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10 years after

ソフィアは、頭にズキズキと痛みを感じた。まただわ・・・。ここ最近、彼女は酷い頭痛に悩まされていた。


ゆっくりと瞼を押し上げると、不安気な表情をしたエイデンが顔を覗かせた。ブルーの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。そこは、見覚えのない部屋で、ここが一体どこなのか、ぼーっとする頭で考える。

自分の腕が点滴に繫れているのに気付き、徐々に記憶が蘇ってきた・・・。


エイデンの会議が急になくなったので、ふたりで自宅近くのレストランで食事をしていた。食べ終わる頃に、いつもの頭痛と吐き気が襲ってきて、急いでトイレへ向かって・・・。

ソフィアの記憶は、そこで途切れた。

「良かった!目覚めたんだね!具合はどうだい?どこか痛むところはない?」

エイデンが静かな声で尋てきた。必死で落ち着かせようと努力しているようだが、その声は微かに震えていた。

本当のところまだ頭が痛かったが、これ以上彼に心配をかけたくなくて、首を横に振った。

状況をあまり飲み込めていないソフィアの様子を察して、エイデンが話し出した。

「君が、トイレへ行くと言ったときの様子がおかしかったから、すぐ後を追ったんだよ。すると、君が廊下で倒れているのを見つけて・・・」

そこまで言うと、言葉を詰まらせ、エイデンの顔が恐怖で歪んだ。

「あなたの言う通りに仕事を減らすべきだったわ。ここのところ、すごく忙しくしてたから、きっとそのせいね。心配をかけてしまってごめんなさい。もう大丈夫だから」

ソフィアは、これ以上夫に心配かけさせまいと、元気そうな笑みを作って見せた。

「謝まる必要はないよ。それに、もうすぐドクターが説明にくる。倒れた原因は君ではなくて、ドクターに教えてもらうよ。でも、君の言うことも確かだ。財団を作ってから、君は一人で二人分の仕事をこなそうとしている。CEOの僕よりも忙しいそうにしている」

エイデンは、首を軽く片方に向け、軽く冗談を言ったつもりだったが、ソフィアの顔は真剣な顔つきに変わった。

「ねぇ、エイデン。私、考えていたのだけれど、広報の仕事を辞めようかと思うの。このところ、エリーが仕事にも慣れてきたし、彼女になら安心して任せられそうだわ。もちろん、何か困ったことがあったらサポートするつもりよ。どうかしら?」

エイデンは、それを聞いて少し安心したようだった。

「僕も大賛成だ。有能な社員部下を、ひとり失ってしまうのは惜しいけれど、君はソフィア財団の活動に専念するべきだ。何も心配はいらないよ」

エイデンの言葉を聞いて、ソフィアは安心した。彼女は、結婚した後、大学で経済を学び、卒業後は夫であるエイデンの会社で広報として全力を注いできた。仕事自体も楽しかったし、なにより夫の力になれるのが嬉しかった。本当なら、今も辞めたくはなかった。しかし、彼女にはそれよりも優先したいことがあった。それは、慈善団体の運営ー。


ふたりには、子供が出来ず、養子をもらおうといくつかの福祉施設を回るうちに、ソフィアに別の考えが浮かんだ。この中から誰かを選ぶのではなく、この子達みんなを幸せにすることが出来たらと…。その気持ちに気づいたエイデンは、去年の彼女の誕生日に”ソフィア財団”を設立した。ソフィアにとって、これほど嬉しいプレゼントは無かった。

今では、彼女の愛する子供たちがアメリカ中にいるー。



「エイデン、あなた疲れた顔してるわ。私なら大丈夫だから、先に休んでいて…」

「君は、いつも人の心配ばかりしているな。言っておくが、今日倒れたのは僕じゃないぞ」

エイデンは、呆れたように言った。

しかし、ソフィアがそう言ったのは、ただ単にエイデンの体が心配という理由だけではなかった。もし、最近よく起こる頭痛や、手の痺れが何か大きな病気のせいだったら、それをエイデンと一緒に聞きたくなかった。

彼を部屋から追い出す方法を考えたが、それは難しいように思えた。そのうちにノックの音がして、ドクターが部屋に入ってきた。

ソフィアとあまり年齢の変わらなような、若い女性のドクターだ。

「検査の結果が出たんでしょうか?妻はなぜ急に倒れたんでしょうか?」

エイデンは慌てて、椅子から立ち上がると、ドクターに尋ねた。

「夜間のため、詳しい検査等は明日行いますが、

原因はおそらく…。血液検査でhcgの値が高く出ているので、妊娠による貧血のせいと考えていいでしょう。しばらくは無理をしないようにして…」


「妊娠…今、妊娠って言いました?妻のお腹には赤ちゃんがいるんですか?」

エイデンが、ドクターの言葉を遮って聞いた。

ソフィアは、驚いた表情で固まっているが、いつの間にか手はお腹に当てていた。

「はい、奥様は妊娠しています。4〜5周目あたりでしょうか・・・。今夜は、専門のドクターもいないので、詳しいことは明日来ていただいたときに聞いてください。もう帰っていただいて構いませんよ」


ドクターがそう言って、忙しそうに部屋を出ていくと、2人は信じられないといった表情でお互いを見つめあった。もう自分たちの子供を持つことは無理だろうと諦めていたのにー‼︎

「奇跡が起こったわ!エイデン、私たち親になるのよ」

「信じられないよ。こんなことが起こるなんて。あぁ、神様、心から感謝します!さっきまで、妻が大変な病気ではないかと、本当に頭がおかしくなりそうだったんだ。けど、今は別の意味でおかしくなりそうだ!」

エイデンは、顔いっぱいに喜びの表情をたたえた。大きなブラウン瞳からは涙が溢れている。

深い喜びに包まれて、ふたりは深夜の病院を後にした。



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