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エピソード1 俺と有名人と素敵な場所

俺が通うことになっている高校は明星高校という。


進学率も就職率も優秀な名門高校。


とは言っても部活動にも力を入れていて勉強一環というわけではない。


しかもありとあらゆる部活を許可して生徒の自主性を重んじている。


学食を含めた大きな施設が多くあって、快適に過ごすのには適している。


しかもその割には学費は一般の高校と同じくらいに抑えられていて、独自の奨学金制度も設けており、寮制度もある。


これだけの設備がある高校は全国に類がなく、一般の大学も顔負けである。それでいて学費も安いとなれば全国からこの高校を受験しようとするから、倍率は半端ではないほど高くなる。


そんなところに学歴が普通の俺が入るのは普通は難しいのだが、俺の父親がこの高校出身で、今でも経営のための費用を寄付していることもあり、多少の便宜は図ってもらった。


父親の顔に泥を塗るわけにもいかないので精一杯勉強して学校側も成績十分として受け入れてもらった。



とは言ってもこの事実は俺は知らされていなかった。だが、父親が仕事の都合で転勤が多い父親が、俺を気にして、父親の地元であるこの地方に俺を1人暮らしすることを提案してくれて、それを俺が飲んだのだが、俺が1人で暮らしつつ、通いやすい学校がここしかなかっただけだ。

明星高校は俺がもともと通っていた学校よりも学力がかなり高く、春休みの間をほとんど勉強に当てた。


受験生みたいでだるかったが、父親が既に住む場所を決めてしまった以上は、そこに不合格になると朝早く起きて遠距離通学になる。


朝の弱い俺にとってそれは致命的なので、めんどうくさくても勉強せざるを得なかった。

めんどうなことをさぼるとよりめんどうなことになるというのは世の心理。


後々この学校の評判を知って、えらいところに来てしまったと思ったが、入学してから気にするものではない。


2年生からの入学という変則的な形だったが、時期がちょうど始業式のタイミングということもあって、クラスには入りやすかった。


「やぁ転校生君、よろしく」


始業式後のHRでの自己紹介を終えると、1人の男子生徒が話しかけてきた。


とてもさわやかなイケメンで、女子がちらちらこちらを見ている。


クラスのまとめ役って感じなのかな?


「ああ、よろしく佐藤君」


「俺は大塚だ! 何で佐藤だと思った?」


「何でだ? 佐藤は1番日本で多い苗字なんだから直感でいうなら1番当たるのは佐藤だろ」


「当たったことあるのか?」


「ゼロパーセントだ」


「だろうな。まぁいいや、岩瀬太一君だっけ。俺はおおつかたくや」


「よろしく、おおつかたく」


「? 名前間違ってないか?」


「は? 『おおつかたく』やって自己紹介しただろう」


「『や』は接尾語じゃない! 『おお、おれは元気や』的な『や』じゃない。おおつかたくやだ!」


「ああ悪い悪い。よろしく、おおつかたくやだ」


「違う! たくやだじゃない! 『だ』は接尾語だよ。俺の名前はたくや!」


「ああ~たくやか。初めからちゃんと言ってくれよ」


「初めからちゃんと言ってたつもりなんだけどな。まったく、転校生ってことで緊張してるかと思って声をかけたんだが、初対面の俺にギャグをかけるとはずいぶんだな」


「転校は初めてじゃないからな。これで4回目くらいかな?」


転勤族である父親についていってばかりで、転校が非常に多かったのだが、何回か転校して慣れてくるとある程度気を使わない方がいいとわかった。


それで引かれるようならそもそも仲良くできない。転校してすぐというのはある程度いろんな人が近づいてくれるから、初めに来た人に引かれてもなんとかはなる。


「うん、面白いな。俺のことは拓也でいいぞ。俺も太一って呼ぶからさ」


どうやら拓也は俺の適当な感じを知っても引かない奴みたいだ。


「ああ、これからもよろしく拓也」


「さぁまずはこの質問だ。彼女はいるのか?」


「本当にいきなりだな。とりあえず俺はいない。拓也はイケメンだしいるだろう」


「う~ん、俺のめがねにかなう奴はいないな」


「めがねしてないじゃないか」


拓也は目がパッチリしていて、目が悪そうには見えない。


「比喩だよ。でも彼女欲しいとは思わないか?」


「すぐに必要とは思わないが、まぁいたほうがいいとは思う」


「この学校の女子はレベル高いぞ」


拓也は指をたてて笑顔で言った。


「ああ、それは分かる」


転校してすぐだったが、簡単に見回しただけでも確かにかなり美人ぞろいであった。


「せっかくだから、人気のある女子を教えてやろう。落とせるかどうかは別としてな」


「それはありがたいんだが、俺は学園のマドンナを狙えるほど自分に自信はないぞ」


「まぁいいじゃないか。知るだけならタダだしさ。損はないだろう」


「分かった分かった。聞いてやるよ」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれたな」


「聞いたわけじゃないがな」


「このクラスにはここでも有名な美人が3人集まっている。あっちを見てみろ」


なぜか自慢げに拓也が示したのは座席で言うともっとも左端の前から2番目の位置。


HRが終わってそこそこ経つのに、そこには人だかりができていた。


隙間から見えるのは、ちょっと童顔だが、吸い込まれそうなほど大きな瞳が目立つ整った顔だち。黒というより闇ともいえそうなほど真っ黒でストレートな髪。それとコントラストを成す白い肌。

街中で見たら確かにちょっと振り向いてしまいそうである。


「藤川杏里。この学校でもかなりハイレベルの美人だ」


「すごいな。男子だけじゃなくて女子にまで囲まれてるな」


あのレベルまでいくと、女子からは妬みの対象ではなく、尊敬の対象になるようである。


男子からも女子からもずっと声をかけられている。


「ん? でも興味ないのもいるんだな」


とは言っても全員が行くわけではない。何人かは友人と話したり、帰宅したりする。


「いや、あいつらは去年俺とクラスが一緒で、藤川さんとクラスが一緒だった奴らだ。話しかけても無駄なことを知っているんだ、よく見てみろ」


そういわれてみると、まったく必死に周りが話しかけても藤川さんが答える様子がまったくない。


「あれが原因だ。一切回りに気をつかうことなく、自らの道を行き続ける。難攻不落とまで呼ばれて、何人もの男子が無謀にも特攻して、撃沈した男子は数知れず。ならばせめて知り合いになろうとしてもあんな風だ。友人もいないし、そもそも声すら知らないのが多いんだ」


「ほぉ、難攻不落ねぇ~」


周りの喧騒を面倒くさそうにして読書を続けている。1人でいるのが本当は好きなんじゃないのかな? とも思った。


「どうする、お前も特攻するか?」


「ばーか、それを聞いていくわけないだろう。俺なんか相手にされないって」


話しかけている男子には、明らかに俺よりもかっこいい男子も話しかけている。彼らで無理なら俺は無理だろう。


「じゃあ、あの子はどうだ?」


次に指を差したのは教卓の前で友人と話している女子。杏里よりもさらに童顔で美人というよりかわいい系だが、こちらも非常に顔が整っている。


ふんわりとした笑顔でまわりの空気をほんわかとさせる表情と、セミロングの髪も笑顔同様ふんわりとしていた。


「永川水城。彼女も可愛いと思わないか」


そういわれると確かにチラチラと彼女を見ている男子はいる。


杏里とは大きく異なるタイプで、好みが分かれそうである。


「あの子は普通に友人と話してるな?」


永川さんの近くには、女子の友人が何人か笑顔でいて、談笑している。


「藤川さんと違って、友人も多くて、男子とも普通に話すが、浮いた話はない」


「なんでだろうな?」


男子の友人もいるなら、1人くらいは彼氏彼女の関係になることもありえそうだが。


「興味あるなら話してみろよ。俺も永川さんとは話すしな」


まぁ知り合いが大いに越したことはない。仲良くできそうなら話してみるか。


「最後はあれを見てみろ」


最後に指を差したのは教室の隅でただ立っている女子生徒。


おそらく175センチはあろうという女子にしては大きな身長にとんでもなく足の長いでたらめともいえるスタイル。髪もさらっとしていて太ももと膝の間くらいまでかかる長い髪である。


「山口由美。モデル並みの好スタイルで、生徒からあがめられている」


「誰も見てないんだが」


「見られるの嫌がるからな。藤川さん以上に誰とも接しない」


「接せないんじゃないのか?」


まるで中心に柱が立っているかのようにピンと姿勢よくたっていて、そのせいで高い身長はより締まって見えて迫力がある。話しかけづらさがすごい。



「いや、彼女は話せば一応答えてはくれる。だが、能動的に話すことはほとんどない。沈黙の塔って呼ばれるほど寡黙なんだ」


「なんか、癖あるな……。というか何で立ってんだ?」


彼女も藤川さんと同じで、読書をしていたのだが、なぜか席に座らず立っているのは不自然であった。


「山口さんはちょっと謎か多くて分からない。だが、見た目は高校生のレベルを超えた一級だ。たぶんあれほどのレベルは簡単に見つからないし、学生の間にこの子たちを落とせる相手はいるのかって話題になってるんだ」


「まぁ俺には関係ないな」


「冷めてるな~。あまり好みじゃなかったか?」


「いや、そんなことはないがな。レベルが高すぎるだろう」


俺は女子と話せないようなピュア男子高校生ではないが、さすがに身の程はわかっている。


あれくらいのレベルと付き合えればいいとは思うんだけどな。



数日も立つと拓也以外の友人もできて、いい感じの学生生活を送れるようになる。


もちろん、あの3人との絡みなどあろうはずもなく、本格的に授業が始まっていった。


「じゃあ部活がんばれよ」


「ああ、じゃあな」


拓也とはかなり仲良くなったが、彼は野球部に所属していて放課後は忙しい。


「さて、どうしようかな?」


最近は、一人暮らしをはじめて家の整理ばかりしていて忙しかったが、それもひと段落着いたことだし、学校を眺めてみよう。


本当にこの学校は大きい。


いわゆる授業だけを行うクラスが集まった本館。これだけでも一般的な学校の大きさがあった。


別に所属している学生が多いというわけではない。


もともとこの明星高校は少子化のあおりを受けて3つの高校が合併した学校である。


ただ、少子化のため、学校自体の数が多くないので1つあたりの学校に予算を多くかける傾向が近年出来てきた。


明星高校はその中でも全国トップクラスに大きい高校なのだから、ただ見て回るだけでも1日でも回りきれるかわかったものではない。


ただでさえ俺はみんなよりも1年通う時間が短いのだ。きちんと施設を見ておかないと、せっかくこれだけ大きな学校に通うことになったメリットがない。利用しておけるものはしておくべきだ。


初めにマップが渡されていて、どこに何があるかすべて記してある。


私立図書館とそんなに変わらないくらいの図書館。

グラウンドはどこかの公園が3つくらいそろっているのではないかというほど大きく、複数の運動部がそろっても全く邪魔にならない。


そして本館とは別に、部活専用の部室だけがある別館もある。


有名な野球部やサッカー部から、どれだけマイナーな同好会でもある程度は受け入れている。


「漫画研究会に新聞部はまだいいとしても、ご飯研究会に株主体験会ってなにやってるんだろうか?」


いや、なにやってるかはわかるんだが、やる意味がわからないという意味である。


「お、ここはなんだろう?」


地図にはカフェと書いてあった。


カフェなど明らかに学校に必要な施設とは思えないが、もの珍しさから見てみることにした。



そのカフェは別館の横に位置していて、一般的な喫茶店くらいの大きさがある立派なものだった。


カランコロン。


「あ、いらっしゃいませ」


中も清潔にされていて、おしゃれな雰囲気をかもし出していた。


「あら、初めてですか。あちらの席に座っていてください」


本当に普通の接客対応で、ちょっと緊張しつつも席に座る。


カウンター席と4~6人かけくらいのテーブル席があって、席数は60ちょっと位に見える。


俺は1人できたからもちろんカウンターに通された。


「こちらメニューです」


もちろん高校生しかいないので、アルコールなどはない。


だが、ジュースや紅茶、コーヒーがそろっていて、軽食もあった。


その品揃え以上に驚いたのは値段であった。


いわゆるこういったカフェでの飲み物の値段は300円、料理は800円くらいするはずだが、飲み物は100円、料理は200~300円くらいと破格であった。


「これ、値段間違ってませんか?」


「いいえ、これであってます」


めちゃくちゃ安いな。相場の3分の1くらいか。


「じゃあ、紅茶ください」


「はいありがとうございます」



そのまま待っていると、紅茶がきちんと出てきた。


値段は安いが普通においしかった。


この安価さからか、ここで勉強したり、おしゃべりしたりするのに使われているようだ。


これだけ便利なのに混雑はしていないのはわけがあるようだ。


先ほど見てきたように、いろいろマイナーな部活もあって、そこにそれぞれ大きな部室が準備されている。


ここのカフェはメニューに書いてあったのだがテイクアウトも認めており、ここで購入したものは部室に持っていける。


ここにいるのは、本当に何の部活にも参加していない生徒だけ。ここの学校にいるのは600人くらいだから、60人も座れる席数は多すぎるようだ。


ここは使いやすそうだし、テスト勉強とかにも使えそうだ。

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