魔眼+カウンター=36倍ダメージボーナス
倉庫内にグールが攻め込んできて、その様相は混乱を極めていた。
グールとは、吸血鬼が人間を材料にした眷属である。
主に精神が弱ったり、瀕死や死体だったりする人間を噛んで作り出すバケモノ。
一度グールになってしまえば人間に戻る手段はなく、最低限の知性しか持てなくなると言われている。
外見のタイプは様々で、腐りかけたゾンビタイプや、ひからびたミイラタイプ、割と人間と変わらないタイプなどがある。
今回、攻め込んできたのはゾンビタイプ。
墓地から呼び起こしてきたものである。
新鮮ではない死体から作ってきたものなので、戦闘力は多少落ちているものの、その死を恐れぬ攻撃と、ワラワラと群がるような数は脅威だ。
「ひ、ひぃーっ!! 助けてくれー!」
「焦るんじゃねえよ! 冒険者ならこれくらい、落ちつきゃ対処できるだろう!」
だが、冒険者も負けてはいない。
即興で2~4人のパーティーを組み、正体不明のグールに対処する。
威勢良く声をあげて、グールを切り倒しているのは、トロフの元パーティーメンバー。赤い鎧に両手剣の戦士──ウォーリーであった。
「それ、トロフさんが僕たちに言ってたやつだよね」
「うん、私も覚えてる」
盗賊のシフと、魔術師のマホも一緒である。
「うっせぇ、アイツのことなんて知るかよ!」
吐き捨てるような言葉と共に、グールを斬りつける。
だが、相手はなかなか倒れない。
そうしている内に、別のグールも近寄ってくる。
「お、おい! ナイトのおっさん! もっと敵を引きつけろよ!?」
「はぁ? 十分やってるだろう。オレはこれでもBランク冒険者だぞ?」
即興で組んだ元トロフパーティーメンバーのDランク三人と、野良のBランク冒険者の盾役ナイト。
グール一体をギリギリと盾で押さえ付けて、数秒でそれを解放していた。
「Dランクのトロフですら、もっと敵を引きつけ続けていたぜ? 本当にBランクのナイトなのかよおっさん……」
「アホか……?
良いかひよっこ、盾役っていうのは数秒間耐えられればそれで役目を果たしてるんだよ。
これ以上引きつけるのならヒーラーが複数いなきゃ物理的に無理だ」
「で、でもよ……トロフならカウンターで……」
戦士ウォーリーの言葉に、ナイトは大笑いした。
「カウンターってお前、アレを使いこなせる奴がいるはずないだろう?
相手の攻撃に合わせて0.016秒の当て身スキルを使うんだぞ
それを防御に使い続けるなんて、いたら人間じゃねぇ」
「は……? そんなはずは……。だって、あんな簡単そうにやっていて……」
「夢でも見ていたんだろう。ほれ、オレが止めてる数秒間に火力を集中させろ。
そうしねぇと盾役のオレへの負担が半端ないからよ」
たしかに周りを見ると、盾役は数秒間耐えていて、アタッカーはその間にグールを瞬殺していた。
トロフのように攻撃を耐え続けるような存在はいなかった。
ウォーリーは知った。
アタッカーとしても、自らが未熟すぎると。
別の戦士が、グールを一太刀で倒していたのを見てしまったからだ。
しばらく無言でグールを狩っていた。
他のパーティーより時間がかかっていても、トロフから教わっていたことを冷静に実行し続けていれば、大きな傷を負わなかった。
そのうち、倉庫内が静かになる。
グールを全て倒したからだ。
ホッと一安心。
冒険者の誰もがそう思っていた。
だが──。
「グールで様子見してみたけど、ダメねぇ」
黒衣の女性──Aランクである吸血鬼が現れた。
長身グラマラスな体型に、男性冒険者がツバを飲み込む。
「ほんと、ダメダメ。
たったこれだけのお遊びグールに、こんなに時間をかけてるなんて……
アナタたち冒険者、全員が救いようのないザコだよねぇ?」
長いウェーブの掛かった黒髪、美しく白い肌の顔に、真っ赤な眼。
浮かべるは弱き人類への嘲笑。
「ってめぇ、人間を舐めるなよ!」
憤りをぶつけるように突進していくウォーリー。
黒衣の女性の顔面へと、素早い突きをくり出す。
「うーん、ちょっとは遊んであげられたらよかったんだけどぉ」
「なっ!?」
渾身の突き。
それは黒衣の女性の指先で止まっていた。
「アタシ達のお肌ってぇ、普通の攻撃じゃ傷付けられないみたいなの。
ざぁんねぇん♪」
黒衣の女性はニッコリと笑って、爪が伸びている手刀をゆっくり前に。
まるで防具が意味をなさないように、ウォーリーの赤い鎧の腹を貫いていた。
「あ……あぁ……」
穴が空いた腹部を押さえ倒れ込むウォーリー。
周りの冒険者たちは一歩も動けなかった。
一目見たときからわかっていたのだ。
存在が一段階違う、人間では敵わないバケモノだと。
「あらぁ? もう誰もこないのぉ?
聖剣とかぁ、もしくは信じられないくらいの威力がある攻撃なら、皮一枚くらいは傷付けられるかもしれないよぉ? ウフフ……」
人間はオモチャでしかない。
それが上位の存在からして、当たり前の認識である。
「じゃ、無駄だとわかったところで終わりにしましょう。
アタシの加護──“深淵覗きの吸血鬼王”レベル2のスキルでねぇ」
「なっ!? レベル2だと……!?」
「吸血鬼というのはそこまで存在の違うバケモノなのか!?」
冒険者たちは戦慄し、震え上がった。
人間でいえば英雄でしか持ち得ないとされる加護レベル2。
それが種族としての格が違う、吸血鬼に与えられているのだ。
最強と最強が重なり、もはや討伐は不可能としか認識できない。
「スキル──“範囲エナジードレイン”」
相手の生命力を吸うという、吸血鬼にとってはポピュラーなスキルである。
それを倉庫内すべての冒険者に使ったのだ。
戦意だけでは無く、生命力すら無くしていく下位存在である人間。
「なぜ人間が、アタシたち吸血鬼から……国を取り戻せないかわかる?
それは人間がいくら束になっても勝てないというシンプルな答え
個人、パーティーはもちろん、国家が総力をあげても吸血鬼にも、その上の存在である真祖吸血鬼の“あのご兄弟”にも勝てないのよ?」
「くそ……。せめてトロフが……いてくれたら……。
あの空気を読まない、みみっちい失敗カウンターでも……。時間を稼いでくれるってのに……」
「あら? 地べたを舐めてる戦士クンはまだ喋れたのね。
それで……まだ誰かいるのかしら? でもたとえ、いまさら人間サマの主役がきても、アタシに勝てるはずないじゃない」
ここで敗北は決まっているはずだった。
そう──本来なら決まっているはずだったのだ。
通常なら、圧倒的な強者の空気に抗える者はいないのだから。
「──随分と倉庫を汚してくれたものだな……」
たった一人、黒い鎧の男──黒騎士がやってきた。
「だ、誰だありゃ……武器はパイルバンカー?」
「バケツ頭の黒鎧なんていたか……」
「に、逃げろ……吸血鬼に俺たち人間がかなうはずねぇ……」
絶望の空気の中。
吸血鬼と、黒騎士は対峙した。
「ふぅん、エナジードレインの中でも立っていられるんだ。すんごいやせ我慢。
たぶん~、これが英雄譚でいう人間の主人公ってやつでしょ?
じゃあさぁ、それを倒しちゃえばぁ、一気に人間側の士気を下げられるわよねぇ」
「ジャマだ、掃除をさせてもらう」
「──なっ!? そ、掃除ぃ!? このアタシをゴミ扱いしてるっていうの!?」
吸血鬼は一瞬だけ怒りをあらわにしたが、ただの人間相手と思い出して冷静になった。
手刀で貫いてやれば、すぐに泣き叫んで許しを請う。
そういう空気にまた戻るだろうと。
「ふふん、いいでしょう。そこまでいうのなら──」
吸血鬼は必殺スキルの手刀を構えた。
──だが、黒騎士は既に読み切っていた──。
相手が生まれてから、現在までのすべてにいたる実績を一瞬にして解析、理解して、どのタイミングで何をするかというのが手に取るようにわかっていた。
もはや黒騎士に対して、心理戦のフェイント動作や、フェイク思考で心読みを対策というのも無意味。見当違い。一睨みされた時点で勝敗は決まっていた。
それは“深淵覗きの吸血鬼王”レベル5、魔眼スキル──魂の実績。
黒騎士は相手の魂までも読み切っていた。
これから相対する吸血鬼が使用するスキル名は、鮮血の手刀。
パイルバンカーによるカウンターは、ルーレットに例えられる。
当てやすいものならボーナスは低く、当てにくいものならボーナスは高い。
近接系──指定、2倍ボーナス。
追加ベット。
加護系──指定、6倍ボーナス。
追加ベット。
スキル名を“一点賭け”──指定、36倍ボーナス。
銀杭セット。
最終補正──失敗時は36倍のペナルティーダメージ。
成功時は──。
「ザコ主人公は黙っててくれますか!?」
「了解! ──即死のパイルバンカァァァアア!!」
36倍のボーナスダメージを反射。
とてつもない威力、爆発に似た衝撃が巻き起こり、一陣の風となって倉庫を吹き抜ける。
それは“空気”を吹き散らす解放の“疾風”。
カウンターを成功させたのは黒騎士──プロ雑用係トロフ・ウィンド。
その勝利の勇姿は、腕部装着型のパイルバンカーを高く掲げ、魔石の空薬莢を勢いよく飛び出させる。
吸血鬼は一言も発する間も無く、灰燼と帰していた。
一章終了です。
次回から二章が始まります。
ブクマ、評価、感想など頂けるとさらに空気を読まずにパイルバンカーがうなります。





