灰の川(1)
エンターテインメント要素を重点し初投稿です。反革命要素はありません。
※ほんももかわ文学賞応募作品
南側の丘から複数の黒煙が上がるのが見える。そこで起こった事態の帰結については嫌でも想像がついた。枯れ川の川床を戦車だったものの燃えカスで埋め尽くすまで続いた永い睨めっこにもようやく終わりの時が来たのだ。2時間前に袋叩きにしたM4の残骸以外に敵の姿はない。しかし近づいてくるエンジン音と砲声が我々の中隊に緊迫を強いた。無線封止を破って飛び込んできた第7中隊の声は隊員の耳にもこびりついている。幸いこちらの位置は敵に知られていない、帝国主義者の羽虫どもがやかましい空模様ではそれも長くは続かないだろうが、今はそれだけが頼りだった。後衛が押しつぶされる前に傷口を塞がなくてはならない。そしてそれは我々の役目なのだ。
「隊長 移動ですか」「予備陣地に後退する。丘から街道に降りる道を塞ぐぞ」「了解 ロト1から本物中隊全車両、予備陣地へ後退する」了解の声が帰ってくるのとアンチエビデンス弾の雨が降ってきたのは同時だった。
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2週間前にこの水無川、通称「灰の川」東岸に大隊は進出した。行軍の途中でフミンバイン軍曹のKV-2が路上の東京チカラめしにぶつかり修理不能となって脱落、到着したのは11両だった。概念陸軍本部が通達した大規模反攻作戦は非常にうまく行っていた。戦略目標であるフェミニストブルグ…の廃墟を占拠した後ポモ川支流沿いの地域に防御線が設定され、われわれEcht(本物)中隊は川岸にある2つの陣地の間の防御を命じられたのだ。
はたしてその日のうちに帝国主義者共が押し寄せてきた。北側陣地では中性的エビトルーパーがブンカーに立てこもり5.7cmタカシポム速射砲と対現代アート地雷で応戦し敵のRT攻勢をほぼ撃退することに成功していたが、南側のしんかい綜合警備保障独立警備員大隊が押され始めると我々はその援護に駆り出された。GMC、我々が言うところの駆逐戦車だけで構成されたその奇妙な戦車中隊はHIRAKI車両とは思えない防御力で我々を苦しめた。敵の攻勢初日に側面に回りこまれて弾薬庫を撃ち抜かれたゾウガメ伍長の7号車Hetzerが爆発炎上し、3日目には砲塔前面FAT装甲を貫通されたさっきぃキン生主のⅣ号G型がサーバー接続不良で行動不能に陥っていた。ボリシェビキのT-34はトランスミッションがイカれ、漬け物曹長のPantherDはターレットリングが破壊されていた。5日目に交代でやって来たサンリオ中隊はその日の夜半に敵と遭遇してしまい、混乱の中同士討ちまで始まり半数が撃破または行動不能、作戦行動が可能なのは残りの半数のさらに半分にすぎないという有り様だった。敵は既に少なくとも21両を失っているはずだったが、来る日も来る日も攻勢は止む気配がなかった。ゲンロンサティアンからヨクシラ機甲部隊は無限に供給されてくるのだという噂が中隊内でまことしやかに流れ、また敵の金髪中年率いるファシストしばき砲兵大隊の支援砲撃は我々の気力を確実に奪っていった。前線は波打つ蛇のようにあちこちで前進と後退を繰り返し、終わりがなかった。我々は粘り強く戦闘を続けたが、慢性的な疲労が中隊を責め苛んでいた。