帰還報告。そして提案。
今回の竜狩りで、王国正規兵8千人に龍鱗の鎧が行き渡った。各地方の部隊長クラスが余す事なく装備出来る数だ。
今後、最低でも数十年は竜を狩れない。本当に絶滅させてしまうからだ。そうなれば、二度と龍鱗は手に入らない。
獣皮の数十倍の抵抗力と硬度を併せ持った防具。それを永久に供給するため、竜の谷は保護区となっているのだな。
勇者御一行は、竜狩りの報告をしなければならない。今回の行動が正規の手続きに則ったものである以上、馴染みの関係だからとサボる事も出来ない。
会うのが嫌なわけでもないしな。
「お帰り、皆」
王の間では、今度は王は玉座に着いていてくれた。座卓で仕事中のようだ。
「帰ったぜ。ヤヨイ」
メイストームは国王の名を呼び捨てにしつつ、どかりと腰を下ろした。当然のようにあぐらをかいて。
ヴェルグ、ネイキッド、オウザはちゃんと正座をしている。
そして各自の前に、茶とお菓子が用意される。今日は緑茶と、きなこのおはぎ。
まず、帰還の挨拶と報告を済ませる。
「予定通り、5匹の竜を狩った。その内、1匹は未確認の竜だった。恐らく炎王が居なくなったのが影響したのだろう。成長すればどうなったか分からん。今後も10年ごとに見回りに行った方が良いだろうな」
よく観察していたヴェルグの報告。将来、ネイキッドとオウザが独り立ちをしたら、当然これも2人でやらなければならない。今は、ヴェルグのやり方を学ぶ時期なのだ。
「未確認の竜?」
帰還報告を聞く場には、将軍カザマ、剣客イルマも参上している。特にカザマには、ヴェルグやメイストームの持ち帰る知識が絶対に必要。
「ああ。オウザの動物魔法で、増殖した。おそらく魔法の類を吸収するのだろう。ネイキッドの天風に対しては一切抵抗が無かった。魔力に反応する身体組織が全身を埋め尽くしていたのか、動きも鈍かったそうだ。この竜が別の土地に移ると、手が付けられなくなるかも知れない」
新発見の竜は、便宜上、モズクと名付けられた。
「成竜は、予定通り4匹狩れた。他に20メートルサイズになっていたものが、数匹。10メートル以下は30匹ほどか。竜の谷の容量なら、まだまだ増やして構わないだろうな」
「やはり、見張りを置くのは危険だろうか」
将軍カザマからの質問。かねてからの課題として、一般兵では竜に食われる。だが、ヴェルグやメイストームクラスの兵を置くのも、もったいなさ過ぎる。
しかし、竜を自由にするのも、怖い。絶滅させるのは、惜しい。
ジレンマと言う奴だ。
「お前かイルマなら、問題無いが。部隊で動かせば、誰かが死ぬだろうな。これまで通り放置が良いと思う」
ヴェルグとしては、こう言うより他にはない。
竜の谷は、谷底からの地熱の影響で、植物が住みやすく増えやすい。そしてそれらを食するために虫が来て、それを食べる動物や鳥が来て。そして魔獣も増える。
竜の谷は、そこだけで一勢力を誇れる地形なのだ。
もっと言えば、増えた魔獣は、竜が食べる。そして竜が増える。
そのため、魔獣を無計画に狩る事も出来ない。
ゆえに、放置。竜が増え過ぎた段階で、ヴェルグか誰かを向かわせるのが良いだろう。そう結論付けられた。
「彼らの成長のほどは、どうだい」
ヤヨイは、ネイキッドとオウザに優しげな笑みを送った。2人は、その慈愛そのものが形を取ったような顔に、ちょっと照れた。
「悪くない。次代の勇者と戦士として、一切の不足は無い」
王の言葉に、ヴェルグは持って回った言い方で答えた。
だが。
「ダメダメだったな。もっと強い敵は居ないのか」
メイストームは、歯に衣着せない。
「竜より強いって言われてもねえ。四天王も魔王も、皆殺しにしたしね」
「だな」
ヤヨイとヴェルグの知識の中にも、竜以上に強くて、弟子達で勝てる相手というのは存在しなかった。
勝てない相手なら、自分達で良いのだが。
「スガモに、練習相手になってもらうか」
「・・・彼女、手加減してくれるかな?」
「あの女はやめとけ」
驚くべき事に、ヴェルグの今回の提案は、勇者にすら拒まれた。
しかし、若者らの意見は、ちがった。
「あの!スガモさんにお相手して頂けるなら、おれはやりたいです!」
「おれもっす!魔法使いの頂点たるスガモさんに練習見てもらったら、間違いなくレベルアップ出来るっす!」
ネイキット、オウザ共に、不満は無い。
だが、大人組には、不安が残っている。
「しゃーねえ。次の弟子でも探すか」
「な、なんでっすか!」
「ネイキッド。ちゃんと、生きて帰るんだよ」
「う、は、はい?」
ヴェルグは、己の提案が吉と出るか凶と出るか、ちょっと考えてしまった。