、じゃ私、ココで脱いでもいいのかしら?あ、彼方の御主人様がカクテルを御所望ょ?」


スピアが指差す先にマコィ研修医がいてハニカミながらミユリさんに手を上げている。

当てつけか、イソイソと彼の相手を始めるミユリさんにスピアは得意顔&僕は渋い顔←


「耳に入れておきたいコトがあるの」

「聞くけど」

「ココじゃ…イヤ」


ミユリさんのバーは、雑居ビルの2Fにあってスピアは御屋敷(メイドバー)を出て外付け階段を下る。

追わずにいたら、スピアがスゴい勢いで戻って来てムリヤリ僕を階段へ引っ張り出す。


「離せよ!痛いじゃないか!大声出すぞ!」

「乙女なコト言わないで。御屋敷(メイドバー)の中じゃ話せないのょ」

「じゃコッチが先に聞くけど…さっき場違いに小綺麗な人達が何屋がどぉしたとか言ってたけど、アレ何?AMCってナンナンだょ?どっかの商店街か何か?」


スピアのペースにハマらないように、先に先制パンチ?を出しておく。

まぁ、実際に気になって何だか知りたかったと逝うのもあるんだけど。


「AMCはAkihabara military clusterの略で、アキバに集積した先端的な軍需スタートアップの集まりのコトょ。知らないの?」

「全然知らない。そもそも、その軍需何チャラってナンナンだょ?武器商人の集まり?行けば"覇者の聖剣"や"魔道士の杖"とか売ってくれるの?」

「ソレはドラクエでしょ?AMCが扱うのはもっと科学的なモノょ。殺人光線とかタイムトンネルとか空飛ぶ円盤とか」


全く非科学的だ笑。


もっと突っ込んで聞きたかったんだけど、流石にスピアに遮られる。

やれやれ。彼女のターンが始まってしまう。


あ、因みに僕達は、外付け階段の踊り場にいて、外を見上げると首都高環状線が見える。


「そんなコトより、私の話を聞きたくないの?私、テリィさんにだけは"全て"を話すつもりで来たのょ?」

「あ、そーゆーの重いからいいや。じゃ明日ね!」

「あーあ。せっかく貴方が手に入れた基盤の秘密がわかったのに。命懸けで手に入れたんじゃないの?」


目の前で燃えて逝った消防隊員やコスプレニセ警官のコトを思い出して無口になる。

まぁ、確かに命懸けだったけど、ソレは結果論で最初から命懸けてたワケじゃない。


「あの基盤は、とても古いゲームだった。超昭和な頃の多分テリィさんがインベーダーゲームで名古屋打ちとかやってた頃のアーケードゲームの基盤だったの」

「そんな昔のゲームのコト、よく知ってるな。まさかスピア、ナゴヤ打ちとか現役で打ってた人なの?」

「や・め・て。確かにもうおばさんだけど、おばあちゃんじゃないのょ。テリィさんと一緒にしないで」


何だょ!ソレじゃまるで僕がおじいちゃんみたいじゃないか笑。

まぁアキバ的には確かにおじいちゃんなんだけどね…とにかく!スピアの話はこうだ。


スピアは凄腕のサイバー屋なんだけど、普段は国民的ハンバーガーチェーンの昭和通り店をオフィスがわりに使っている。


ミユリさん達がマタハを捕まえた夜、そのハンバーガー屋に奇妙な客が訪れる。

身なりはごく普通のサラリーマンなんだけど、ヤタラと目つきが鋭い2人組だ。


彼等は、スピアに古いゲーム基盤を見せ、このゲームのラス(ト)ボスを倒しコンプリートして欲しいと莫大な報酬を提示してくる。


実は、スピアはサイバー屋を営む前は天才と逝われたゲーマー。

古今東西のゲームに通じ、かなりの率でハイスコアを叩き出す。


しかし、今回スピアに与えられたのは、恐ろしくヘンなゲームだ。

基本は、オーソドックスなシューティングなんだが世界観が奇妙。


プレイヤーは、第2.5次世界大戦の末期、陥落寸前のベルリンで国会議事堂を守り絶望的な戦いを続ける最後の戦車の指揮官。


集中砲火を浴び爆散寸前に謎の光に包まれタイムワープ!気づけばソコはナチスドイツが世界大戦に勝利したパラレルワールドだ。


プレイヤーは、最新型のハンティングタイガーⅣを指揮し、核戦争後の荒廃したニューヨークやモスクワで近未来の戦車戦に身を投じる…


不思議な世界観が支配するゲーム空間でスピアはナゴヤ打ちから編み出した「アキバ打ち」を駆使しステージをクリアして逝く。


ソレでも、スピアがハイスコアを叩き出すのに1昼夜を要したが、次の日の深夜、ついにラスボス(空中要塞だった)が大爆発する。


そして、みんなが息を殺し見守る中で始まるエンディングロールの映像は…


「わかった!主人公に寄り添うメンタルアイコンが突然脱ぎ出してヌードに…」

「そう逝うと思った。ばーか」

「じゃ何だったんだょ!」


ソレは…地図。


超昭和なシンセサイザーが奏でるチャラいファンファーレが鳴り響く中1枚の地図が現れる。

にわかに世界の何処とは特定が出来ないが、どうも砂漠のように荒涼とした地域のようだ。


途端に2人組が彼方此方に電話をかけ始め目の前のPCに様々なパスワードを打ち込んで逝く。

彼等のアクセス先は「全地表を網羅するデータベース」で、スピアに地図との照合を命じる。


「全地表データベース」は、複数の衛星ネットと連動して深海を含む海底地形や氷の下の南極大陸の地形までをも網羅しているらしいw


照合作業には、最強無比の圧縮効率を誇るスピアの照合アプリを用いても数日を要する。

そして、ある日の昼下がり遅くスピアが愛用するsurfaceの画面にランプが明滅、結果が出る…


結果は…該当ナシ←


「ええっ?ソレってどういうコトだょ?エルドラDは地球上に存在しないのか?あ、わかった!時間ナチスのコトだから先史始祖人類が残した超古代の地球の地図だったとか、超未来の第3スーパー新人類の頃の地球の未来地図だったんだね?」

「よくもまぁ次から次へとソコまで過去やら未来やらへと妄想が途切れないモノね。もう感心を通り越して呆れちゃう。バッカじゃないの?」

「コラ!ソレを逝うなら『呆れるを通り越して感心する』だろ?普通は」


検索結果に呆然とする2人組の隙を突き、スピアは地図データのバックアップを取る。

他方、2人組は再度「全地表データベース」と照合し地表上に該当がないコトを再確認。


僕と違って愚かにも、現代にこだわった2人組はココで行き詰まるワケだ。

ココは、もしや過去とか未来の地図では?とか柔軟な発想が欲しいトコロ。


でも、結果はソレでよかったのだ。

時として、運は凡人の味方をする。


密かに地図データのバックアップを取ったスピアは、報酬を手にし2人組とも縁が切れた後で、フト思いつきで簡単な照合を行う。


そして、いとも簡単に問題の地図が何処の地図であるかを特定してしまうのだ。


「ええっ!ソ、ソレは何処?時間ナチスが必死に探してる黄金郷エルドラDへの地図なんだぜ!」

「さっき意地悪したから教えてあげなーい。でもキスしてくれたら指差して…あ・げ・る」

「ええっ?キスでいいの?」


次の瞬間、背の低いスピアのために僕は身をかがめ、スピアは勢いよく爪先立ちをする。

そして、僕がスピアの唇を奪うのと、スピアが右手を伸ばし天空を指差すのがほぼ同時。


小さな彼女が、僕のキスを受け激しく仰け反りながらも必死に指差す先は…月。

ええっ?アレは…月面の地図だったのか?黄金郷エルドラDは…月にあるのか?


その時、雑居ビルの外付け階段にお盆ごとグラスを落とす派手な音が響き渡る。


熱いキスで手が離せない…じゃなくて唇を離せない僕が音のした方へ目だけ動かすと、ミユリさんが泣きながら走り去るのが見える。


あぁ違うんだ!ミユリさん!


心の中でそう叫ぶ一方、僕はスピアがウットリと両目をつむって指差す月を見る。

その時、あの古典的SFのタイトルが何故だか想い出されて、僕は小声でつぶやく。


「月は…無慈悲なアキバの女王」



おしまい



古典的SF:

「月は無慈悲な夜の女王」

ロバート・A・ハインライン作

ヒューゴー賞受賞(1967年)

今回は、陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出した「時間ナチス」を軸に「時間ナチス」の女スパイ、コスプレストーカー、軍需クラスターなどを登場させ、お馴染みの洪水教団、国益優先の特殊部隊、凄腕サイバー屋などのディテールを少し掘り下げてみました。


引き続き、稚拙ながら伏線を張りながらドンデン返しを繰り返すストーリー展開を目指す実験作となっています。


「時間ナチス」については、本作は「登場編」であり、折を見てまた登場の予定です。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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