神の子
王の間はひどく殺風景だった。
高価な絨毯や、壺などの調度品などは置かれておらず、兵士の一人もいない。
ただあるのは玉座のみ。
そこに座るキオの国の支配者──真祖吸血鬼バイロン。
「く、黒騎士さん……。
普通に扉を開けて入っちゃいましたけど、なんか空気読まずに不意打ちとか、そういう楽な方法で倒せたりはしないんですか……?」
「アロンソ、奴にはその類は通じない。
バイロンは油断もせず、また俺が突ける弱点もない。
──正真正銘の真っ向勝負だ」
王者の貫禄の前に震え上がるアロンソと、気にせず進む黒騎士。
余裕のバイロンは脚を組み、姿勢をダラッと崩して玉座に寄りかかっていたのだが、二人を見ると不敵な笑みを浮かべた。
「やっと俺様の元にきたか、お前ら。
それでどういう用件だ? 俺様の眷属になりにきたのか?」
「バイロン、約束通りにお前を穿ちに来た」
「ハッハッハ! 喧嘩か、いいぜ! やろうぜ!」
その大笑いにアロンソはビクッとして、トロフの背後に隠れながら顔だけ出していた。
そして一気にまくし立てる。
「も、もうあなたなんて怖くないんですからね!
眷属であるワゾウさんも、狂鬼も──もういません!
それにあなたも半分は鬼の血が流れている!
特性的には、鬼である狂鬼とそんなに変わらないはずです! その狂鬼を倒した黒騎士さんにかかれば──」
「あぁん? 俺様と狂鬼が一緒だって? アロンソ、なにか勘違いしてねぇか?」
「え?」
「俺様は鬼っつっても、真祖吸血鬼と、──“力ある者”と呼ばれる鬼とのハーフだぜ?」
「“力ある者”と呼ばれる鬼……?」
「“金剛砕きの鬼王”が、俺様の父親だ」
この世界に加護を与える6つの存在──“力ある者”。
それは誰一人知らぬ伝説上の存在だが、たしかに加護として現実に影響を及ぼすのである。
いわば人間からしたら、神のような者なのだ。
その息子が、今、目の前にいる。
アロンソは言葉を失った。
今から立ち向かおうとしているのは、“金剛砕きの鬼王”の子──。
「まぁ、俺様は父親の顔は知らねぇが、向こうは俺様を知っているらしいぜ?
なんせ、“力ある者”が認識した相手じゃねぇと、俺様は加護レベル3になれなかったらしいからな」
人類が知り得なかった加護レベル3の条件。
それは“力ある者”が対象を認識して、許可を与えていることだ。
そのために加護レベル2と3の壁は果てしなく厚い。
加護の力も段違いなのだ。
「か、加護レベル3……。や、やややばいですよ黒騎士さん!?」
「関係ない。加護レベルが高ければ勝つというものでもない」
その黒騎士の言葉に、バイロンは屈託も無く笑った。
「ああ、そうだ! その通りだぜ! 黒騎士!
喧嘩ってのは勝つほうが勝つんだ!
肩書きで勝てるのなら、そんなにもつまらねぇ喧嘩はねぇぜ!
賭けのオッズとか、そんなもんは無意味だ!」
「賭けのオッズ……?」
「グール兵士たちが賭けてやがったのさ。ぶっちぎりの不人気はお前ら人間──。
しかし、どうだ! 実際には、このバイロン城に風穴を開けて、狂鬼を倒したのは人間だ!
それを拝めたんだ、国のトップなんてクソつまらねぇモンをやっていたかいがあったぜ……。
お前らが来てくれたおかげで、今までの退屈は全部チャラだ!」
その話を聞いていて、アロンソは不思議に思った。
真祖吸血鬼は楽しくて人間を支配していたのでは無いのなら、なぜ兄弟たちでこんなことをやっているのか、と。
「ば、バイロン。あなたはなぜ、キオの国を──人間を支配しているのですか?」
「さぁな、そういう決まりだから……かもな。
俺様はよく知らねぇが、長男のブラムは“真祖吸血鬼に伴う義務”とか言ってたぜ」
「ノブレス……オブリージュ……?」
「もっとも、基本的な部分だけ従って、俺様も含めて兄弟たちはルールをアレンジしてるけどな。
キオの国は、俺様にとっちゃ強い奴と戦うための国だ。人間が嫌いってのもある。
……さぁ、もうお喋りはいいだろう? いいかげん、やろうぜ──?」
バイロンは玉座から立ち上がり──。
「黒騎士ィ! テメェとの楽しい楽しい喧嘩をよォッ!?」
その一喝で空気がビリビリと震える。
鬼王を思わせる巨躯、額の双角、赤い逆髪。
今日はパーカーでは無く、赤いジャケットを着ている。
それはバイロン本人が片手で仕留めた、Aランクの魔物──レッドタイガーの革を使っていた。
誰も彼にかなうはずが無いと思わせる力の証明だ。
だが──トロフは動じない。
「バイロン、戦う場所のリクエストをしていいか?」
「おう、そのくらい良いぜ? ……だけど、なんでだ?」
「俺の新しいスキルは、ギャラリーが多い方が力を発揮できる」
バイロンの問い掛けに、素直すぎる答えのトロフ。
思わずアロンソは叫んでしまう。
「く、黒騎士さん!? そんなに正直に話しちゃったら、普通に阻止されちゃうんじゃ──」
「オーケー! それじゃあ、表に出て喧嘩をしようぜぇッ!」
バイロンは有無を言わさず、その巨体でタックルをくり出していた。





