お部屋で作戦会議
総合日間ランキング2位まで来ていました!
ブクマ、評価、感想、レビューで応援してくれた読者さんのおかげです!
ありがとうございます!
「いや~……この私、姫騎士ひきいる組織が! 真祖吸血鬼に! 大勝利~っ! したあとのお茶は美味しいですね~!」
倉庫内の一角にある、アロンソの部屋。
トロフ、アロンソ、ラハヴの三人でお茶をズズッと飲んでいた。
「お茶うけも、なんか王様からポンッとお金もらっちゃったので、ちょっと豪華にしてみました。
蒸かし芋から、ななななななんとクッキーに大躍進ですよ! クッキー!
もうこれで『しょっぱい方が通好みだから……』とか言い訳に唇を噛み締めなくてもいいんですよ! 塩味以外で口がパラダイス! ビバ、甘味!」
「アロちゃん、クッキー一枚でテンションたかぁい……。そもそも、アタシもアロちゃんも見てただけだし、本当はトロフだけの手柄ぁ……」
またいつものパジャマダメ村娘に戻っているアロンソと、テーブルにほおづえをついて呆れている幼女ラハヴ。
トロフはというと、特に気にせずパイルバンカーを分解メンテしていた。
「いや~、トロフさん様々ですよー! 冒険者全員が気絶していたから、なんか成り行きで私が撃退したことになっていますが、それはもう感謝してます、しまくりですよ!」
ニヘラ~と緩い笑みを浮かべながら、アロンソは躊躇無く土下座の嵐。
「トロフさんがいれば、もう怖い物なしって感じでさぁ! うっへっへ!」
「……いや、そうでもない」
ポツリとトロフが呟いた。
「え? え? どゆことですか?」
「はぁ~……。アロちゃん、戦闘中の話をもう忘れたの?」
「うーん……。聞いていたような~、気もするけど~? 漏らしまくっちゃって、下着を替えたくて替えたくて、繊細な私は精神的に大変だったというか~?」
「アロちゃんが繊細という基準なら、全人類が神経質を通り越して、息をするだけで発狂してると思うわぁ……」
「あはは、またまたご冗談を~」
「はぁ……。トロフのパイルバンカーは、一撃で倒せない相手には向いてないのよぉ」
パイルバンカーというのは、銀杭が収納された筒の中で、魔石を解放して撃ち出す仕組みなのだ。
それゆえに、一発の威力は高いのだが、魔石の排莢や、次の魔石の装填などに手間がかかる。
改良しようにも、原型のパイルバンカーというのが約3000年前の遺跡からの発掘兵器なので、武器屋では手が出せないシロモノなのだ。
「それに加えて、何戦か“魂の実績”を使っていて気が付いたことがある」
「え? トロフさん、まだなにかあるんですか……?」
「連続で使うと疲れる」
「あっはっは、疲れちゃいますかー」
「ぶっ倒れなかったのが奇跡だ」
「そんなに!?」
意外とやばい綱渡りをしていたと気が付いたアロンソは、手からクッキーをポロリ落とした。
「ど、どうするんですか!? これから大丈夫なんですか!?」
「いや、アロちゃん。そこらへんは、ほらぁ、アレで何とかなるんじゃない?」
「アレ? なんかありましたっけ?」
「ほんとポンコツだわぁ~」
てへぺろっ、とドジっ子アピールをしてみるアロンソなのだが、トロフはメンテに夢中だった。顔には出さないが細かい作業にハマるタイプである。楽しい。
「ほら、血痕スキルというやつよぉ」
「あー、アレですか。ええ、おぼえていました、ましたとも。なんかすごいやつですよね。すごいやつ」
「ま、まぁすごいというのはあってるわねぇ……。なんせ、あのリリン様のハイパーテンプテーションを防いじゃうんですもの」
血痕スキルでトロフが、ラハヴから入手した“完全精神異常耐性”は常時発動するタイプらしく、あとで冒険者の協力で精神異常スキルをいくつか使ってみたのだが、魅了だけではなくすべてに効いていた。
「あの血痕スキルって、“魂の実績”で視える好感度さえ上げればぁ、あとは血を吸えばずっと使えるっぽいし、色々な種類があるってわかったじゃない?」
「え? そうなんですか?」
「ほら、好感度レベル5だったウォーリー君に昨日の深夜……」
「あぁ……やってましたね……」
昨日の深夜、密かにウォーリーは捕らえられていた。
むくつけき冒険者たちから拘束され、協力しろと言われ、個室に連れ込まれ、手脚を押さえ付けられて……。
混乱するウォーリーの抵抗虚しく、現れた黒騎士に首筋から血を吸われたのだ。
「いや~、たぎる男色英雄譚シチュでした。正体を隠している黒騎士というのがまた、寝取り的なイマジネーションを──」
「アロちゃんの個人的な趣味はいいから……。とにかく、それで得られた血痕スキルが、“捜し物を見つけやすくする”スキルだったわけよぉ」
「ふむ? それがどうかしたんですか? なんかしょっぼいゴミスキルっぽいですが。無くしたペンとか出てきやすいんですかね? 机の横からポロッと」
「ま、まぁ、アタシのに比べるとしょっぼい血痕スキルだけどぉ、可能性というのは拡がったのよぉ?
これ、得られる血痕スキルが個人差あるのだから……。
──ほぼ無限にスキルを手に入れられるのと一緒よぉ?」
「おぉ!? すごいじゃないですか!?
たしかにこれなら、トロフさんが真祖吸血鬼を一発で倒せるようになる攻撃力アップスキルとか普通にあるかもしれませんね!
すごいトロフさん! いよっ! 裏リーダー黒騎士さん!」
アロンソは一人で拍手、ガッツポーズ、イェーイとジャンプのコンボを決めていた。
トロフはそこで空気を読まずに一言。
「いや、俺に出来た隙を、お前がカバーすればいいんじゃないか?」
「……え? 私ですか? ムリムリムリ!
盾職信仰の“破刃無効の竜王”加護レベル1持ってても、それすら私の能力が追いついていなくて、力を発揮できない村娘ですから!」
「よし、鍛えに行くか」
「き、鍛えに……?」
「たしか、次に攻略予定の“真祖吸血鬼バイロン”の国に潜り込むために、冒険者として擬装する必要があったな?」
「あー……すっかり忘れてましたが、当初はそんな予定でしたね」
「それなら実際に冒険者になっておく必要がある」
「お金と権力で、ギルドから協力してもらうとかダメですかね……?」
「ダメだ。ただなりきるより、実際にやった方が確実だろう。
それにアロンソを鍛えられて一石二鳥だ」
アロンソは真顔になった。
生まれてこのかた鍛錬などしたことがない。
過去、実家でも──。
大手作家のアキ先生の男色英雄譚を読みふけっているときに、母親が『ちょっとは外に出たらどう~?』とかいうのも聞こえない振りをしていたくらいだ。
自慢ではないが、組織に集った冒険者たちの誰よりも弱いと自負していた。
「あ、あの……トロフさん、ここは空気を読んで頂くとか~……?」
「よし、冒険者ギルドへ行くぞ。準備をしろ」
「ですよね~……」





