トロフ、勘違いしているが本当は加護レベル5
トロフは自らをうたがっていた。
もしかしたら幻覚の状態異常を受けていたのかもしれないし、狂気値が限界に達していたのかもしれない。
なぜなら、いきなり“力ある者”の真名を知って、自分が加護レベル2になるとかありえないだろう……と。
ここは冷静に、第三者に判断してもらおうと決断した。
「うっぎゃああああああ!?
殺さないでくだちぃぃぃいい!!
ただの老い先短い、占いとステータス鑑定だけが特技のババアでずぅぅうう!?」
……冷静に判断してもらうために、ステータス鑑定の店にやってきたのだ。
ステータス鑑定とは、普通ではわからない加護の種類やレベル、状態異常などを教えてくれる便利なものである。
冒険者は誰もがお世話になるといっても過言ではない。
実際は“魂の履歴”の下位互換だが、自分で自分を見ることはできないという不便さもある。
不思議なことにその店主──水晶玉の前に座る占い師風のステータス鑑定老婆は、客としてきたトロフを見た瞬間に、泣き叫んで命乞いをしだしていたのだ。
「いや……なにもする気はないのだが……。
しかし、俺の加護レベルを見たのだな?」
トロフは、加護“レベル2”だったから驚いたのか? という意味で聞いた。
「ひゃい、ひゃいいいい!!
あなた様の加護レベルを見ました、見てしまいましたああああああ!!」
老婆としては、現人類に存在しないはずのレベル3,レベル4をすっ飛ばして、唐突に現れた“レベル5”にパニックを起こしていた。
数千年前の魔王の再来か、人間に化けた恐ろしいナニカ。
いずれにしても正体を知って、機嫌を損ねたら国家が滅びる想定をしなくてはいけない相手なのだ、と。
「そうか、やはり俺の加護レベルは、そう認識されているのか」
「今まで視たことの無い加護レベルですうぅぅううう!!」
トロフは、人間では珍しい“深淵の吸血鬼王”加護のレベル2は、ことさらレアであると受け取った。
……本当は老婆から視た加護レベル5で、どの種類であれ『全人類が今まで視たことの無い』という意味なのだが。
レベル2とレベル5、双方の認識のズレは凄まじかった。
「それは困ったな……。明日からの雑用に響いてしまう……」
「し、仕事……ですか……。いったいなにを……」
「裏方なので目立ちたくないんだ」
「う、裏から……」
老婆は戦慄した。
このような恐ろしい加護レベル5の存在が、裏から人類をどうこうしようというのだ。
もう人類滅亡はまぬがれない。
だが、媚びへつらえば自分だけはなんとか、寿命までの短い時間は生かしておいてくれるかもしれない。
必死だった。
大地に懇願するように、蒼海に許しを請うように、太陽にひれ伏すかのように。
大きすぎる存在へ必死の老婆。
「──というわけだから、レベル2は内密にしてもらえるとありがたいのだが?」
「ひゃいぃぃいい!! よろこんで、レベル5は墓まで持っていきますぅぅうう!
もちろん、お代もいりませんんんんんッ!!」
トロフはいつもの無表情から、すこしだけフッと笑った。
「ヒギッ、ヒギィィ!?」
一挙手一投足が、老婆の精神をすり減らす。
(客が望まぬステータス結果なら、お代はいらないというプロフェッショナルさ。
嫌いではない、思わず笑みが漏れてしまった。
よし、俺も明日から雑用のプロとしてがんばろう)
トロフは敬意を持ち、きちんと鑑定料を払ってから店を後にした。
……余談だが、この時に心臓を鍛えられた老婆はとても長生きしたらしい。