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師匠達と弟子達

 勇者大通り。


 街の中央を激突門から王城まで真っ直ぐに貫く、横幅100メートルほどの大通りだ。


 今代の勇者が魔王討伐を成し遂げた際、その偉業を称えるために、激突大通りから、勇者大通りに名前が変更された記念碑的な道だ。



 その道の真ん中を行く師弟。


 師は30台後半。脂の乗ったベテラン。獣皮と龍鱗をつなぎ合わせた、超一級品の鎧を身にまとっている。背部に回し、斜めがけした大剣は長さ1メートル80センチ、重量90キログラム。持ち主よりわずかに小さい程度の超大剣だ。その重さも、持ち主の体重の半分を超えているが、その当人は、更に腰に回した長剣、短剣まで含めて平然と歩いている。


 そして弟子は、10台半ば。青年というより、少年と言った方が正しい。これからたくましくなると予想される顔も、まだ幼さを残している。頑丈な獣皮の衣をまとってはいるが、それも服に着られている様相。武装は、腰の長剣のみ。懐には守り刀もあるが、これはどちらかと言えば、便利刀だ。



 そして。2人の前からは、誰もが道をゆずる。


 弟子はともかく、師匠の名は、この国では偉大な4人の内の1人に数えられている。



 なにせ、あの魔王を倒した勇者パーティの、戦士なのだから。



 王城、城門を普通にくぐる。そこで止められる事はない。武装もそのままだ。


 そして王座の間の前まで入った所で、初めて武装を解く。顔なじみの近衛このえに全ての武器を預け、靴を脱ぐ。


 そして、玉座の目の前で座する。


 王の間は、18畳の豪勢な畳敷きの間で構成されている。最も高い玉座には、最も豪華で綺麗な座布団が用意され、どう見ても王様の座る場所と分かる。


 だが、王はそこには居ない。


「こっちこっち」


 中庭、鯉の泳ぐ池の前で、王が手招きをしていた。


「久しぶりだね」


 師匠の男と、それに付いて行く弟子は、特に緊張する事なく王のそばに歩み寄る。玉砂利を敷き詰めた中庭にも平気で下りて行く。裸足に石は、ちょっとあれだが。


 近衛は居るには居るが、庭の外を警戒している。戦士や弟子を見張る者は居ない。



 この国の王は、鍛えられたしなやかな体躯を薄布に隠した、つまり普通の中年男だ。


 ただの中年にしては、優美で品のある振る舞いではあるが。これは、王になる前の時代からそうだったので、特に意味は無いな。


「いきなりで、悪かったな」


「ううん。わざわざここまで来てもらう必要は無かったし。許可はちゃんと出したよ」


 王の手から、戦士に渡される書類。竜狩りの許可証だ。


「狩って良いのは、成竜5匹まで。幼竜は、一切禁止」


「5体も、構わないのか?1匹でも御の字だと思っていたが」


「大丈夫大丈夫。でも、死骸は、こちらに欲しいんだ。兵のために、龍鱗の鎧をこしらえたいから。もちろん、そちらの欲しい装備は優先して作らせてもらうよ」


「何から何まで、至れり尽くせりだな」


「まあ、これぐらいはね。僕個人の裁量で、どうとでもなるよ」


 もちろん、それだけではない。


 一個人による、絶滅危惧種である竜狩りなど、例え勇者パーティであっても、簡単には許されない。


 歴代の戦士達が修行の場として選ぶ、竜の谷。だが、今代、つまりこの場の2名を含む勇者パーティが、ほとんどの竜を狩り尽くしてしまったために、現在は、補充期間なのだ。


 それでも、国王は、竜狩りを許可した。


 その理由は。


「今回は、類の無い機会を頂き、まことにありがとうございます。この機を決して無駄にせぬため、誠心誠意努力致します」


 弟子の方が、超丁寧な態度にて、王に礼を述べた。玉砂利の上で、正座になって。


「痛くない?」


 王は、フランクに弟子に話しかけてくれた。


「はい」


 弟子も、ガチガチに緊張した様子はない。



 その姿勢を見て、王は頷いた。


 よく鍛えられている。たかが石に体重を預けた程度で痛がるようなら、竜の相手など、とても無理。


 まあ・・・師匠の方のように、ちょっと手を付いただけで岩石を破壊しても、生活には不便だろうから、そこまでじゃなくて良い。


「じゃあ。そういう事で。早い者勝ちだから、頑張ってね」


「ああ」


 師匠と弟子は、王に礼をした後、普通に帰って行った。



 王は、池の鯉にえさをやりながら、呟く。近衛の誰か、話しかけてくれないかなと思いつつ。


「若獅子達がこの国を支えてくれるようになるまで。平安でありますように」


 近衛らは、王のお言葉に陶酔していたので、誰も話しかけてくれなかった。




「師匠。早い者勝ちなんですね、本当に」


「ああ。向こうも、修行したいだろうしな。5匹か。こっちで、3つは狩りたいな」




「こっちで、5匹全部ぶん取る。向こうに渡す事はねえ」


「うぃーす。でも良いんすか?ヴェルグさん、ブチ切れるんじゃないっすか」


ハッ


 鼻で笑った男は、付き従う若い男に言う。


「おれを誰だと思ってる」


「その質問の意味が分からないっす」


ハッハッハ


 大笑する男に、若い男はぶん殴られた。


「おれ様こそが、勇者メイストーム。人類は、おれに道をゆずるんだよ」


「うぃっす!流石っす師匠!でも、ヴェルグさんも同じ立場の戦士っす!やっぱ意味分かんないっす!」


 もう一発殴られ、今度は若い男は完全に気絶した。


「全く。最近のガキはひ弱だな」


 おれほど優しい男じゃなけりゃあ、置いてけぼりだぜ。勇者メイストームは本気でそう思いつつ、若い男を引っ張り上げ、竜の谷へ急ぐ。

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