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A bad felling・・・

ソフィアが目覚めると、今度は見慣れた部屋の、いつものベッドの上にいた。隣では、エイデンが疲れたように眠っている。キスを誘うような甘い唇からは、規則的な寝息が漏れている。ソフィアは、誘惑に負け、エイデンの口元にそっと触れるようなキスをした。普段は美しいカールを描くブルネットの髪は、枕で潰れへたっている。硬くたくましい胸板を、髪よりもやや淡い色の毛が薄っすらと覆っている。ソフィアそこへ顔をうずめ、キスをした。エイデンは、小さくうめいて寝返ったが、まだ起きそうにはない。昨夜、帰宅して眠る頃には、深夜の2時を過ぎていた。ソフィアは、携帯で時間を確認すると、7時を少し回っていた。いつのなら、もう起きている時間だが、今日はこのまま寝かせてあげたい・・・。手に持っていた携帯を持ち直すと、エイデンの秘書のサラにメールを送った。


1分もしないうちに返信が来た。

”おはようございます。今日の社長の予定ですが、10時に1件打ち会議が入っております。”

良かった。10時なら、もう少しこのまま寝ていられそうだわ。

ソフィアは、サラにメールを返信し終えると、そのまま手を下して、まだぺしゃんこのお腹に当ててみた。ここに小さな命が宿っていると思うと、愛しい気持ちが湧き上がり、自然と涙がこぼれ落ちた。

彼女は、ずっと子供が欲しかった。愛する夫の子供を産みたいと、心から望んでいたが、その機会はなかなか訪れなかった。夫婦は、不妊治療も何度も試みたが、結果はどれも失敗に終わった。ソフィアは、もともと体が強い方ではなかったので、原因は自分にあるのだろうと責めた。

絶望の淵に追い込まれ、だんだんと殻に閉じこもっていくソフィアを心配して、エイデンは、養子をもらおうと提案してきた。結果的には、養子ではなく、親のいない子供たちのための財団を作ることになったが、ソフィアを悲しみから救おうという、エイデンの考えは大成功だった。ソフィアは、見る見るうちに本来の明るさを取り戻していった。


まさか、今頃になって妊娠するなんて、ソフィアには全く予想していない出来事だった。そして、エイデンにとっても、それは同じことだった。

昨夜のエイデンの喜びようといったら・・・。ソフィアは、あんなにはしゃぐ夫を見たのは、初めてだった。エイデンは、いつからか子供が欲しいということを口に出さなくなった。子供に無関心な振りをして、思い悩むソフィアを気遣っていたのだろう。妊娠して初めて、エイデンがどれほど子供を欲しがっていたか分かった気がした。彼は、家に帰っても興奮冷めやらぬといった様子で、ベッドに入ってからもなかなか寝付けないでいた。それは、ソフィアも同じだったが、理由は彼とは少し違うものだった。

彼女は、我が子の判明に子供のようにはしゃぐ、あまり見慣れない夫の姿に、欲情していた。倒れたばかりで、しかも妊娠している自分をエイデンが抱いてくれるはずがないと思いながら、二人の間に毎晩訪れる激しい愛の渦を期待してしまっていた。

しかし、エイデンはソフィアに優しく手を回すだけで、ときより髪をなでられる行為がソフィアの気持ちを余計に辛くさせた。

それでも、ようやく、エイデンに自分の子を抱かせてあげると思うと、安らいだ気持ちに変わり、しばらくするとエイデンの腕の中で眠りに落ちた。


とても幸福なはずなのに、なぜか恐怖心を隠しきれなかった。それは、彼女の体に起こっている変化のせいだった。

今も、頭にずしずしと響く頭痛。ときより感じる手のしびれ。

これは、妊娠のせい?それとも、何かほかの理由があるのだろうか。

ソフィアは、どうしても悪い予感を追い払えないでいた。


母が家で倒れたときの光景が、しきりに彼女の頭に浮かぶ。ソフィアは救急車で運ばれる母を見ながら、母は大きな病気で、もう家に帰ることがないような気がした。父に尋ねると、すぐに元気に戻ってくるよ、と答えた。しかし、間もなくして母は死んでしまった。病室のベッドで、骨だけのような痩せ細った姿で死んでしまった母・・・。

自分も、同じ病気かもしれない。母親の病気は癌だったーーー



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