序章… 謎の宅配便
蝉の鳴き声が街中に響き渡り額からは大量の汗が流れてくる猛暑の8月の出来事の事だった。
都心から離れているボロボロのアパートに住んでいた木斗隼人の元に大きな宅配便が届いた。
「こちらにサインお願いします。」心当たりは全く無かったが配達担当をしている配達員の額から大量の汗が流れており息も上がっていたので反射的に僕はサインをしてしまい荷物を受け取った。
170センチある僕の身長をあっさりと超えた大きなダンボールは縦向きのままでは部屋に入れる事は出来ず横向きで何とか部屋に持ち運ぶ事が出来た。
大きな荷物の宛先欄には名前は記入して無かった為、送り主が誰なのかその時は何も分からなかった。
荷物を運び終えた僕が冷蔵庫にキンキンに冷えた炭酸水を取りに行こうとした時に黒く塗装も剥がれている僕の携帯電話がブーブーと振動始めた。
いつも僕は家に居る時は携帯電話をマナーモードにしている。
昔から一つの事に集中すると周りの音が聞こえなくなってしまうので、振動機能があるマナーモードを利用しているといった単純でどうでもいい理由だ。
携帯電話を開く見覚えの無い電話番号が画面上に表示されていた。
昨日、友人がTwitterに機種変更に行ってくる!!…などといった文章をツイートしていたので僕はそいつがウキウキ気分で電話を掛けてきたなと思って謎の電話に出た。
「やっと出てくれましたか。隼人くん待ってましたよ…。」
携帯電話越しから聞こえてきたその声は友人では無く低く冷たい声だった。
しばらく、沈黙が続き…謎の男が僕に話しかけてきた。
「先程…届いた宅配物があることでしょう。そちらは開封されましたか?」
なぜ…この謎の男は僕の名前を知っておりボロボロのアパートの一室に宅配便が届いた事を知っているんだ…。
様々な疑問が頭に浮かんできたが僕はゆっくりと謎の男の声に言葉を返した。
「確かに…大きな荷物が僕の家に届いたが開けていない。ところであんた誰だ?」
胸の中の微かな鼓動がドクドクと静かなアパートの一室に響き渡る感じがした。
「申し遅れました。私の名前はトラベラーと申します。この度は、急なご連絡を差し上げましたのでさぞかし驚いた事でしょう…。ひとまず…宅配物を開けてもらってもよろしいでしょうかかな?」
丁寧な言葉使いをしているが慣れていないのかぎこちない喋り方の様に僕は感じた。
僕はトラベラーと名乗る人物に言葉を返さず黙って大きなダンボールをゆっくりと開け始めた。
なんとダンボールの中には様々な色や形のした時計が入っていた。
僕は携帯電話を握り再度トラベラーと名乗る人物に疑問を尋ねた。
「今開けたけどこれはなに? 時計がたくさん入っているけど…。」
「あなたには時計が届かれましたか…。」
トラベラーと名乗る人物は続けて僕に話し始めた。
「そこにある数々の時計から一つ隼人くんが気に入ったモノを手に取ってください。そして左腕に付けてください…。」
数々の疑問を感じていたが僕はその言葉に従い時計を手に取り左腕に付けた。
小さい頃からファッションやお洒落といった項目に一切興味が無かったため手を伸ばし最初に触れた時計を僕は手につけた。
すると…眩い光が僕の目に飛び込み僕は目を反射的につぶった。
しばらくして目を開けると…先ほどの大きな荷物は消えていた。
まるで…メルヘンチックでファンタジー溢れる映画や小説の始まりであるかの様な不思議な光景が同時に僕の目に飛び込んだ。
さっきまで過ごしていたボロボロのアパートでは無く大理石が白く輝く大きな部屋の中に僕は居た。
部屋は白く装飾も何もされてなく呆気ない程に静まり返っている一室だった。
不思議と驚きはなく何故か僕はすごく落ち着いた気分だった。
すると…左腕に付けていた時計がチクタクチクタク…と静かに音を刻み僕は先程まで居たボロボロのアパートの一室に帰っていた。
すると…黒い携帯電話がまたブルブルと床で震えていた。