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到着、空の大地。

 雲1つ無い青空。


 風も吹かない好天。



 高度2万メートル上空でありながら、空気の動きが、無い。


 自然ではない。


 この領域そのものが、人工空間か。



「オウザ。まだ、おれの力は要るか」


「分かんないっす・・・」


「了解した」


 ネイキッドは、竜討伐のお駄賃だちんとしてもらった秘薬を一息に飲み干した。竜の血と各種薬草を混ぜ、飲みやすい果物の果汁で味付け、更に炭酸飲料と加工した、ドラゴンドリンク。1杯で、名剣の1つや2つ買えるお値段だが。自分で狩ったので、問題無し。


「ふう」


 体力は元より、気力までが充実して来た。


 それはそうで、このドラゴンドリンク、戦士はおろか、魔法使いまでも十分に回復させられるものだ。伊達で秘薬と呼ばれてないな。


「しかし、ネイキッドがここまで強くなってたとは、全然気付かなかったっすね」


 オウザは、花蜜ニンフを無理のない範囲まで狭めて、常態を維持していた。


 そして、自分達の乗っている雲の上に、搭乗人数が増えていた事に気付いた。


 翼長200メートルを超える巨体。


 オウザも知るのは名前だけ。


 その名を雷王。


 その死骸が、目の前に。


「いや。おれが強くなったんじゃない。こいつ、完全に舐めきってた」


 ネイキッドが巨大化アズマを使えようが使えるまいが、見た目はただの人間なのだ。雷王ならば、遠距離から雷を撃ち込んでいるだけで、勝てる。


 それなのに、敵は、雷を撃ちながら接近して来た。焼きたてこんがりをサクッと食うためだろう。


 相手が、師匠やメイストームさんなら、こんな雑な戦い方はするまい。


 オウザが全く身動きしないのと合わせて、おれ達を雑兵と見たのだ。


 思ったより楽で助かった。が。


「オウザでも、油断しなければ、普通に勝てたと思うぞ」


 先手必勝。雷王の気の緩みに付け込めれば、ネイキッドと同レベルのオウザなら、勝てるだろう。


 ただ、確率は、五分五分。


 ネイキッド自身、本気の雷王と戦って勝つ自信は、まだ無い。



 そして。



オ オ



 見えた。


 と言うか。



 ネイキッドは、雲から、「石畳」に降り立った。


「これが」


 ネイキッドが驚いている間に、オウザも魔法を解き、地に降りた。



 オウザの魔法に反応したのは、特定の、例えば空飛ぶ城、などではない。



 見渡す限りの空に、地面がある。自分達の立っている、石畳。向こうには土。遠くには平原。


 そんな大地が、雲の上に。



 オウザの作り上げた雲の船ですら、100平方メートルの広さでしかない。


 だが、この空の地は。一体、何万平方キロメートルだというのだ。



 ネイキッドは、まだ分かっていない。


 しかし、オウザはすぐさま理解した。



 まず、オウザがこの世界に気付けたのは、オウザの花蜜ニンフに一切反応しなかったからだ。


 生き物、人間、魔獣。あるいは空に漂う魔力。それらに食い付くはずの自らの花蜜ニンフが、全く効いていない領域があった。


 それが、この空域。


 オウザの魔法に反応しないという事は、つまり、この地全てに結界がかかっているという事。



 魔力のケタが違い過ぎる。魔力操作の技術も、自分とスガモさんでは、天と地ほどの差がある。


 正直。正直に言って、師匠達以外の人間になら、まあ勝てるというつもりだった。魔法技術も、そこらの奴には遅れを取らない気で居た。


 ・・・だからか。


 だから、師匠は、自分にあれほどの稽古を課したのか。


 ちょっと魔法が使えるぐらいで増長していては、スガモのレベルにはたどり着けない。


 そんな精神性では、いざスガモの魔法を見た時、心がへし折れる。て言うか、今、折れそう。



 静かに驚嘆しているネイキッドと、静かに打ちのめされたオウザ。2人は、やはり静かに、空の国を歩いてみた。



 足元の感触が、わずかに地上とは違う。2人は、ほぼ同時に気付いた。


 2人共が、天風てんぶを操る武術者でもあるので、地形の把握は瞬間的に済ませるのだ。


 土質、と言うのか。石畳に見えるこの地面。だが、軽い。恐らく、ネイキッドが本気で踏み込んだ瞬間に、この大地は崩壊する。


 もちろん、感覚的な把握が正しいかどうかは別だ。特にネイキッドには、魔法の資質が無い。この地の魔力的構造までは、全く分からない。実際は、堅牢なのかもだ。



 しかし。スガモは、どこに居を構えている。


 未来予知や人探しの魔法は、オウザにも使えない。それこそ、そんな大魔法を使えるのは、スガモその人ぐらいのものだろう。


 なんなら、この雲の国を破壊して行けば、スガモが出て来るのだろうが。同時に、ネイキッドとオウザの寿命も尽きる。


 それでは、無意味。



ズズズ


 ネイキッドの引きずる雷王の音が、空に響く。


 響く?


 オウザは、魔法を発動した。


 使うのは、動物魔法、走行ルナ


 効果範囲は、周囲一帯。周囲の空気を走らせる。



ゴ オ オ


 風がうなる。


 そして。




 風が、戻って来た。周囲は、確かにものすごく広い世界。


 だが、これは、見たままの世界ではないな。



「結界?」


「いや。どっちかと言うと、空間構築系っすかね。おれにも、よく分かんないっすけど。見た目の広さは、恐らく幻術。でも、ただの惑わしじゃなくて、迷路になってるっぽいっすね」


「スガモさんは、ここに攻め込まれる事を想定して、この大地を作ったのか」


「それは、どうっすかね」


 何者が、来れるのか。それこそ、メイストームでもなければ。



「しかし。これは、長丁場になりそうだな」


「そうっすね。壁がある事は確認出来た。でも、それだけっす。結局、スガモさんの家までは、どうやって・・・」



 考え込み始めたオウザを見て、ネイキッドは巨大化アズマを使った。


「ネイキッド!?」


「こじ開ける」


「待って!!」



 このエリアの主は、スガモ。


 魔法を使えないネイキッドには仔細までは分からない。


 だが、それでも分かる事がある。



 自分達が今、死んでいない以上。


 スガモは、待ってくれている。



ジャ!


 全てを斬った。巨大化アズマを使い、一瞬に全力を振り絞ったネイキッドの右手は、空の国を崩壊させていた。


 魔法で構築されていようと、それ以上の力を加えられれば、普通に壊れる。スガモの全力ならともかく、この空間自体には、常識的な魔力しかない。広さは、とても尋常なものとは言えないが。



 崩壊する空。バラバラに落ちて行く地面。砕けた石畳は、空中で、水分に変化していた。強引にスガモの魔力から切り離された事で、元の素材に戻っているのだ。



「これで、スガモさんの最も魔力の濃い位置が分かる」


 即ち、居場所が。そこだけは、ネイキッドでも破壊出来ないだろう。



 満足げなネイキッドとは裏腹に、オウザの顔は青ざめていた。


 師、メイストームが危険視する相手を、怒らせたかも知れない。




「別に。怒ってないわよ」




 ネイキッドとオウザは、はっきりと女の声を聞いた。

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