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エピソード9 生徒会長ご案内と、雨の日の買い物での出来事

「やっほ、太一君」


週明けの月曜日、カフェに向かっていると、先輩と会った。


「あ、お疲れ様です、今日もお仕事ですか?」


「いいえ、今日は何もないから帰るところよ。あなたは?」


「俺はこれからのんびりとカフェで過ごします」


「へ~、あのカフェよね。私あまり利用しないんだけど行ってみようかしら?」


「ええ、是非」


そのまま先輩を連れてカフェの前に行くと、杏里、由美、水城の3人が待っていた。


「あ、佐々木先輩」

「副会長が、なぜここに……」

「美香先輩、どうも~」


「あら、あなたたちも一緒なのね。フフフ、相変わらず仲がいいのね」


「佐々木先輩といつの間に仲良くなったの?」


杏里が首をかしげる。確かに金曜日の時点で先輩と俺が一緒にいることは無かったのだからその疑問はもっともだ。


「クラス長の会議で知り合った後に、少し会う用事があって、それで仲良くなれたんだ」


嘘は言っていないな。


「ふーん、そうなんだ」


「うう……、まぶしい」


杏里と由美はちょっと先輩が苦手なようだ。


先日帰りに注意されていることが原因だろう。


「そんなに距離をおくんじゃない。先輩は話してみるとそんなにとっつきにくい人じゃないぞ。だから、2階も紹介するな」


「む、私は太一がそう言うなら従うだけだよ」


「会長の視察が入って大丈夫なのか?」


杏里は不服そうにしながらもしたがっていたが、やや不安そうである。


規律に厳しい生徒会長に私物の多い2階を見られることを恐れているようだ。


「大丈夫だから心配するな」


「太一がそこまで言うなら」


とりあえず杏里も納得する。


「え? この後どこかいくの?」


すると次は先輩が混乱し始める。


「ええ、ちょっと秘密の場所です」


「じゃあ私は美香先輩の分も買ってくるね~。コーヒーでいいですよね」



水城が気を利かせて先輩の分も買ってくれるとのことだったので、他のメンバーを引き連れて2階に向かった。。


「ここは一体何?」


先輩は驚いて部屋を見渡していた。


「実はカフェの人に借りていまして」


先輩に事情を話す。


「そうなの。いいわねここ。あの2人は何してるの?」


「2人とも自分のプライベートグッズ持ってきてるんですよ。


杏里はキャンドルに火をつけて本を読み始める。


由美はダイエットグッズを使って作業し始める。


水城も戻ってくれば自分のぬいぐるみに埋もれてのんびりするだろう。


「あ、先輩。先輩が生徒会準備室に置いてるもの、ここに持ってきてもいいですよ。どっちにしても4人じゃ広いですし、先輩もここ使いませんか?」


俺はいいことを思いついた! と思って手をたたいて先輩に提案する。


「え、でも……」


「大丈夫ですって。この3人は先輩のことを知っても何も否定しませんから、何なら今話してしまえばいいですよ」


「そうかしら……」


先輩は不安そうな表情をした。


「話してみましょう」




そのあと水城が先輩の分を持ってきたところで、読書しながらうとうとしていた杏里と、ダイエットグッズに乗りながらうとうとしていた由美を呼んで、中央においたテーブルの周りに集合させる。


2人とも眠たいのかな?


中心においたテーブルは元々ここにあったもので、6人座れる大きさのものだった。

横に2人ずつ座り、側面に1人ずつ座る形である。


俺の右に先輩、向かいに杏里と由美、先輩側の側面に水城が座っていた。


「どうしたのかな? 改めてみんなで座って言うことがあるなんて。佐々木先輩のことは、すばらしい人だと思うし、いてもらっても問題ない。特にここについて、問題視もしていないようだし」

「私も副会長がここを使うことなら依存はない。好きなことさえ出来れば十分」

「私も美香先輩大好きだからいいよ~」


先輩が俺をどうしよう……と言う目で見てくる。


確かにこの先輩を受け入れる準備万端という姿勢はかえって本当のことを言いづらい。


3人とも普段の先輩のことを他の生徒同様尊敬しているようだ。


ちなみに先輩と俺の身長はほとんど変わらない170センチくらいだが、先輩の足がものすごく長いので、座ると俺の方が大きくなる。なので、上目遣いになってしまってどきどきする。決して俺の足が短いわけではない。ついでに言うと由美も俺より座ると背が低くなるが、俺の足が短いわけではない。


「大丈夫ですって」


先輩の肩をたたいて後押しする。


「えーとね。私実は、漫画やアニメやゲームがすごい好きで、オタクってほどじゃないけどはまってるの」


おお、言った。


顔をうつむかせて震えている。


さて、3人のリアクションは?


「先輩、顔上げてください」


先輩がおそるおそる顔を上げる。


3人の顔は全員きょとんとしていた。


「う……」


先輩はそのリアクションに不安を覚えたようだ。


確かに一見呆れているようにも見えるが、違うのは分かる。


「え? それが何かいけないんですか?」

「私もアニメは見るし、先輩が見ていてもおかしくない」

「美香先輩も皆と同じような趣味があるんですね~。安心しました~」


3人のきょとんとした顔は、『え? そんなこと?』というリアクションであった。


「え?」


今度は逆に先輩がきょとんとした表情になる。


「ほらやっぱり大丈夫ですよ」


「一体何の話をしているの?」


杏里が状況についていけず困惑していた。



「なるほど」

「それはつらいな」

「美香先輩も苦労してたんだね~」


先輩の話をある程度話すと、3人とも立って先輩の近くに行って慰めにいく。


「あ、ありがとうね」


先輩は困惑しながらも感謝する。


「やっぱり先輩もう少し皆に話してもいいんじゃないですか?」


「ごめんなさい。それはやっぱり怖いわ。あなたたちが受け入れてくれたのは嬉しいけど、皆が受け入れてくれるかは分からないし、知っている人が多くなれば、先生方に知れる可能性もあるし、そうなれば両親に知れる可能性もあるからできれば知ってる人は少ないほうがいいのよ」


それはそうか。


まちがいなく両親は悪いことと思ってるし、俺は杏里達のことを知ってるから話しても大丈夫ということを知ってるが、先輩の知り合いのことは知らないのでこれ以上は軽はずみにいうことはできない。


「でもありがと。ここではちょっと素を出させてもらうわ。生徒会活動の合間にでもお邪魔させてもらうわ。じゃあたっくん」


「たっくんだって?」

「……、たっくん?」

「たっくん?」


3人が先輩の呼び方に反応する。


「たっくんって何すか?」


「え、あだ名よ。太一君だと水城と呼び方かぶっちゃうし、苗字呼びだと他人行儀だし、私たっくんのこと気に入っちゃったから」


そう言ってまた俺の腕を取って笑顔になる。


「うらやましい……じゃなくて、私も由美と呼び方がかぶっているんだが、変えてもいいのかな?」

「そ、それなら私が呼び方を変える。杏里に変えさせるのは申し訳ない」

「私もあだ名で呼んだほうがいい~?」


杏里と由美と水城が俺の呼び方で揉め始める。


「水城は太一君って呼んでるんだからそのままでいいだろう」


「そっか~。じゃあこのままにしておくね。太一君って呼ぶ人が他にもいたら考えるね~」


水城の呼び方である「太一君」は水城だけの呼び方なのでそこは問題にならない。


つんつん。


後ろから背中をつつかれる。


「なぁ太一。太一はどう呼ばれたい?」

「太一が呼ばれたい呼び方を太一が考えてくれ」


問題はこの2人である。呼び方かぶってるからな。


「どっちでもいいんだが、どっちが太一じゃない呼び方で呼ぶんだ?」


どっちが呼ぶかによって、あだ名も方向性が変わってくる。


「由美」

「杏里だ」


2人がお互いに相手を指差す。


「わ、私はあだ名で呼ぶのは恥ずかしい」

「あ、あだ名というのは特別な呼び方だろう。だったら杏里のほうがふさわしい」


「譲り合うくらいなら2人とも太一で呼んでくれ……。どうせ声で聞き分けがつく」


「そ、それは私達は声で分かるってことね。うれしい」

「そ、そうだな。呼びかたなんてささいなことだ」


勝手に俺の評価が上がる。


杏里はとても高い良く通る声で、由美はかなり低めのハスキーな声。

混雑した中で呼ばれても絶対にこの2人なら気づくだけなのだが。


「みんな、私を受け入れてくれてありがとう。これからもよろしくね」


先輩が少しうるっとしながら、笑顔でそう言う。


彼女の笑顔は自然と周りを安心させる。


学園のカリスマは、ここにいて本性を見せてもカリスマということだろう。




「よし、運び終わった」


次の日、生徒会準備室にあった先輩の漫画やゲームやアニメ。ついでにパソコンも全てダンボールにつめ終わった。

ダンボール3箱という数になったが、5人いれば運ぶのは大変ではない。


途中手伝われそうになったのは一瞬危機だったが。


「ありがとう。じゃあ早速やるわね」


「え? 今日は土曜日じゃありませんけど?」


「いいのよ。生徒会準備室はあまり頻繁に使うと怪しがられるけど、ここならいくらいても大丈夫だから」


小型ゲーム機を起動させながら、パソコンを立ち上げてアニメを見始め、漫画を読み始める。


「そんな一気に見れるんですか?」


杏里がその光景を見ておののきながら聞く。


「ええそうよ杏里ちゃん、今まで土曜日しか時間がなかったからすばやく見るスキルを覚えたのよ。勉強にも応用してるわ」


「あ、この漫画知ってます」


「由美ちゃんも知ってるの?」


「ええ、読んだことはないんですが」


「じゃあ読んでいいわよ。面白いし」


「アニメ私も見ます~」


「そうね、じゃあイヤホン外すわね。たっくん、ここには誰も来ないわよね」


「ええ、誰もこないと思います」


「じゃあ一緒に楽しみましょ。イヤホンなしで見れるなんて幸せね~」




「う~ん、どうしようかな?」


先輩が2、3日に1度顔を出すようになり、別々のことをしていた部屋で、みんなが一緒になにかすることが多くなった。それはゲームやアニメに限ったことではなく、一緒に食事をしたり、相談しあったりと普通の対等な友人として過ごしていた。


杏里や由美も、仲良くしていたが、特に喜んでいたのは水城であった。


父のように立派な大人になりたいと思っている水城にとって、完璧超人の先輩は1年以上尊敬してきたあこがれの人なのだった。


これまでは、生徒会やクラス長会議でしか接点が無かったらしく、このように一緒に過ごせることをとても楽しんでいた。


ゲームが好きだとかそういうことを抜きにしても、先輩のスペックが高いことには変わりない。


これを機に、水城にもよい刺激になるとよいのだが。


さてそれはそれでめでたいことなのだが、部屋はひたすら物が増える一方。


杏里と水城は、自分ではあまり何もしない。

由美と先輩は全くしないわけではないが、あくまでも自分の分だけ片付ける。


なので、この部屋は、2人の周りだけそこそこ整理整頓されていて、あとは散らかる一方であった。

特に先輩はものが他のメンバーと比べて量が半端なく多くあり、多少整理整頓されてはいるがとても女子が4人いる部屋には見えなかった。ちゃんと棚とかも買ってきてあるのに。


「先輩、片付けてください」


「え~、ここでは好きにさせてよ。私家でもきちんとしてなきゃいけないんだから、これくらい自由に出来る場所は他にないの」


そういわれると、先輩の事情を知っていて、しかも俺が誘ったのだからあまり文句は言えない。





「めんどくさいな。誰か1人でもいいからちゃんとした子はいないのか?」


一応片付けるときには手伝ってくれるのだが、もともと整理ができない(やらない)人間ばかりなので、すぐにまた散らかる。毎回整理するのも疲れた。


俺の予想以上にオフモードの先輩は横着であった。


家でも両親がいつ来るか分からないから気を張ってるらしいから、高校に入学してはじめてこれだけ気を抜ける場所が見つかったと感謝されたのはいいのだが、本当にやる気0の状態になってしまう。


リラックスして休んでいる先輩に、あまり掃除しろとも言えず、かと言って他の3人も頼れない。


「今度話さないといけないな」


そんなことを思いつつ俺は今日1人でスーパーに来ていた。

デパートと比べて非常に近く、普通の買い物はここで十分すぎるものだ。


1人暮らしをしている俺は、安いものを適当に買って自炊している。


ここのスーパーはタイムセールも多くて安価で購入することができる。


主婦に混じって買い物をしていると、制服姿の俺はちょっと目立つ。


しかも今日は雨が降っていて、制服がびしょぬれなので、余計目立った。


寮制度もある明星高校では、俺のように1人暮らしをしている生徒は決して多くは無いからである。


そういえば料理は皆できるのだろうか?


先輩はやってるって言ってたし、水城はなんとなくできなさそう。杏里もあまりやらなさそうだが、意外と出来そうな気もする。由美はよくわからんな。


「おっ、ラッキー。肉がめちゃくちゃ安い」


薄いバラの肉が1人2PCまで購入できた。


のこり2PCを両方手に入れる。


その他の買い物も適当に買って買い物を終わらせる。


頻繁にタイムセールを行うこのスーパーではあまり1度に購入しないで、時々店に来て安いものを選んでレシピを決めるのが最も良い。

だから俺の買い物袋はとても小さく済む。


今日も何を作るかは決めずに店に来たのだが、偶然にも肉が安いという幸運。俺はうきうきしながらスーパーを出ようとした。


すると1人の女子が出口の辺りにいた。


服装は私服だが、俺と同じくらいの年齢。ふわっとした黒髪を後ろでポニーテールにし、白いワンピースを着ていた。見た目は童顔だが、目も眉もしっかりしていて、なぜか頼りになりそうなたくましさを感じた。


両手で大きなスーパーの袋を持っていて、周りの主婦とも量が大差ない。お手伝いというレベルではないな。


そんな彼女が顔をうつむかせて落ち込んでいるとものすごく目立った。


「どうかしたのか?」


1度気づくと無視するというわけにはいかない。声をかける。


「あ、はい、ご心配をおかけしてすいません」


「ずいぶんたくさん買ってるんだな。重くて持てないのか?」


「いえいえ、そんなことはないです。これくらいよくあることですから」


「よくあること? お手伝いじゃないのか?」


「違います。今日の家事は私の順番なんです」


目を閉じて胸に手をあてて言う。だが自慢げというわけではなく、それが当たり前という感じであった。


「ちょっと失礼かもしれないが、家にお母さんはいないのか?」


「いいえ、両親ともに健康ですよ」


「だったら何でだ? 見た感じ俺と同じくらいの年齢だろう」


「実は私の家は兄弟が多いですから、お父さんもお母さんも働いているんです。だからお母さんが大変なときは家のことは私がやってるんですよ。だから、料理、掃除、洗濯皆私がやってます」


「それが大変だから落ち込んでるのか?」


「いいえ、家事は大好きなのでぜんぜんそんなことはないです」


「じゃあ何が原因だ?」


「今日雨がひどくて、制服が濡れてしまって、そのままじゃ風邪を引いてしまうので家に戻って着替えてから来たら、お肉のタイムセールが終わってて……、今日はお肉料理をしてあげるって約束したのにがっかりさせちゃうのが悲しくて」


男子と女子では制服が濡れてしまうことの弊害が大きく異なるからな。主に透ける的なことで。


「それで落ち込んでたのか」


「はい、家事の楽しさは皆が喜んでくれることが1番なんです。だからそれができないのが……」


「はぁ、なるほどな。じゃあこれをよければ、譲るよ」


そう言ってさっき買った肉を2pcとも渡す。


「え、これは特売のお肉ですよね。これはあなたが買われたものじゃないんですか?」


「いいって、君の弟や妹たちにあげなって」


「いえいえ、申し訳ないですって。これはあなたが買ったものです」


「あ、ただで貰うのが気が引けるのかな? もちろんお金は貰うから、気に病まなくていいよ」


「そういうことじゃないんです。特売のものは先に手に入れた人が勝ちなんです。私だけもらったら変えなかった人に申し訳ないじゃないですか」


真面目だな~。いい意味でだが。とても好印象をうける真面目さだ。


「別にいいじゃんか。特売でものが手に入るかどうかっていうのはいわゆる運みたいなものだろ。だったらここで俺からもらえるのも運がいいってことじゃん」


「そうでしょうか……」


「俺は別に何食べるか決めずに適当に買うだけだから、絶対に肉が食べたいわけじゃない。でも君の家族は違うだろう。だから俺に気を使わなくていい」


「…………はい。それでしたらいただきます」


そこまで言ってようやく受け取ってくれる。


「あの、これ代金です。本当にありがとうございました」


彼女は頭を下げてお礼を言った。


「じゃあ家族によろしく」


お金を受け取るとそれだけ言ってその場を去る。


今日は肉なしの野菜炒めでもつくるかな。味濃くすれば余裕でおかずになるし。



















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