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 私は【新人】に戻ってから、久しぶりに本を買った。主任に馬鹿にされたくなかったからだ。

 昔、よく後輩に「勉強しないで患者さんに関わるな」と言ったものなのに、土俵が変わるとまさしく自分もそれに当てはまる。

 ただ、私のなんとなくな十二年は応用の効くもので、失礼な言い方だが、【出来てしまう】のだ。

 これが、中堅で高飛車な私の悪い癖だ。

 出来てしまうから、なんとなくでも働ける。

 前回頚椎ヘルニアで辞めた病院の時は夜中まで必死に勉強した。初めてのドレーン管理、HCUさながらの環境だったし、教えてくれる人なんていなかった。頼れたのは同じく新人として入った先輩ナースだけ。

 ふたりぼっちで頑張ってきたけど、私にはやはりあの職場は今思い出しても向いていなかった。頚椎ヘルニアの再発に、やはり感謝しよう。


 その時私が買った本は小児看護のものだった。

 今だから言えることだが、私は小児は死ぬほど嫌いな分野で、私は子供が嫌い『だった』

 敢えてそう書くのは私が変わるまでの過程として覚えてもらえたら幸いだ。

 初めて買った小児の本は、率直な感想。

 なんだ、変わらないじゃん、と。

 今の職場は、赤子の点滴や注射は医者が行う(これは当たり前、本来医師看護師法において、看護師が注射をするのはあくまで医者の補助的業務として行うこと、率先して看護師が行う事ではないので、大学病院においてはサーフロの挿入も医者が行う)

 なので、私は昔の知識のおさらい程度で軽く考えていた。

 そんな感じで一ヶ月が過ぎ、私はさほど大きなミスは無かったものの、時々注射が痛かったとか、小さなクレームがあったらしい。

 それをこちらに言ってくれたらお詫びできるものの、受付側の方でこそこそ文句を言って帰る。

 はっきり言って病棟しか経験のない私は不愉快だった。言いたいことあるなら言えよ、というのが正直な気持ちだ。

 月末に、本採用かどうかの面接を繰り返し、事務長は辛そうな顔でもう一ヶ月様子を見させてほしいという。

 まあ、私も外来業務は初めての新人だし、給料が例え安くてもそれは私のスキルが今は新人なのだから仕方がないだろうと高を括っていた。

 その後にボロクソに言われる主任からのお小言。俗にいう閻魔帳だ。

 まあ、よう見てんなあ…という感想と共に、私はそうですね、と受け入れつつもなんでこんな言われないとダメなんかなぁ。と腹に抱えるのはストレスだった。

 そして二転三転話が変わり、九月になっても採用決まらずバイト状態。

 そんな中途半端な時期に、別の病院から面接のお知らせがきた。

 ここで今の職場を諦めて病院に戻るか

 そもそも、頚椎ヘルニアでトランスが出来ないから私は辞めたんじゃないのか。

 どちらも宙ぶらりんな状態にケジメもつけられず、面接のお知らせを私はゴミ箱に捨てた。

 その病院は、年収580万、今の私の環境よりも150万以上も良いし、環境も最高だった。

 それでも、私はもう一度この自分を変えるために、敢えて言われても仕方がない【新人】としての道を歩く事にした。


 もしも、十一月までに本採用にならなかったら、私は病院を探そう。

 最悪、恥ずかしいが部長に頭を下げて前の病院に戻してもらえるだろう。

 そう心に決めてもう一度、勉強する事にした。


 この面談時に、鬼の主任から預かった本は、『小児基礎看護技術』の本だ。

 その本を貸すから読めと言われて私はガッカリした。



 私は、本当に【新人】だったのだ。


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